テスト対策②
咲夜は瞠目した。
そんな話、聞いたことがない。あの日は友達が出来たとしか言っていないはずだ。
「その男子に『咲夜以上に可愛い男子になりなさい。話はそれからだ』って、撃退したの~」
そのときのことを思い出したのか、魅瑠が吹き出した。瓜谷もくっくっと笑いを堪えている。
咲夜は暦を睥睨した。
「暦……可愛いってなんだよ」
「そのまんまの意味だけど」
しれっと言いのける暦に、魅瑠と瓜谷が笑声を上げた。
「笑うなよ!」
「ごめんごめん、でもまあ、そのおかげで友達になりたいなって思ったのだけど」
「魅瑠もぉ! 仲良くなれる予感がしたんだぁ」
「なんでそれで、そう直感したんだよ……」
咲夜は嘆息した。
大体、可愛いってなんだ。可愛いっていうのは、暦と魅瑠のような子のことを言うのだ。咲夜の顔は可愛いとは言い難いし、性格はもっての外だ。身内贔屓にも程がある。
「それはそうと、久留島君除けは上手くいっている?」
「ああ……うん……」
魅瑠が訪ねてきた質問に、咲夜は視線を泳がせた。
実は、自分のことを知りたいと言ったあの日から、久留島類は図書室で咲夜に話しかけるようになったのだ。図書室だけではなく、休み時間にも話し掛けられる。
前までは予習している時は話しかけてこなかったのに、予習をしていても話しかけてくるようになった。
取り巻きにも睨まれているから、止めてほしいところだが、体の良い追い返し方が見つからなくて、立ち尽くしているところだ。
「えーと……なんか休み時間中に絡まれている」
放課後のことは言いにくい。暦が美術部に勧誘してくれるだろうが、気を遣わせたくない。朝のホームルーム前と昼休みだけでも助かっているというのに、これ以上暦を縛り付けたくなかった。
「ああ……それはアタシらにはどうにも出来ない」
瓜谷が申し訳なさそうに呟く。
「ふーん。そう」
暦は低く呟いて、あさっての方を見やった。久留島類の話題になると、暦の機嫌が悪くなるのだ。禁句というほどでもないが、どうやら心底久留島類のことを嫌っているらしい。
「まあ、どんまい? 厄除けのお守りいるぅ?」
「アンタ、なんでも持っているな……でも、うん。厄除けのお守りはいいかな」
「厄除けよりも、縁切りで有名な神社にお参りしたほうがいいと思うよ」
暦の提案に瓜谷が、ああ、と呟く。
「悪い縁をとことん切ってくれる神社のことは、聞いたことがあるわ。でも、それ京都じゃなかった?」
「じゃあ夏休み、小旅行でも行く?」
「進学校に休みってあるのか?」
「どうだろう?」
魅瑠が首を傾げる。
夏休みはあるにはあるが、聞くところによると進学校によっては補習で夏休みが埋まるところもあるようだ。ここは他の進学校に比べると緩いらしいので、ほぼ埋まることはないとは思うが補習はあるかもしれない。
「ない時は修学旅行に期待するしかないわね」
「来年まで待つのかよ」
三年生で修学旅行に行くところもあるらしいが、この高校の修学旅行は二年生だ。それまで待たなければいけないのか。しかも、京都に行くとは限らない。
「まあ、今は目の前のテストのことを考えようよ~。というわけで、こよみ~ん! 古文教えて?」
「咲夜のほうが得意だよ。国語と歴史も」
「さっく~ん!」
「ちょっと待て。その教科も苦手なのか?」
「てへっ」
こてんと首を傾げる魅瑠に、咲夜は溜息をついた。
「得意科目は?」
「体育と公民。情報も得意だよ~」
「なら情報を教えてくれ。等価交換だ」
「咲夜、機械系苦手だよね」
咲夜は暦を横目で見た。
「暦もあまり得意じゃないだろ」
「じゃあ、わたしも教えてもらおうかな」
「よし! 情報は任せて~!」
胸を張る魅瑠から視線を外し、瓜谷を見る。
「瓜谷の得意科目は?」
「体育と保健体育と理科」
「あかりん、理科教えて!」
即座に縋り付く魅瑠を、呆れた顔で眺めた。
「アンタはどれだけ苦手科目があるんだ?」
「スポーツ推薦を舐めないでね!」
「威張ることか!」
「あはっ!」
笑って誤魔化す魅瑠に盛大な溜息を漏らす。
『でもたまにいることない? どうして合格出来たんだろうっていう、お馬鹿さん』
いつぞやの放課後の図書室で、久留島類が言っていた台詞が蘇る。
もしかして、こういうことかもしれないなぁ、と咲夜は思った。




