9話 リベンジですかい?
ネコver
「これでよし!後は傷が塞がるまで大人しくしててくださいね」
ボクはおじきと龍さんの包帯を巻き終えて2人に告げる。
早く行かないとアズマがまた大変な目にあっちゃうよ。アズマが向かったであろうビルに向かうため、部屋を飛び出そうとする。
「お嬢ちゃん、ちょっと待ってくれんかい?」
「え?なんですか?」
部屋を出ようとするボクをおじきが止めてくる。
「あのアズマって兄ちゃんは...元々人殺しとかしてたんかい?」
「...え、そんなことないと思いますけど...何でですか?」
おじきもアズマを人殺しと非難するのかな...。
間違いではないけど、ボクの大切な友達が非難されるのは許しがたい。
「ああいやいや、別に説教なんてしねぇよ?俺だって人は殺してるしな」
ボクの体が強張ったのを感じたのか、おじきが誤解を解くように話し出す。
「ただ...元々じゃなけりゃ、兄ちゃん危ういなぁ」
「そうですね、おじき」
龍さんも話に混ざってきた。
アズマが危ないってどういうこと?
「何かアズマに危険が?」
「うーん、何て言えばいいのか。普通じゃねぇな」
「普通じゃない...」
「このご時世になって、人型の化け物とか人を殺した奴はごまんといるでさぁ、でもそのほとんどがしばらく経つと動けなくなると俺は思うんよ」
「何故です?」
「そりゃ初めの殺しは、アドレナリンが出てたり、誰かを守るために仕方なくとかあるよ。ただ、自分の安全がある程度確保できた後にまた殺すのは精神力が相当強いか、自分の強さに圧倒的自信があるか、それか...」
「それか?」
「頭のネジが吹っ飛んでる奴でさぁ」
ボクたちマンション組の中にも、一度探索に出たらもう外に出れなくなってしまった人がいた。
「つまり普通じゃねえんだよ、アズマは。俺でも初めて人殺した時は1週間くらい寝込んだぜ」
龍さんも同意のようだ。
「それで、アズマが危険なんですね?」
「ああ、あの兄ちゃんにはブレーキがねぇ。ああいう奴は強いけど、いきなりポンと死ぬでさぁ」
ボクは施設で訓練を受けていたから問題なかったけど、たしかにアズマは数週間前まで普通の高校生だった...人を殺し続けるのはストレスがかかり、いつか精神が狂って死んじゃう?
「なら、ボクがアズマを守るよ」
そんなの嫌だ。
アズマはボクの命の恩人で大切な友達だ。死なせるもんか。
「ボク?嬢ちゃん、おめぇ男だったのかい?」
「あー...キシシ、そういうことにしといてください。注告ありがとうございます」
それだけ伝えて、部屋を飛び出してアズマのあるところへ向かう。
一生隣に並び立ってやる。ボクはアズマが大好きだからね。
ビルに着き、中に入るとまさに地獄のような空間が広がっていた。1階のエントランスには、十数人の死体とともに、血が飛び散っている。その血は階段へと向かっていた。
「アズマ...全部1人でやったの?」
おじきに言われた言葉を思い出しながら、駆け足で血を追う。2階も3階も死体があり、全員武装しているからアズマも無傷じゃないと思う。
焦りなのか走ってるからなのか、汗をかく。ビルの階段は外が見えるようになっており、周りの建物が低いため町を見渡すことができるようだ。
「大丈夫だよね?」
どうやら5階で一度階段が終わり別の階段になるようだった。
ガシャン
その時上からガラスが割れる音が聞こえる。
ふと窓に目をやるとーー
「!?アズマぁ!!!」
ボクの親友が下に落ちて行く様を見ることとなった。
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
数分前アズマver
「死ねやガキィ!!」
「はぁっ、はぁっ」
東条組の組員が銃口を向けて叫ぶ。
放たれた銃弾を避けて、相手に飛びつき耳を持つ。
ドドドッ
「ぐぽっ!?」
首、腹、太腿
3箇所を一気に逆手で持ったドスで刺すと、相手は絶命した。
「はぁっ....はぁ...」
呼吸を整えながら、上にのぼる。
ビルに着くと、やはり用意していたのか東条組の組員が30人以上待ち構えていた。
アニメや映画とは違い、全員が襲い掛かりおしくらまんじゅう状態になった。
そこから1人ずつ殺し、今やっと最後の1人を仕留めた。
気づけば俺の体は切り傷や銃傷やらで血だらけになっていた。
「くそが...多すぎだろ」
悪態をつきながら階段を上がる。
もう何階のぼったんだ?田舎にしては珍しい高さのビルだから、俺もよく見上げてたけど高い意味ある?
「ん?よぉアズマぁ、みんな殺したのかぁ?」
階段を上がった先で、間延びした声が聞こえてくる。視線を向けると、オフィスの机に座ったバンジョーが待っていた。
「俺は元々この会社の部長でよぉ、アズマと戦うならここがいいなって思ってたんだぁ」
「そうかよ、仕事場で死にたいとか社畜魂の塊だなあんた」
「あはっ、その状態で勝つつもりかぁ?いいねぇ、歯応えがあっていいよアズマぁ、愛してるぜぇ?」
「あぁ、入れ歯の準備でもしておけよ」
グニャァとバンジョーとの間の空間が歪む。
ここでこいつは殺すべきだ。
ゾワッズオンッ
直感で飛び跳ね、弾を避ける。
空中でドスを投げ、バンジョーの首に突き刺さる。
まじか、結構当たるもんだな。
「いってぇ」
「その体も大変だな」
「意味ないのに、また首取るのぉ?」
ボトッ
西条組の時と同じように、バンジョーの首を落とす。足元に転がった頭を俺はーーー
「shoooooooot!!!」
蹴っ飛ばして部屋の端っこに頭をやった。
これでくっ付くまで時間がーー
「ばぁ」
「あーやっぱ駄目?ぐふ!?」
振り返ると、頭が生えていたバンジョーに銃床で殴られる。
「だめだよぉ、俺は別にくっつけなくても生えぐぶ」
油断しているバンジョーの頭を切り落とし同じように蹴っ飛ばす。
今度は体から目を離さずにいると、首の切り口から瞬時に再生していた。
ズォンッ
「がはっ!?」
しまった。頭がなくても動けるのか!?
避けるのが遅れてしまい、銃弾が腹を掠める。
だめだ。目の前が霞んで来た。
「無駄なのにさぁ、楽しかったけどここまでだなぁ...おっと」
余裕そうにしていたバンジョーがガタッと机にもたれかかる。
「はぁっ...あはは!やっぱお前も不死身ってわけじゃねえんだな...」
「何をしたぁ?」
「何もしてねえよ。くっつけるだけならまだしも、無から頭を作り出してるんだからエネルギーか何か消費してるんだろ?」
事務所で言ってたが、疲れたってのは本当に疲労感から来た言葉だったんだな。それがわかっただけでも十分か。
「そうかぁ、俺も不死身じゃないのかぁ。まぁ、アズマには悪いけどぉ。死んでくれぇ」
もう動けない俺の襟首を掴み、持ち上げて窓まで歩いて行く。まさかこいつ...。
「俺はさぁ、ずっと仕事してる時にここから飛び降りたらどうなるのか気になってたんだぁ」
「うぉっ!?」
ガシャン
俺は投げ飛ばされ、窓ガラスを突き破り下に落ちていく。
「後で地獄で感想聞かせてくれよぉ、愛してるぜぇ?」
どんどん遠ざかるバンジョーの声なんて気にしていられない。
「ふぅ」
何か階段で驚いた顔をしているネコが見えるが、気にしていられない。
「死ぬ!?死ぬ!死ぬ!やっば!?」
まずいまずいまずいまずいまずいまずい!!!
どうすればいいの!?
このまま死ぬの!?
こんな死に方だけは嫌だよ!
せめて顔だけは原型残して死にたいよ!
「死ぬ死ぬ死ぬ死ぬ...あ!」
ふとY○uTubeで見た空挺団の五点接地を思い出す。
なーんだ、大丈夫じゃん!
えーとまずはつま先からーーー
ゴシャァッ!!
Y◯uTubeの嘘つき




