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受取人②

「まさか…………ディアホラの」


「もしかして、お前も受取人か?」



 受取人、とはディアホラのファンの別称だ。

 それを言うということは、この男も。



「ああ。それ、第二次配達範囲拡大のときのヤツだよな? オレも持っている」


「マジでか! お前もあの場にいたのか! あれ、良かったよな!」


「最高だった」



 感極まった様子で、男子生徒は咲夜の手を握りしめ、ぶんぶんと振り回した。



「身近で受取人と会ったの初めてだ!」


「オレもだ」



 平然を装っているが、咲夜も内心すごく嬉しかった。同志と会えたことがこんなにも嬉しいだなんて、思わなかった。思わず笑みが零れた。



「俺、錦慈郎、五組! お前は?」


「丹羽咲夜だ。二組」



 手を借りながら、立ち上がった。


 改めて、錦を見る。染めているのだろう、金茶色の髪をしている。左耳に小さなピアスを付けている。愛嬌のある顔立ちで人懐っこそうだった。



「そういえば、急いでいたみたいだけど、どこに行こうとしていたんだ?」


「あ! いけね! 部活に行く途中だった!」


「部活? 何部なんだ?」


「軽音部!」


「軽音部? そんな部活あったか?」



 部活紹介では、そんな部活はなかったはずだ。



「俺が作った」


「作った?」


「そう。だから、俺部長」



 胸を張りながら、錦が答える。



「丹羽はどこに行こうとしていたんだ?」


「ああ……幼馴染みの部活が終わるまで、そこら辺ブラブラしようかなって散策を」


「なら、うちの部室に来ないか? けっこう時間があるし、暇だろ?」



 ありがたい申し出だが、咲夜は躊躇した。



「いや、他の部員に迷惑が」



 すると、錦が豪快に笑い飛ばした。



「大丈夫、大丈夫! 他に三人いるけど、みんな補習やら他の用事で来ていないから」


「なら、なんで急いでいたんだよ」


「今日、周辺機器が届いたから、準備しようかなって。ぶっちゃけ、一人で準備するのは寂しいし、重いから来てくれるとめっちゃ助かる」



 やたら真顔で言ってきたので、咲夜は思わず肩の力を抜いて、軽く笑ってしまった。



「なら、手伝う」


「さんきゅ! マジで助かる! それじゃ、さっそく行こうぜ!」



 錦が嬉しそうに跳ねながら、廊下を走って行った。まるで犬みたいな奴だなぁ、と思いながらその後を追う。


 ふと、図書室へと続く廊下が視界を横切る。


 その瞬間、久留島類の空っぽの笑みが脳裏に蘇る。



(アイツはオレを待っているのかな)



 疑問が浮かび上がり、すぐ否定した。



(そんなわけがない、か)



 約束なんてしていない。図書室に行ったら、あっちが寄ってくるだけの関係だ。だから、放課後、どう過ごすかどうかなんて自分の勝手だ。



(アイツも、オレのことを知りたいって言っていたけど、暇潰し程度って感じがするし)



 実際に彼には真剣味がない。だから、気にしないだろう。



(それに……)



 そこまで考えて、立ち止まった。



(それに…………なんだ?)



 その先の言葉が出てこない。まるで、虫食いが酷い書物みたいに、先の言葉が失われていて読めないような。


 頭が痛くなる。だが、書物と睨めっこするのを止めると、痛みが治まった。



「丹羽? どうしたんだー?」



 遠くから錦が呼びかける。顔を向けると、彼は図書室のほうではない廊下の曲がり角で立っていた。



「悪い、今行く」



 錦の許に駆け寄る。


 図書室に続く廊下を通り過ぎて、もう一度見てから駆け足で錦の許へ急ぐ。


 後ろ髪を引かれている自分がいる。そんな自分から、目を逸らしたかった。

(にしき)慈朗(じろう)

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