明森の夢
まただ。
また、明森小学校にいる夢を視ている。でも、今度は校舎裏ではない。グラウンドに立っている。
前と違って、周りには人がいた。だが、どれもシルエットだけで、かろうじて男女が分かるが、顔を判別することができない。
同じ背格好の影を見渡していると、一人だけ色がついている子がいた。
その子は他の影とサッカーをやっていた。やっていた、とは違うかもしれない。他の影がサッカーをしている中、一人だけとてもつまらなそうな顔をしている。
その子に見覚えがあった。思い出せないけれど、知っている子だと直感した。
そんな風に感じているのは、夢の中の自分なのか、それとも現実の自分なのか。そういうのを考えられないほど、頭がぼんやりしている。
その子から目を離せない。
他の子と違う子。とてもキラキラした子。今まで感じたことのない衝動が、自分を殴った。
――ああ、あの子が
あの子が…………………………なんだったっけ?
ゆっくりと瞼を開く。最初は視界がぼやけていたが、次第にはっきりと見えてきた。少し黒ずんでいる白い天井と、天井に釣られているクリーム色のカーテンがゆらゆら揺れている。
しばらく呆然して、寝る前のことを思い出した。頭は寝る前よりか大分楽になったが、まだズキズキと痛い。だが、授業を受けても問題はないくらいには回復した。
喉が渇いた。横を見ると、ペットボトルの麦茶が一本転がっていた。養護教諭が置いてくれたものだろう。見たところ未開封のようだ。
ゆっくりと上半身を起こして、麦茶を手に取って開封して飲む。喉を潤して、息を吐き出した。
(なんか、明森の夢を視たような気がする……)
内容はよく思い出せなかった。ただ、キラキラした何かが出てきたような気がする。
ズキッと頭痛がする。まだ痛むが、授業に出ないと。
足を床に着く前に、カーテンの向こう側から声を掛けられた。
「丹羽君、起きた? カーテン、開けても大丈夫?」
「はい」
養護教諭の声だったので、返事をする。シャッと音を鳴らしながら、カーテンが開かれた。
「おはよう。気分はどうだい?」
「だいぶ楽になりました」
「治ったわけじゃないんだね?」
「でも、授業は受けられそうです」
「まだ頭痛がするなら無理はしないで、家に帰っていいんだよ?」
「大丈夫です」
授業には追いついているが、それでも胡座を掻くつもりはない。出来るだけ参加しておかないと、後々響くことになるかもしれない。
養護教諭が少し肩をすくめた。
「そう。無理だと思ったら、我慢しないでまた来なさい」
「はい。あ、麦茶、ありがとうございました」
礼を言うと、養護教諭はにっこりと笑った。
「どういたしまして。麦茶は痛みやすいから、早く飲んどいてね」
「分かりました。ところで、今は何時ですか?」
「お昼の半分、といったところかな」
そんなに経っていたとは、思っていなくて軽く目を見開く。どうりで頭が怠いはずだ。とりあえず、麦茶は弁当を食べるときに、全部飲みきろう。
「じゃあ、教室に戻ります。ベッドを貸してもらって、ありがとうございました」
「いいって。こういうときのためのベッドなんだし。再三言うけれど、無理はしないようにね」
「はい」
頷いて、ベッドから降りる。養護教諭に頭を下げてから、保健室を出た。
昼休みだというのに、人気がない廊下を歩く。遠くで喧噪が聞こえてくる。
(半分って言っていたから、多分暦にバレているだろうな……)
過保護な幼馴染みの反応を想像して、心が重くなる。
暦を宥める方法を考えなくてはいけない。
(四限分の授業、誰に訊こう……)
最初に浮かんだのは、久留島類の顔だったがすぐ却下した。まだ話し合ってもいないのに、教えてもらうのは烏滸がましい気がする。
(いや、それを理由に話し掛けて……)
話し掛けて、その後は。
(なんか、拒否されそうな気がする……)
直球な言い方ではないが、遠回しに断られそうな気がする。そう考えると、だんだんこのままそっとしておいたほうが良い気がしてきた。
(うん、今はそっとしておこう。あっちから目が合うようになってからでも、いいんじゃないかな)
そうしたら、拒絶される可能性が低くなる。話すのは、それからが良い。授業のことは、前の席の男子に訊こう。
そう決めたときだった。前方から足音が聞こえたのは。




