2話 おひかえなすって、よろしいですかい?
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「職員のあんちゃん、あっしは何も加担してないからぁ、頼みやすぜ?」
「わかっている、お前はそこで大人しくしておけ」
職員2名に両腕を一本ずつ掴まれ、001の男は部屋の隅に移動する。本当に助ける気がないんだな。
「002!そいつらを殺さない程度に痛めつけろ!」
「ギャーギャーうるせぇな!こんなガキに手間取りやがって情けねえなおっさん」
「うるさい!協力したらお前を優遇してやるから働け!」
「はいはい、悪いなガキ、そういう訳でお前半殺しな?」
002の男の風貌は、筋骨隆々だった。腕だって俺の2倍ぐらい太く見える。でも、人間の急所は筋肉だけで隠せるほど少なくない。
「早くかかってこーー」
「はぁぁあ!」
男が構える前に攻める。遅れて男が腕を振り落としてくるが、目で追える速度だ。腕を避けて潜り込み、鳩尾に肘を突き放つ。
「あ、042のあんちゃんそいつは...」
001が何か言ってるが気にするものか、貫くつもりで肘を突き刺す。
ゴンッ
「うぐぅっ!?」
痛んだのは、俺の肘だった。
何だ今のは?俺は鉄に肘をぶつけたのか?
「あぁ?なんかしたかガキ?」
「くそっうぉ!?」
潜り込む形になってしまっていたため、上から002が覆い被さり背中から腕を回され持ち上げられてしまった。まさかこいつ覚醒ーーー
「オラァ!」
「ぐはぁ!?」
プロセス技のように、背中から地面に叩きつけられる。間違えなく感染する前の俺なら背骨が折れていただろう。
「はっ...はっ」
「まだ終わりじゃねぇ...ぞ!」
「ぶふぅ!?」
「きゃ!?もうやめて!!!」
背中を強打し息ができない中、顔をサッカーボールのように蹴られ、今度は部屋の壁に叩きつけられる。おかげで距離が取れたが...勝てる気がしない。
でも俺は諦められない。
ふと、ボロボロになりながらもいつも最後は何とかする友人の顔が浮かぶ。
「はぁ...はぁ...こんな時...アズマなら...」
「...ん?」
「おいもう終わりか?もう少し楽しませて「ちょい待ち」あぁ?てめぇ、誰の腕掴んでんだ?」
とどめをさそうと振り上げた002の腕を、001の男が止めていた。いつの間に...。
001が元いた場所に視線を移すと、職員2名が倒れていた...首を180度曲げられた状態で。
再び視線を戻すと、001と002の2人は互いに向かい合い、見合っていた。
「何してんだガキ、お前も潰すぞ?」
「いやね...ちょっと気になることがあってですね、そちらのあんちゃん貸してもらえませんかね?」
「生意気言ってんじゃねえよ、俺の獲物取ろうってのか?」
「はぁ...頭の悪いおっさんですぜ」
「あぁん!?てめ何つった!」
「頭の悪い臭いキモいおっさんですぜ」
「そんなに言ってなかっただろ!?」
言い合いをしている2人を見るしかできない俺とシェリーさんに001が視線をよこす。
「042のあんちゃん、さっき言ってただん...アズマって人の名前教えてくだせぇ」
「え、東 京次だけど...」
「...くはは!こんな所でその名前を聞くたぁね!」
何故かわからないが、001の男は腹を抱えて笑っていた。なんだ?アズマと知り合いなのか?
笑っている001に002が話しかける。
「おい...もういいだろ?早く殺らせろ」
「あはは...はぁ...あん?あぁ、すまなかったなおっさん」
「これ以上生意気言ったら次はお前を殺すからな」
「ん?...いやいや、ダメですぜおっさん、このアニキはあっしが預りやす」
「あ?もういいやお前も殺す」
こちらに向かっていた002が踵を返し、001に襲いかかる。
「自分の力に酔ってるところ申し訳ねぇのですが、あまり過信すると痛い目見やすぜ」
「うる、せぇええ!」
恐らく覚醒の力で硬くしたであろう腕を001に振り下ろす。
「その能力、体内の炭素を操作して硬化するんでしょう?結構弱点ありやすぜ」
「があああ!」
腕を振り回して暴れているが、001は涼しい顔で避けている。それどころか、避けて話しながらも息切れすらしていない。
「その1、関節部分は硬化できないから逆に曲げられやすい」
「んぎゃぁ!?」
いつの間にか相手の腕を取り、足を振り上げていた001が、話しながら踵を落とし002の腕を曲がってはいけない方向に向ける。
「その2、粘膜部分はそのままだから関係ない」
グチュ
「んぷ!?」
親指で片目を潰して、距離を取る。
一連の流れがあまりにも手慣れている、パンデミックと関係なく実践経験が豊富なのか。
片腕、片目を潰されても002の闘志は潰されていないようで、まだ向かっていく。
「その3、練度が甘すぎる。炭素の組み換えなんだから、鉄くらいの硬さってのはおかしい」
「ぐああああ!」
ついに002の腕が001を捉えた。
ガギンッ
「ああぁ...」
叩きつけたはずの002の腕が折れ曲がっていた。
「極めればこんな風にダイヤモンドぐらい硬くなるのに...ね!」
「ぐ」
001が相手の胸を文字通り貫いた。
002から生えているようにも見える手には、ゴツゴツとした心臓が握られていた。
「強度をあげるコツは、同じ能力の心臓を喰らうこと...あぁ、もう聞こえてないですね」
001は心臓を食べながらこちらに歩み寄ってくる。
「おひかえなすって、何かの縁で脱走を手助けすることになりやした。あっしの名前はニシと申しやす。以後お見知り置きを」
中腰になり、パッと差し出した右手の手のひらを上に向け、こちらに挨拶をしてきた。
「ところで、アニキの名前を伺ってもいいですかい?」
「あぁ...俺は田中大毅だ。よろしく」
どうやら、強力な味方がついたようだ。
必ず帰ってやる。




