表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
73/113

目が覚めて②

「それは……」



 その通りなのだが、全てを思い出した今はあまり言いたくない。それに、母が戻ってくる可能性があるというのに、母が気にするかもしれない内容を言うのは憚れた。



「否定は肯定と取るけどいい?」



 責めるような視線で睨まれ、悟る。これは絶対に聞き出す気満々だと。



「あの、その前に、いいですか?」


「なにかしら?」


「オレ、このまま入院ですか?」


「そうね。検査して様子見っていうことで、入院することになるでしょうね。とは言っても、問題がなかったら一日だけね」


「それでしたら、その……母が帰った後で」



 志津恵は咲夜の目をじっと見つめた後、小さく頷いた。



「分かったわ。ちゃんと話してくれるのならそれで」


「ありがとうございます」



 ホッと息をつく。これで母に聞かれる心配はない。



「それ以外にとくにないのね?」


「はい」


「分かったわ。入院手続きも終わっているから、丹羽さんにはとりあえず帰ってもらうわ」


「手続き、終わったんですか?」


「いつ目覚めるか分からないし、目を覚まさなくても検査はしなくちゃいけないから」



 この時間帯だしね、と付け加えながら、志津江は壁に掛けられている時計を見やる。咲夜も時計を見やった。時刻はもうすぐ九時になる。なるほど、この時間帯では検査が出来ない。



「着替えも持って来てくれているし、面会時間も終わるから今日はこのまま帰らせておくわ」



 志津江が立ち上がり、扉のほうへ歩く。



「それじゃ、またね」



 そう告げて、病室から出て行った。改めて病室を見渡すと、ここは個室のようだ。


 個室は高いらしいのに、見知らぬ人と一緒にいるのが苦痛に感じる咲夜に、母が気を遣ってくれたのだろうか。


 いつもなら申し訳なくて罪悪感が込み上がってくるが、今はありたがった。大部屋だったら一人で考える時間がなかっただろうから。



(これから、どうしよう)



 思い浮かぶのは、久留島類の後ろ姿。保健室の帰りに擦れ違ったときに見せた、拒絶する背中。



(今でも、運命の番はいらない、とか思っているのかな)



 いや、思っているだろう。面倒くさいって言っていたから。



(だったら、なんでオレに話し掛けてきたんだよ)



 いらないのなら、あのまま話し掛ければ良かったのに。


 咲夜のことを知りたかったとはいえ、あんなことを言った咲夜と関わらないほうが、久留島類にとって賢明な判断なのに。


 その知りたいというのは、そんなに大きなものではなく、ちょっとした好奇心の筈だ。好意からの興味ではない。


 決して、自分が必要になったわけではない。今も昔も、久留島類にとって自分はいらない存在。



(無責任すぎる)



 いらないのなら、番にする気がないのなら、関わってほしくなかった。あっちから近付いてきて、離れて、また絶望させて。


 身勝手すぎる。最低だ。



(きっと、そういうことを考えることがないくらいに、オレのことなんて)



 次々と浮かび上がってくる、久留島類の表情。浮かんでは摺り抜けていく、その中で引っ掛かったのは。



『ただ、僕がいないときでも僕のことを考えているんだな、と思うとね』



 と、嬉しそうに笑った顔だった。


 あのときは嬉しそうに見えた。けれど、それは違っていて、いつもの空っぽの笑顔ではなかっただろうか。


 もう、何もかもが嘘のように思えてきて、虚しくなった。あの笑顔も偽りのように見えてきて、胸に鋭い痛みが走った。



(もう、信じられない)



 元から信じていなかったけれど、久留島類のことがさらに信じられなくなった。


 そのことが、とてつもなく悲しかった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ