29話 えぴろーぐ
神崎ver
久しぶりにケイと2人っきりで話せる。
喜びで今すぐ飛び跳ねてしまいそうだ。
協力してくれた羅夢とレイちゃんには、後でお礼を言わないと。
会議中、ネコくんとケイが話している時にレイちゃんが私に話しかけてくれた。
『しのちゃん...けいじとなかよくしてあげて?』
驚いた。レイちゃんはいつの間にかそんなことまで察して、話してくれるようになっていた。
私もこのままじゃいけないと思っていたから、情けないけど2人に協力してもらった。もちろんあずさちゃんにも了承済みだ。
「なんか...久しぶりだね」
「そうか?さっきも話したろ」
「ううん、こうやって2人で話すのがよ」
「...そうか」
屋上に来てからぼーっとタバコを吸っているケイは、どこか困っているようだった。そうだよね、あんな酷いことを言った奴となんて話したくないよね。でもごめん、いつまでも待ってられない、ケイは相変わらずいつでも死んじゃいそうで。
「ケイ、まずはごめん」
「あ?」
「あの時、芝居とはいえ、あなたを傷つけてしまって本当にごめんなさい」
「...芝居?」
「うん、ある人からの指示で、あの時だけはあなたの味方に付かないように言われてたの」
私はお面をつけていた人の指示を思い出す。
『お前の幼馴染な、あいつ生きてるぞ』
『そう...』
『あんまり嬉しそうじゃないな?』
『いや、嬉しいけど、ただそれだけ』
『そうか、それでアズマと幼馴染が争うんだけど、その時お前は幼馴染の味方しろ』
『え?嫌よ、ケイの味方をするわ』
『ダメだ。お前がアズマにつくとその後地獄を見るのはアズマだ』
『なんでよ?』
『それはーーー』
「それは...無理があるよ」
思い出していると、ケイが答えてくれた。
「私もそう思う」
「えぇ?」
「でも信じてとしか言いようがないわ」
「うーん、でもお前片柳とセッ...エッチしてるんだろ?」
「...はぁ?」
何を言われたのか理解するのに時間がかかった。
私が徹と?ありえないわよ。何であんな女たらしと寝なきゃいけないのよ!
だめだ、だんだんイライラしてきた。
「あのねぇ...!私があいつとエッチするわけないでしょ!?」
「お、女の子がエッチとか言わない方が...」
「うっさい!どうせ徹がケイに何か言ったんでしょ!あったまきた!あいつ絶対許さない!」
「お、落ち着いて、信じるから」
「落ち着いてられないわよ!」
ホント最低、あの男とは昔から近所なだけなのに、何でそんなこと言われないといけないの!?
...でも、なんかケイはほっとしている様子だった。
「まさか、その話信じて今まで私のこと避けてたの?」
「う、うん」
「あ、あのねぇ!この際だから言わせてもらうけど、私が好きなのはーー」
「それ以上は駄目だよ」
気がつくとケイの手で口が抑えられていた。私だって物資集めとかで、実践経験積んで前より強くなってるのに、何も見えなかった...。
ケイの手はゴツゴツしていて、温かい。それでいて、傷がたくさんついている。
たくさん傷ついてきたのね...それでも誰かの為にずっと戦ってきたんだよね...今も自分が死んだ時を考えて、私の言葉を遮った。不器用な優しさに救われている人は何人もいるのに、ほとんどの人が気づかないまま過ごしている。
でも
ガブッ
「あいた!?何噛んでるの!」
「もう待てない!私はあなたが好きなの!!!」
「...へぁ?」
「ケイは人に優しすぎるよ...」
「お、おい...」
気づけば私は涙を流して話していた。悲しいわけじゃない、頑張ろうとして踏ん張りすぎて涙が溢れただけ。もう我慢はしない、このまま思いを伝えずに死ぬなんてできないもん。
「ごめんねケイ、私何が一番あなたのためになるか分かんなくなっちゃった...。でも、あなたを好きなの、ケイは私のこと考えてくれるのに、勝手に告白してごめん...」
「...」
「ケイに嫌われてもいい...でも...あなたのことを好きな人もいるって知ってほしい、誰にも愛されてないって勘違いしたまま死なないで欲しいの...」
ケイを見ると、視点が合わず遠くを見ていた。吸っていたタバコも根本までいってるのに気づかないまま、ずっと遠くを見ている。
「...俺は」
「うん」
「家族が死んでから、誰も頼れる人がいなくて1人で生きてきたつもりでいた...」
「うん」
「だからパンデミックが起きても、どうでも良かったんだ。それは今でも変わらない」
「うん」
「でも、最近...最近やっと楽しくなってきたんだ」
「...うん」
「飯食ってる時に一番おいしいって思えるのはレイかもしれない、ふざけてる時に一番面白いって思えるのは隆二かもしれないし、ネコとか会長かもしれない、一番好きなやつなんてたくさんできた。それでもう良いんだって思った」
「...」
もうそこに私は入らないかもしれない、あなたの為だとしても傷つけた私に何も言う権利がない。
「思ってたんだよなぁ...」
「...え?」
「何やっても一番幸せだって思えるのは、詩乃なんだよ」
「...うそ」
「ありがとう詩乃、俺に生き残る気力をくれて」
「ううん、私の方が貰ってるよ」
「もう少し待ってくれないか?まだ終わってないこともあるから」
「うんっ、うん!私は気持ち伝えられただけでもいい!ケイとまた一緒にいられるならそれでいい!」
私たちは抱き合ったまま、しばらく時間を過ごしていた。付き合いたいとか、そういう領域を越えてケイが好きなんだもん、もういつまでも待つよ。
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
アズマver
詩乃としばらく抱き合ったあと、2人で夜景をみていた。またこうして2人で何かするなんて思ってもなかったなぁ...。
「ねぇケイ?今度のヤクザの「駄目だ」なんでよ!」
当たり前だろうが、危険すぎる。パンデミック関係なしにヤクザは危険だろ。
「以前の俺だったら同行を許してたけど、あの一件から俺も自分の意見を持つようになったんだ」
「私はケイと一緒にいたい!」
「俺もそうしたい、でもそれ以上に詩乃が危険になるのが嫌だ」
「ふ、ふーん?わかった。待ってる...」
詩乃さん、こんなに聞き分けのいい子だっけ?
「...私たちってさ、まだ付き合ってないよね?」
「あー...うん」
「意気地なし」
「ふぁ!?さっき待つって言ってくれたじゃん!」
「あははっ、冗談よ」
そういうと詩乃は笑顔を見せてきた。ぐ、可愛いんだよなこいつ。
「あ、そろそろ戻らなきゃ」
「おー、レイのことよろしーー」
チュッ
詩乃の方を向こうとした瞬間、キスされた。
え?
「お、おま」
「ふふっ、おやすみケイ」
「おま」
そそくさと詩乃は屋上から去っていってしまった。
はぁ...俺はどうすればいいんだよ?
死なない理由ばかり増えてく一方だ。
タバコに火をつけて燻らせる、ぼーっと見ていると煙は空にのぼりいつの間にか消えていく。
田中、なんか無性にお前と話したい気分だよ、まさか俺がこんなことになるなんてさ...。
思えばどんな奴でも引き摺って進んできたお前が羨ましいよ。お前が今の俺の状況なら敵味方関係なく抱え込んで、また引き摺って生きていくんだろうな。
俺は、初めて自分がどうしたいのか分からなくなってしまった。
「はぁ、生きるって大変だな」
煙と共に吐き出した独り言は、相変わらず空に消えるだけで、誰も答えてはくれなかった。
二章終わらせるのに4年かかったってマ?
ここまで読んでいただき誠にありがとうございました。感謝の極みです。




