図書室で久留島類と②
大体、暦と咲夜では結婚ができない。Ωの男性は女性を孕ませることができないので、βの女性とは法律上、結婚できないのだ。結婚できるのは、αの男女とβの男性だ。
そもそも、大事な幼馴染みとして接しているが、異性として見たことはない。それは暦だって同じだ。
「そういえば、僕あの子に嫌われているような気がするんだけど」
「ノーコメントで」
「それって肯定しているってことだよ」
久留島類が肩をすくめた。
「僕、あの子に嫌われるようなことをしたのかな? 身に覚えがないんだけど」
「存在自体が気に食わないんじゃないか。お前にとって気にするほどのことでもないだろ」
他人にとことん興味がないということは、会話の中で分かっている。何故か咲夜に興味があるようだが、暦は興味がある分類に入っていないだろう。二人には接点がないのだから、尚更だ。
「そうなんだけどねぇ」
煮え切らない返事に、咲夜は辟易した顔で久留島類を見やる。
「なんだよ、ハッキリ言えよ」
「咲夜くんに関してのことだから、ちょっと気になるってだけだよ」
さらりと紡がれた言葉に、咲夜は怪訝になりながらも返事はしなかった。
咲夜に関することになると、意味が分からない返事になるのは分かりきっている。それを追究しようにも本人も分かっていないので、聞き返しても無意味だ。
(オレのことを知りたいって言っていたけど、なんで知りたいのかまだ分かっていないみたいだし……いつまで続くのか)
出来れば、今すぐにでも終わらせたい。でも、できない。拒絶の言葉は言えるのに、強く言い出せない。
強く言っても無駄だから。そんなのただの言い訳に聞こえるくらいに、強く拒めない。何故なのか、自分でもよく分からない。
(もしかして、コイツが抱えているモヤモヤってこんな感じなのかな)
だが、それを知りたいと思っている久留島類とは違い、このモヤモヤの正体を知ろうとは思わない。知りたくもない。知ったらいけない。
ふと、幼い自分の姿が過った。
その瞬間、頭痛が酷くなった。それはすぐ治まったが、いつもの鈍い頭痛は治まらない。
「で、実のところ、あの子が僕を嫌う理由はなんだと思っている?」
「多分、お前の愚痴を言っているからだと思う」
「それ、本人の前で堂々と言う?」
「言わなきゃ納得しないだろう。暦はオレに対して過保護だから」
「ああ。要するに咲夜くんのことを弟のように想っているから、僕のこと気に食わないってこと?」
「それが一番近いかな」
性格が気に食わないのも一つの要因だろうが、それは言わないでおく。言う必要性を感じられない。
久留島類が黙り込む。もしかして、何か気に障ったのだろうかと一瞥すると、久留島類はニヤニヤと笑っていた。
その顔に邪気は見られず、若干嬉しそうにも見える。
「なんだよ、その気持ち悪い笑い方」
「ひどいなぁ。ただ、僕がいないときでも僕のことを考えているんだな、と思うとね」
「なんでそれで嬉しそうなんだよ」
久留島類がきょとんとする。
「僕、嬉しそうかい?」
「ちょっとだけ」
「嬉しそうか……うーん……なんでだろうね?」
「知るか」
僅かに首を傾げながら問いかけてくる久留島類に、冷たく一蹴する。
どうやら自覚がなかったらしい。声のトーンからして、本当に自分でも分からないのだろう。
「それで、納得したか?」
「一応かな」
「そうか」
一応なら十分だ。視線をノートに戻そうとしたとき、久留島類が呟いた。
「でも、理由はそうじゃないだろうな」
よく聞き取れなくて、咲夜は首を傾げた。
「なんて言った?」
「別に? とくに意味ない呟きをしただけだよ」
にっこりと笑った久留島類の顔がどことなく虚無で、誤魔化しているのはなんとなく感じ取ったが、興味がないので流すことにした。
「それはそうと咲夜くん」
「なんだよ」
「ディアホライズン以外に好きなアーティストっているの?」
咲夜が怪訝な顔で久留島類を見やる。
「なんだよ、いきなり」
「いつも音楽を聴いているけど、もちろんディアホライズン以外のやつも聴いているんだよね? それが気になるなって」
「どうして気になるんだよ」
「言ったじゃないか。君のことを知りたいと思っているって」
知りたいって、そういうのも含まれているのか。
細かいな、と思いながら考えてみる。確かにディアホライズン以外にも聴いている曲はある。その中で、ディアホライズンの次に聴いているアーティストは。
「天海夕、かな」
「へぇ。どんなアーティスト?」
「女性のアーティストで……なんだろう。説明しにくいな」
考えたところで、適した説明が出てこない。しょうがないので、首に掛けているヘッドホンを外して、電源が入った状態で久留島類に差し出す。
「勉強している間、聴いてみるか? そっちのほうが手っ取り早いだろ」
「え、いいの?」
「どうせここだと使わないし」
ここは静かだから、嫌な雑音はない。実際にここでヘッドホンを掛けたことはない。久留島類がヘッドホンを受け取ったのを確認し、ヘッドホンと繋がっている音楽プレイヤーの電源を付ける。
名曲が入っているアルバムを選び、久留島類がヘッドホンを付けたのを確認して話しかけた。
「と、いうことで勉強するから黙ってくれ」
「はーい」
間延びした返事だったが、この返事をして勉強し出したら、一息がつくまで話しかけてこないことは分かっている。
再生ボタンを押して、勉強を再開する。
今度は参考書の問題をやっていく。参考書の問題をノートでやり、分からないところは参考書の解説を見ながら解いていく。
二ページ分の問題を解いたところで時間を見る。それなりに時間が経っていた。




