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軽音部の部室

 軽音部の部室は、校舎裏にある旧部室棟という場所の一室にあった。


 校舎裏は木々に覆われていて、一階建てだったこともあり、すっぽり埋もれていたから校舎からはそれが見えなかった。



「こんな所に部室棟だなんてあったんだな」


「今は使われていないんだ。防音はないけど、部室はがら空きだから、音漏れを気にしなくていいんだ。めっちゃ良いぞ」


「よく使われていないところを貸し出すことができたな」


「持つべきは理事長の孫である部員」



 ドヤ顔で親指を突き出した錦を、半眼で見据える。



「ああ、うん。そういうことか」


「弁明しておくと、ソイツは普段じいちゃんの権力に頼っていないぞ。ただ、学校でベースを弾く場所を作るために体を張っただけ」


「そ、そうか。家で弾けないのか?」


「早朝に弾きたいらしいんだけど、防音がないから近所迷惑になって思いっきり弾けないのがストレスらしくてなぁ。軽音部作ろうぜって誘ったら、めっちゃ張り切ってくれた。だから部室の鍵は、俺とソイツが持っているんだ」


「なんでだよ」


「俺、早起きとか無理だし。でも一応部長だから、建前として持ったほうがいいし、でもわざわざ鍵を届けるのも面倒っていうことで、ここも権力で合い鍵を作らせた」


「……」



 権力を濫用していないのだろうか、と心配になってきたが、生徒には迷惑を掛けていないみたいなので、気にしないことにした。


 部屋の前に着くと、錦が鍵を取り出して扉を開く。


 建物は蔦が這っていて古い印象を受けたが、中は綺麗だった。一生懸命掃除したのか、元々からこんなものだったのか分からないが、外と中とのギャップがあった。


 部室のわりには広かった。小さなスタジオくらいあるのではなかろうか。奥には楽器が置かれている。キーボードとドラム、ギターにベース、合わせて四つある。


 楽器の前には大きな段ボールが数個、ずっしりと構えていた。おそらく、錦が言っていた周辺機器はこれのことだろう。



「錦の担当ってなんだ?」


「ヴォーカルとギターの兼任」


「お前がヴォーカルなのか?」


「受取人って自然と歌が上手くなるだろう?」


「ああ……」



 咲夜は納得した。


 ディアホライズンは、リーダーが作詞、作曲、編曲をしているが、歌ってはいない。曲に合った歌声の歌手に歌ってもらうのだ。メディアにはあまり出てこないが、実力派ばかりが集まっている。


 だから受取人たちは、最初は歌が下手でも聴いているうちに歌が上手くなる、と囁かれている。



「というわけで、俺が一番歌唱力があるからヴォーカルになったんだ。本当はヴォーカルに集中したいんだけどな」


「バンドって最悪キーボードがいなくても、成り立つんだろ?」


「キーボードだって欲しいじゃん? その分音を合わせるの大変だけど、表現の幅が広がるだろ? つまりそういうことだ」


「なるほど」


「おかげでヴォーカルよりも、ギター練習しかやってないけどな!」



 ははは、と声を張り上げて笑う錦。清々しく、なるようになる、という感じの楽観的な笑い方だった。



「それはそうと、アレだろ? 周辺機器って。セットするか」


「おお! そうだった! それじゃよろしくな」



 錦が腕を捲った。実際は半袖だから捲る袖はないが。



「あ、楽器に当たらないように気を付けろよ。キーボードはともかく、ベースに当たったら、嘆き悲しむから」


「分かっている」



 先程の話を聞いていれば、ベースが大好きだということは想像できる。それに、大事な楽器だ。当たらないように細心の注意を払わなければ。



「なぁ。どっちがベースなんだ?」



 バンドの基本の楽器は、ドラムとギターとベースだということは知っていたので、似たような楽器が二つあってもギターとベースだということは分かった。だが、違いを知らないので特に注意を払うべき楽器が分からない。



「弦が四つなのがベースな。ギターは六つ」


「弦が四つのほうが、ヴォーカルをやっているお前がいいんじゃないか?」


「ベースのほうが重要なんだぜ? ヴォーカルとギターがまぁまぁ下手でもベースが優秀なら補える。だから、ベースはベースで集中してくれたら、俺的には大助かりだし、ベース馬鹿からベースを取り上げれないだろ?」


「確かに」


「それとギターのほうがリズム取りやすいっていうのもある」


「そういうものか?」


「ギターは基本メロディーを弾くからな。俺にとっては、そっちのほうが弾きやすい」



 錦が段ボールを開ける。咲夜も中身を覗いてみた。中には大きな箱が入っていた。写真があるが、見たことのない機械だった。



「これはなんだ?」


「これはアンプ。ギターとベースの音を増幅するやつな。自宅用のやつならベース担当も持っているんだけど、これはライブに使われるやつな。こんだけ大きいと、段ボールから出すのも大変だな」


「段ボール使わないんなら、段ボールを切ればいいんじゃないか?」



 ギッシリ入っているわけでもなく、包装材が隙間なく埋まっているだけだ。カッターで段ボールを切ったとしてもスピーカーの箱に傷は付かないだろう。


 錦がぱあ、と顔を輝かせながら咲夜を指した。



「それだ! よし、カッターならあるから、段ボールを切って行こうぜ!」



 錦が隅にあった机のほうに賭けて、そこにあったカッター二本を取り出した。


 効率は良いんだろうか、と疑問に思ったがとりあえずカッターを受け取った。

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