9話 いきなり名前呼び系女子には気をつけて
あざすあざす
なんとかお盆を受け取ると、食堂で出てくるラーメンだった。空腹は最高のスパイスとはよく言ったもので、行列のできるラーメンのように見えた。俺行列に並ぶの嫌いだからそのラーメン知らないけど。よくみんな並べるよね尊敬するわ。
「じゃあ先輩、私行きますね」
「ん?どっか用事あるの?」
「はい、怪我人の応急処置とか使える物資の確認とかをやるんで」
「へぇ、そんなんやるんだ。えらいねぇ」
「いえ、先輩たちに比べたら私なんて…」
「あずさちゃん?適材適所というものよ。アズマくんはオツムが弱いからバットを振り回すことしかできないの、あずさちゃんはバットは振り回せないけど怪我人の治療とかができるのよ。みんなで力を合わせて、みんなで生きていくの。むしろあずさちゃんには助けてもらってるわ、みんな同じく大変なのに騒ぐだけで全然働かないクズ…いや悪い人がいるからね」
「…ありがとうございます会長。私頑張ります!」
そう言うとあずさちゃんは教室を出て行った。
「…珍しく口を挟まなかったじゃない?アズマくん」
「それは俺も思ったぞ、まだ調子悪いのかアズマ?」
「2人とも俺のイメージそんな感じなんすか?…俺はもともと会話とかは苦手なんですよ、友達も少なかったし。あと会長が俺を貶めてでもあずさちゃんを励ましてるのはわかったんで、いやほんと俺を貶める必要があるかはわかんないですけど」
「ま、まぁ、私たちに親しく話してくれれば会話が苦手でも大丈夫よ」
「そうだぞアズマ、俺もお前らぐらいしか話し相手いないからどんどん話してくれよ」
「なんで慰められてるんですかねえ…」
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飯を食べ終わると会長に今日はもう自由行動だと言われた。聞くところによると昼飯をみんなで食べた後に学校中を隅々まで探って安全を確認したそうだ。寝る場所も今日はとりあえず好きな場所で寝ていいらしい、まだやることはあるにはあるけど倒れたから流石に休んでいいそうだ。会長の「あ、自由行動と言っても学校の外にでちゃダメだからね?」と言いながらのウインクが妙にイラッときたが休みを貰えたので黙って解散した。腹減ったなあ。もっと食いたいなあ。
タケさんに返してもらった、相棒の名刀政宗を片手に学校をうろつきながら、最終的に屋上に出た。寝床は後で決めればいいだろう。季節的にはもうそろそろ秋か、夕方にもなると学ランを着ていてちょうどいいくらいだ。
余談だが(お久しぶりですね)うちの学校は屋上の出入りは禁止にはなっていなかった。以上。
屋上から学校の外を見てみるとちらほらと火が見えた。二次災害というものだろうか。火が消える様子は10分くらい見てても全くない、やっぱり学校以外でも同じことが起こってて警察とか消防は機能できない状態になっているのか?そりゃそうか、学校だけだったらとっくに助けは来てるか。
「まったく、税金を払っている意味がねぇな」
税金もろくに払っていない未成年が浅はかな知識で公務員を野次っていると、後ろのドアが開いた。
「あ、やっと見つけた。目が覚めたって聞いて会いに行ったら誰もいなかったから探したわよ」
「あん?」
そこには髪がセミロングぐらいの長さをしていて、目はぱっちり二重、鼻も綺麗な筋を通っていて...俺の語彙力じゃ説明できんな。高校生にしては大人びていて、でもあどけなさは少し残っているような美人な子がいた。会長並みに可愛い、うちの高校ってレベル高いのか?それとも変質者ってのは顔面偏差値の低い人間から襲うのか?え、じゃあやばいじゃん、俺そろそろ死ぬわ。バイビー。
「えっと、聞いてる?」
「あー、すまん聞いてなかった」
「そうよね」
「それで、どちら様?」
「え?」
「え?」
え、なにこの子俺の知り合い?この災害?が起きてから知り合った人ではないはずだし、起きる前は俺には知り合いは2、3人しかいなかったよな…悲しくなってきた。とりあえず飛び降りるか。
「あの、危ないから身を乗り出さない方がいいと思うわ」
「そうだな、やめとく」
「話が進まないわね、私のこと覚えてないの?」
「ない。誰だ?」
「即答…三階で助けてくれたわよね?」
「え?あー、あの時の」
「そう、あの時の」
どうやらあの時のようだ。あの時は目が霞んでて顔が見えなかったけど声は聞き覚えがあるような気がしてきた。あの時は大変だったからな。あの時あの時うるさいな。
「で、なんか用?」
「あれ、結構歓迎されてない感じ?お礼を言いに来たのよ」
「お礼はたしかあの時…さっきも言っただろ」
「改めて、よ。ありがとうございました」
「おっけ」
「軽いわね。何か要求とかしてこないわけ?私、これでも可愛い方だと思うんだけど」
自覚あんのか。ここまで可愛くて自覚してないのも嫌味になるけどな。女性って大変なのな。それと思春期の男子に要求とか言うなよゴクリ。あと腹減ったな。
「返事なんてこれくらいでいいだろ、別にあんたじゃなくても助けてただろうし」
「あなたにとっては誰でも変わらなかったかもしれない。でも私は違う。あなたが助けてくれたからあなたが私の命の恩人なの」
「なに?哲学の話?」
「そんなに難しい話じゃないけど」
ムスッとした表情で睨んでくるけど可愛いだけだな。睨むってのはあの猫かぶった会ちょ…なんか背中がゾクっとしたからやめておこう。腹も減ってることだし。
「ねえ、名前教えてくれない?」
「俺の?」
「他に誰がいるの…」
「東 京次」
「私は神崎詩乃。よろしくね」
「おー」
「…」
「…」
え?何この気まずい感じ。今日のゴタゴタで忘れてたけど、会長達にも言ったように俺他人との会話苦手だったわ。神崎も早く帰ってくんねえかな?
「ねぇケイ、一つ聞いていい?」
「いきなりあだ名かよ、なんだ神崎?」
「…その前に、名前で呼んでもいいよ?」
「なんだ神崎?」
「名前で呼んでもいいよ?」
「なんだ神崎?」
「名前で呼んでもいいよ」
「なんだ詩乃?」
何こいつめちゃくちゃ強引じゃん。男の子ってのは名前の呼び方呼ばれ方には敏感なんだぞ、勘違いしちゃうわよ!
「なんでケイはそんなに生きる気力が感じられないの?」
「…は?」
「助けてもらった時はケイも疲れてたからかもしれないと思ってたけど、今でもそう。生きる気力が感じられないの」
「なに?命の恩人をいじめたいの?」
「…自覚ないの?」
失礼な奴だな。俺に生きる気力がないなんて…あれ?たしかにないかも…今日頑張ったのも「なんとなく」っていう理由しか見当たらない…
「…うーん、生きる理由がないからじゃないのか?難しいことはわかんないけど、たぶん死ぬ理由がないから生きているだけなんだと思う。別に、今生きたくて生きているだけだ」
「そう、ねぇケイ」
「なんだよ」
「あなたはこれからどう生きたい?」
ありきたり、と言えるのかわからないが普通答えられそうな質問に答えられなかった。頭にガツンと衝撃が走った気がした。
「は?」
「だから、これからを生きる理由を見つけようよ。なんでもいいからさ。そうすればケイの目も生き返ると思うよ」
「目はもうすでに死んでんのかよ、んー、これからを生きる理由ねぇ…思い浮かばねえな」
「なんでもいいじゃない、童◯卒業したいだとか、おっぱい揉みたいとか」
「ど下ネタやめろ!あとまだ俺が◯貞かお前わかんねえだろうが!」
「おっぱいの方は否定しないのね…」
「うるせえ!…うーん、なんでもいいのかあ」
「ほら早く、私はそこまで暇じゃないよ!」
「お前から言ってきたんだろうが!…あ」
「ん?なんか思いついた?」
「腹減ったからラーメン食いてえな、別に食えるならなんでもいいけど」
「…しょぼいわね」
「なんでもいいって言ったじゃん!」
今回で一応1話の最初の部分にもってこられました。自分で最初に書いといてなんだけど、どう繋げるか全然わかりませんでした。ひと段落ついた感じですかね。後書きこんなに真面目に書いたのも初めてですね。誰が褒めてくだちい(ガ◯ツ)