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図書室で久留島類と③

「あ、区切りついた?」



 咲夜の手が止まったことに気付いた久留島類が、ヘッドホンを外して訊ねてきた。



「ああ」


「これ、ありがとう」



 ヘッドホンを手渡しされ受け取る。元の首の位置に戻して、停止ボタンを押した。



「そのヘッドホン、性能良いねぇ。重厚な音なのに耳が痛くならない」


「そこかよ」



 確かにこのヘッドホンは高かった。ディアホラの音楽をより良い環境で聴きたくて、小遣いを貯めて買った。二万円もした。その分もあって、性能が良い。だが、そうではない。感想を言うところが違う。



「このヘッドホン、高かったでしょ」


「まあな」


「やっぱり高いヘッドホンは違うなぁ。今度それくらいのヘッドホンを買おうかな」


「音楽聴くのか?」


「あまり。でも、どうせなら耳が痛くならないヘッドホンで聴きたいじゃない」


「まあ、そうだな」



 そんなにホイホイと買える物ではないが、学生の身でも家が金持ちだから懐が痛くないのかもしれない。だから、高い物でも買おうかなと軽く言えるのだろう。



(金銭感覚の違い、か)



 久留島類と話していると、たまに住む世界の違いの差を感じることがある。感じてなにになるか、と訊かれればとくにないと言うしかないが、距離が五センチほど開いていくような気がして、なんだか胸が空く。なんで空くのか分からないけれど。



「まあ、ヘッドホンの感想は置いといて。あまみゆう、だっけ? 悪くなかったよ」


「気に入ったか?」


「音楽もさることながら、歌詞も暗いね」


「明るい曲もあるぞ」


「それもあったけど、なんていうか暗いほうがこの人の真骨頂って感じがする。世界観がぐってなる」


「言いたいことは分かる」



 かという咲夜は、暗い曲のほうが好きだ。明るい曲もいいのだが、やはり暗い曲のほうがドロドロ感が増すうえに歌声と合っているので、そちらばかり聴いている。



「咲夜くんって引きこもり体質なんだね」


「なんだよ、いきなり」



 しかも断定した言い方だ。ムッとしたが口を噤んだ。自分の買い物はネットで済むし、家の買い物以外は暦の家に行くくらいだから、否定は出来ない。


 だが、それがなんだというのだ。



「別に。ただ、自分の殻に閉じ籠もりたいのかなって」


「はぁ?」



 久留島類がにぃっと笑う。今まで見たことのない類いの笑みだった。



「ディアホライズンも世界観が独特だから、そうなんだろうなって」



 たしかに、ディアホライズンはストーリーが明確で、世界観がしっかりしている。ストーリーがあるからこその独立した世界観を織りなしている。


 だが、世界観が独特なのが好きなのと引きこもり体質と、どう関係しているというのだろうか。



「そういった意味では、似た者同士だね。僕たち」



 そのとき、チャイムが鳴った。部活が終わった合図だ。


 暦と合流しなければならない。ノートと教科書を仕舞っている途中に、久留島類が腰を上げる。



「それじゃ、また明日ね」



 返事はしなかった。久留島類は笑みを絶やさないまま、出入り口のほうへ去って行く。見送らず片付けていると、親しみのある声に話しかけられた。



「咲夜」



 振り向くと、暦がこちらに向かって歩いてきていた。咲夜は首を傾げる。


 つい先程チャイムが鳴ったばかりなのに、来るのが早すぎる。それも気になったが、それよりも暦の表情が気になった。


 いつもなら笑みを浮かべながら来るのに、険しい顔をしていた。まるで怒っているようにも見えて、咲夜はビクつきながらおそるおそる暦に話しかけた。



「こ、暦? 怒っているのか?」


「怒っていないよ」



 淡々とした返事は、氷のような冷ややかさがあって咲夜は顔を引き攣る。


 暦がこんな風に、静かに怒っているのを初めて見た。それなのに何故だろう。この怒り顔に既視感があるのは。



「うん、咲夜に怒っているわけじゃないから、そんな顔をしないで」


「じゃあ何に怒っているんだよ」



 やっぱり怒っていた、とか思ったのだがそれよりも何に怒っているのか気になった。


 暦は口を澱みながら、出入り口のほうを一瞥する。



「ちょっと、部活でね」



 それだけ言った。そうではないことは様子から分かったが、追及する前に暦が言い募った。



「それはそうと咲夜。さっき久留島君と擦れ違ったけど、まさか一緒にいたの?」



 咲夜は罰悪くて、そっぽを向いた。


 せっかく久留島類と接触しないよう、朝と昼も一緒にいてくれるのに放課後に接触したのではあまり意味がない。


 視線を逸らしながら、答える。



「あっちが勝手に居座っただけであって、オレはいたくて一緒にいたわけじゃない」


「それは分かっているよ。もしかして、今日だけじゃなくて毎日一緒にいたの?」


「まあ……………………うん」



 躊躇したが、騙そうとしたところで騙せない、と観念して吐いた。



「ふーん……」



 暦が低く相槌を打つ。

 冷ややかな視線の先は、出入り口のほうだ。


 咲夜に怒っていないというのは本当のようだ。もしかして、久留島類に怒っているのだろうか。


 だが、何故そんなにも久留島類のことを敵視しているのだろうか。いくら暦が咲夜に対して過保護だからといって、この怒り方はおかしい。そういえば、久留島類も不思議そうにしていた。



「咲夜」



 暦が咲夜に振り返る。もう怒ってはいなかったが、目が刃物のように鋭かった。にっこりと笑顔を浮かべて、言い紡ぐ。



「帰ろうか」


「あ、ああ」


「帰りながら、久留島君対策について話し合おうか」


「お、お願いします」



 有無と言わせない雰囲気に、思わず敬語で答える。

 片付けが終わり、咲夜は席から立ち上がって急いで暦の許に向かった。

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