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犬と猫の話

 五組に入った瞬間、二人は出入り口で盛大な溜め息をつきながらへたり込んだ。



「どうしたんだ?」



 窓際にいた生徒が、不思議そうな顔で二人に声を掛けてくる。



「ちょっとラスボスと対面していたというか」


「そっかぁ。大変だったな」



 錦の返答に適当な返事をした生徒は、手に持っていた本に視線を落とした。


 立ち上がって、錦を立ち上がらせる。そして錦の席へと案内させた。



「お前なぁ! もっとマシな言い訳があっただろ!」


「すまねぇ……俺も言って指スマはないなぁって思った」


「だからって立ち相撲もないと思う」


「よし、なら今から立ち相撲やるか? 噂が流れて、誤魔化していなかったって思ってくれるかも」


「嫌だよ!」



 きっぱり拒否をする。そんな噂が流れたら、恥ずかしい。

 錦は自分の席に座って、仰け反った。



「初めて久留島と話したけど、アイツって猫みたいだな」


「猫?」



 考えてみる。言われてみれば、確かに猫っぽいな、と思った。


 気まぐれなところとか、飄々としているところとか、身軽っぽいところとか。



「そう、猫! うちで飼っている猫の拗ねている顔と同じ顔!」


「猫飼っているんだ」


「黒ブチの猫な。ちなみに名前はニャンゴロー」


「なんでニャンゴロー」


「吾郎っていう顔をしていたから、ニャンゴロー」



 普通に吾郎でも良かったのでは、と思ったが他人の猫の名前を突っ込むのはいけない気がするので、それ以上は言わないでおこうと決めた。



「ニャンゴロー、こんなんな」



 と言って、スマホの画面を見せられる。ロック画面が猫の写真だった。椅子の上でお行儀良く座っている、黒ブチで金色の瞳をした、可愛いとは言い難い顔の猫が映っていた。



「言われてみれば、確かに吾郎って感じがするような」


「だろ? こういう顔しているけど、甘えん坊なんだぜ! 机の上には上がらない良い子でもある!」


「そ、そういえば野良っていう顔をしているけど、元は野良猫か?」



 と、他の写真を見せようとするので、それを制した。



「捨て猫。その頃はまだ子猫だったけど、学校の前で捨てられていたコイツを拾ったんだ」


「へぇ。動物いいよな。オレも飼ってみたい」



 飼うとしたら犬だ。経済的には飼えるには飼えると思うが、日中は誰も家にいないから、留守番させるのは可哀想だから、丹羽家では無理だろう。



「猫はいいぞ」


「うちの家族、どちらかというと犬派」


「猫を飼ったら猫派になるぞ。うちの親父も犬派だったけど、今では猫派」


「うちの父さん、猫アレルギーの気があるから、根本的に無理だ」


「アレルギーなら仕方ないな。じゃあ、毛がない猫とか、アレルギー反応が起きない猫っていうのは?」


「やたらと猫を推すな……アレルギーが出ない猫はいないだろ」


「ところがどっこい。とある描種がそうだという噂があってだな」


「でも、母さんが猫は飼いたくないって言うし。多分うちは犬のほうが性に合っているというか。あ、猫を否定しているわけじゃなくて」


「相性なら仕方ないな。犬も犬で可愛いもんな」



 気分を害した風でもなく、錦は納得したように呟く。



「俺、犬ならあれがいい! ジャックなんとかっていう」


「ジャック・ラッセル?」


「そう、それ! 一緒に遊んだら楽しそう」


「あれは初心者に向かないぞ」



 軽く一蹴する。あれは初心者が飼うと酷い目に遭う犬種だ。主に元気すぎて。



「一緒に遊びたいんなら、コーギーのほうがいいと思う」


「むっちりボディの胴長のやつ?」


「そう。換毛期がすごいけど」



 隣の家のコーギーを思い出す。ちょうど今の時期が換毛期で、ブロック抜けが浮き出ていた。



「でも、たしかにコーギーも可愛いよな。コーギーも遊ぶのにいいん?」


「狩猟犬だから体力があるし、遊ぶのが好きだな。うちの隣のコーギー、嬉しそうにボールを追いかける。しかも、ちゃんと持ってきて、足下にボールを置いて上目遣いで見てくる。投げないままでいると、切なげに鳴いてくる」


「そ、それは可愛い!」



 錦が少し興奮した様子で、声を軽めに張り上げる。



「なにが可愛いって?」



 隣席の男子生徒が、間に入ってきた。可愛い、という単語に惹かれたらしい。



「コイツの近所の犬の話」



 錦が返事をする。男子生徒は真顔で返してきた。



「詳しく」


「なんだ、お前も犬が好きなのか」



 すると、男子生徒がふんぞり返る。



「犬飼っているやつはそういうものだ。猫も然り」


「でも、犬と猫、飼っている奴の認識ってどっかズレてね?」


「猫を飼っている奴って、猫のことを猫様っていうしな」



 男子生徒が考え込みながら、言葉を紡ぐ。



「犬はどちらかというと、弟とか妹とか家族っていう感じかな?」


「あー。たしかにそうかもな。オレ、ニャンゴローのこと、家族っていうより猫様って感じで接しているから。なんていうか、王子様というかそういうのに近いかも」


「犬もそういう感じがあるけど、家族の中のお姫様というか、そういうニュアンスのような」



 その後もその男子生徒と錦とで、予鈴が鳴るまで犬猫談義をした。途中で鳥を飼っている夢野も混ざり、談義は複雑化した。


 もう久留島類のことも、指スマや立ち相撲のことも、頭から抜け落ちていた。

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