阿呆の視点――上野で珍道中
強くなり始めた日差しが照りつけ、それに栄える新緑が美しい上野山を訪れた。
これは先日のこと、目的は、今書いているモノのネタ集め。最近、集めているネタは2つ、原発。そして、戊辰戦争と戦後の会津藩の話。
しかし、どうにも書生知識に偏りがちの私は、いよいよ行き詰まりを感じていた。
その打破がために知り合いの作家さんへのインタビュー。先方を名前から捩ってポイズンさんと呼ぶことにしよう。
ポイズンさんは、稀有なことに、会津藩の上級武士の血筋であるようで・・・。また、父親が原発の関連で勤めていらしたということで、私が探求している斗南藩・原発、どちらの話にも、それなりに関わりがある人だった。
少し前、お会いしたのだが、その時は、どうにも短時間で終わってしまったがタメ、詳しく聞くことはおろか、話題を掠らせることもなかった。
そんなわけで、取材をさせてくれないか。と頼んでみたら、あっさりと了承をいただき、会合の場を持つことになった。
――が、時間ギリギリになっても、待ち合わせ場所である野口英世像の前に、ポイズンさんは現れない。
以前のことから、時間に余裕を持って動く人だというのをわかっていたから、どうしたものかと思って連絡をいれたら、どうも少し遅れるそうだ。
ふと見かけた、馬歩をやっていた初老の方が、いつの間にか太極拳の演舞をやり始めていたから、大分時間が経っていたのだろう。
その少し前に、もうひとりの待ち人……こちらもまた名前を捩り、ブリッジさん――としよう。と、挨拶を交わし、ぎこちなくも、打ち解け始めていた。
私が関心を持っている社会事象に興味があるのか、気を割いていただいたようで、それについて少しづつ話題を上げていた。
すると、いよいよポイズンさんが現れた。
100米は言い過ぎかも知れないが、50米ほど離れた距離からも、それをはっきりと認めることが出来た。きのこの如き髪型と、上に乗った獣耳が付いたようなハンチング帽がよく分かる目印だったからだ。
とりあえず、挨拶を済ませ、目的地に向かって歩き始めれば、ポイズンさんは前回の約束の時間を前提に来たらしい。
しかも、新宿から上野に来るならば、中央線を使って、神田あるいは、秋葉原で山手線に乗り換えれば速いのだが、どうも山手線で大きく回ってきたようだ。
こんなコトを表現するはなんだが、ポイズンさんは、相当にドジの部分があるようだ。その予感は間を置かずにあっさりと当たった。
目的地の図書館にて、なんと捜し物の本の題名を失念していた。
もちろん、誘った私が覚えておくべきだったのだが、題名をしっかりとは覚えていなかったのはどうしようもない。
検索機を使っても埒が明かないということで、その場で唯一、時代遅れの携帯電話を使っていないブリッジさんに頼み、捜し物の本を話題にした掲示板を探してもらい、なんとか見つけることが出来た。
そんなこんなで、いつの間にか昼餉の時間となっていたので、昼食を取りながらの談話となったわけだが、青森の恐山の話題から、心霊体験の話題へと転び、イタコの超常現象の事実を話し、作品の書き上げ方や、Web上での在り方から、どうにも非常識人だと思っていたなどと、言われたりと、話題が尽きぬひとときだった。
その後、図書館を後にして、散策をすることに成るのだが、私がリクエストをきちんと聞かずじまいで案内を始めてしまったために、求めるものとはずれた行程になった。私は阿呆を晒した。あるいはブリッジさんが、なぜか食器を間違えてしまって、ポイズンさんが笑い上戸を晒すなどした。
以降は些か気恥ずかしいので、ざっくばらんに割愛するが、知識が豊富にありながらも時折行動で天然を見せるブリッジさん。時折ドジを見せてかつ笑い上戸と言うポイズンさん。せっかちでどこか間抜けの阿呆の私。
それぞれに常識を然りと持ちながらも、欠点を晒しあった様は、なるほど、文章を書くものというのは、こんなものなのかも知れないな。などと思った。
そう言えば、ポイズンさんに、文豪を描いた漫画を差し上げたわけだが、帰り道、あるいは帰宅後に、それを読んでどんな感想を抱いているだろうか……。どんな表情を浮かべながら読んだのか……それを見れないのが少し残念だと思っている。
また、ブリッジさんは、大層知識を持っている方なので、私の軽薄なところで失望させていないかなどと思った。
その思考故、どうにも後悔に苛まれがちの私だが、次また、誰か物書きと語り合う機会が持てればとも思う。己を見直し、他人の思考や発想に触れる楽しいひと時だった。
こんな事が有った……。
いちいち物事を覚えてるし、自分のことマイナス評価しがちだから、どうにもなぁ……。この思考をどうにかしたいなんて思っているけど……ムリかなぁ(遠い目)