作詞①
段ボールの中を開くのは、意外と楽しかった。見たことのない機械が、次から次へと出てきて好奇心を刺激された。
荷物を解き終わった後は、機器の説明をしてくれるという。スピーカーなどを移動させ、小さい機械は種類別に机の上に置いた。
錦が大雑把に大きな箱の中に入れようとしたので、個別にしたほうが分かりやすいのではないか、と意見したら採用されたが、ちょうどいい箱がないので、錦が帰りに百均で買うことになった。
「けっこうスタジオって感じがしてきたな」
荷物を全部解き終え、指定の場所にセットした機械たちを眺める。音楽スタジオやライブハウスに入ったことはないが、こんな感じかな、というくらい雰囲気が変わった。楽器と小さな機器しか置いていなかった部室が、それらしくなったのは感慨深い。
「ほんとサンキュー! 俺だけじゃ今日中に片付けられなかった」
「どういたしまして」
元々あったパイプ椅子に腰を下ろし、そんな会話をする。
まだ時間があったので、今日手伝ってもらった報酬として、ペットボトルのお茶とチョココロネを奢ってもらった。
「コードも繋いだし、いつでも演奏ができる状態! アイツらも大喜びだよ」
部員たちの喜んでいる姿を思い浮かべたのか、錦が満足げな笑顔で機器たちを見ている。
「そういえば、どうして軽音部を創部したんだ?」
「今のうちにやりたかったから。高校卒業したら、出来ないかもしれないだろ。それにディアホラのライブで使っている難しい機械も興味あったし、もっとディアホラについて理解を深めようと」
「お前……絶対に後者が本音だろ」
「あ、バレた?」
魅瑠と比べて可愛くないテヘ顔に、咲夜は苦笑した。不純な動機だが、気持ちは分かる。
「部員を集めるの大変だったんじゃないか?」
「あー。そうだな。ベースはすぐに見つかったけど、ドラムとキーボードやってくれる奴がなかなか見つからなくてな。上の学年に探しに行く度胸もなかったから、ベースと一緒になんとか探し出したんだよ。つい最近、やっと見つけて創部届を出した」
「すぐ受理されたのか?」
「そこは理事長の孫パワーで」
「権力いっぱい使っているな」
滅多に権力を使わないってさっき言っていたような気がするが、気のせいだったのだろうか。もしかして、ベースのためなら手段は選ばないのだろうか、ベース担当の人は。
「あはははは」
錦が棒読みな笑い声を上げた。
「とりあえず、今の目標は文化祭まで数曲作ることだな」
「……」
話を無理矢理、転換させられた。下手な逸らし方だったが、これ以上掘り下げるつもりはなかったので、話に乗ることにした。
「そういえば、部活は最近出来たばっかりなんだよな。まだ曲は作っていないのか」
「実は一曲だけ作っているんだ」
「へぇ。誰が作ったんだ?」
「キーボードの奴。ただ」
「ただ、なんだよ」
一旦、間を置かれる。錦は渇いた笑みから一変して、真顔になった。もしかして、早くも音楽性の違いというよくある問題にぶち当たってしまったのだろうか。
咲夜も固唾を呑んでいると、錦の口が開いた。
「曲だけなんだよ」
「は?」
「作ったのは曲だけで、作詞はまだなんだよ」
咲夜は脱力した。
「なんだよ。深刻そうだったから何かと思えば……なら、作ったらどうなんだよ」
「ベースを除く部員、かろうじて国語三以下だと言ったら?」
「……」
この学校では成績は七段階に分けられている。三以下ということは、半分以下の成績ということで。
「しかも語彙力がない。エモいとか、マジやべぇな並の言葉しか引き出せない。ベースは国語六だけど、勉強ができるっていうだけで言葉遊びっていうのかな。そういうのはからっきしなんだ」
「あー、うん。たしかに深刻な問題だな」
世の中には語彙力が足りない、もしくは抽象すぎて意味の分からない歌詞もあるが、語彙力も高いとされるディアホライズンを聴いてきた錦にとっては、意味深な言葉を操って世界観に引き込むというのが理想なのだろう。気持ちが分かるので、語彙力がなくても作詞すれば、という軽々しい言葉を掛けられない。
「どんな曲なんだ?」
「聴いてみるか? スピーカーの調子も確かめたいし」
今日届いた内の二つである、音楽観賞用のスピーカーを指さしながら、錦が提案してきた。
「いいのか?」
「おう。丹羽だったらいいぜ。部長の俺が許す」
「キーボードの奴にも訊いたほうが」
「いいって。むしろ感想を聞かせてくれ」
そう言いながら、錦がノートパソコンが置かれている机に向かう。どうやらパソコンで曲を作っているようだ。横にはパソコン用のスピーカーが置かれている。ノートパソコンにもスピーカーが内蔵されていると思うが、良い音で聴きたかったのかもしれない。
「そっち行ってもいいか?」
「いいぞ」
パイプ椅子を持って、隣に腰掛ける。『曲1』というファイル名をダブルクリックして、音楽が流れた。




