21話 えっほえっほ
『とにかく、ここに書いてあるものを持ってきてください』
『これでレイは大丈夫なのか?にしても集めるものが多いな、こんなにいるのか?お前も大変だな、さっきは悪かっーー』
『あ、それは私の個人的なおつかいのお願いです』
『...』
ハツメとの会話を思い出しながら道路を爆走する。
最近気づいたけど、パンダの力を使わなくてもトップアスリート並みの運動量が備わっているようだ。
「えっほえっほえっほ...レイに絶対に帰るって伝えなーー」
「ご主人、さっきから何だそれは?」
「バズると思ってな」
「ば、ばず?...なんだそれは」
病院で、お使いを済ませる。
点滴やら注射器など、持ってきた鞄がパンパンになるまで詰め込んだ。
しかし、病院はまだ維持できてると思っていたがダメだったんだな。今後安全な地はできるのだろうか、会長は何も言ってないけど考えているのかな?
「うああ゛...」
「南無三!」
病院でもパンダは普通にいて、今ので20体目だ。
これって感染してない人が取りに来るのキツくないか?だから器具や薬が多く余ってたんだろうけど。
「ふぅ...そろそろ出るか、銀」
「そうだな、早くレイを楽にさせてやりたいぞ」
「お前それ意味合い変わってくるボゥ!?」
病院から出た瞬間、四方から衝撃が襲う。
受け身を取りつつ状況を確認すると、中学生ほどの男が4人いた。
「へへっ、悪いなおっさん。俺らも頑張って生きてるからさ、許してくれよ」
「おっさん!?...てめぇら、いきなり何しやがる!...ん?」
1人が話しかけてくると、違和感に気づく。
あれ、俺の鞄どこだ?
「探してるものはこれか?」
「おい!!それは大切なやつだ!返せ!」
「やだね、おら!早く持ってけ!俺らはこいつの身ぐるみ剥がしてから行くからよ」
「わ、わわ、わかっ...た」
ネックウォーマーで顔を隠しているやつに投げ渡すと、そいつは走りだした。
「待てや!!...は?」
当然追いかけるつもりが、ネックウォーマー男の走りを見て足を止めてしまった。
速い...速すぎる。
俺の今の足で追いつかない人間なんているのか?パンダの力10割でも追いつけないぞ!
「あいつは、足だけは早いんだ。そんで俺ら3人は腕っぷしだけ強いんだ。悪いが物資残して死んでくれや」
「...はぁ、おい銀。さっきのやつの匂い追えるか?」
「まかせろご主人、バッチリだ」
「よし、こいつら片付けたら早く行こう」
「おいおい、まさかお前、1人で俺ら3人に勝てるつもりか?」
「そうだけど?あと、さっきから3人って言ってるけど2人な?ほらそこ」
一刻も早くレイを助けるために、こいつらを片付けることを決めつつ、男の後ろを指差した。
「あ?...っ、や、やすおぉぉぉお!!!」
男の後ろには、蹲っている仲間がいた。やすおって言うんだ。どうでもいいけど。
さっき四方から襲われた時にカウンターを肝臓に入れといてよかった。ほら、やすおも白目で泡吹いて喜んでるぞ。
「も、もしかしてお兄さん、すごく強いお方ですか?」
「うん!おじさんすごいんだよ!あと非常時に変な横槍入れられて機嫌悪いよ!」
「なっ!?」
間髪入れずに間合いを0にし、男の顎を打ち抜く。
カクン、と膝から崩れ落ちた。
「はるお!このクソ餓鬼!」
「なんだぁ!」
「え、ちょゴフッ!」
間髪入れずに残り1人の腹に足を沈める。
...さんをつけろよデコ助野郎の方が良かったか?
「よし、片付いたな。追うぞ」
「あぁ....ところで銀。お前匂いで追えるなら事前にあいつらの襲撃わかったんじゃないか?」
「忘れてた」
「...」
やっぱこの犬捨ててこようかな。
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ある団地の一室に先ほどのネックウォーマー男とその他に数名の男女がいる。
「この馬鹿野郎!おせえんだよ!」
「ぐっ...ご、ごごめん」
「ったく、今回は目当ての薬が手に入ったから許してやるけどな、次遅れたら殺すぞ?」
「まぁまぁ落ち着けよリーダー、それより早く麦ちゃんに薬あげなよ」
「ああ、そうだな。おい麦!薬持ってきてやったぞ!」
リーダーらしき男は、別室で寝ている少女のところへ向かい薬を渡す。
しかし少女はリーダーを睨み返す。
「あつし!また中野くんを傷つけたわね?」
「ああ、鈍臭いやつが悪い」
「これ以上傷つけたら私出てくって言ったよね!?」
「くくっ、うるせえよ。鈍臭野郎と出てくか?お前は俺の慰め物なのに、あいつが助けてくれるのか?」
「...っ、最っ低!早く出てって!」
「ははは、早く治せよ?また可愛がってやる」
リーダーは笑いながら部屋を出ていく。1人残された部屋には、少女の噛み殺した泣き声が響く。
「...ぐぅぅ!絶対に許さない!」
「だ、大丈夫?こ、琴吹さん?」
「!?な、中野くん!...ごめんね、嫌なとこ見せて」
「だ大丈夫だよ、ぼ僕が鈍臭いのがわ、悪いし」
「そんなことないわ!あなたのおかげで皆んな助かってるのよ。なのにあのクズのせいで...」
「きき気にしないで...!」
ネックウォーマー男と少女は2人で搾取され続ける未来を諦めて受け入れそうになっていた。
その時、部屋の外でガシャンと大きな音と悲鳴が聞こえてきた。
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盗人リーダー、最上篤ver
くそっ、麦のやつ。なんで中野みたいななよっちい男がいいんだ!
イライラを抑えつつ、他の全員が集まる部屋に向かう。
「お、リーダー。さっき皆んなで話してたんすけど、はるお達遅くないっすか?」
「あ?知らねえよ。あいつら3人で勝てないやつなんていないだろ」
「何イラついてんすか?まあたしかに、あいつら覚醒組に勝てるやつなんていないっすね」
「ああ、それにだ。仮にあいつら倒す化け物がいても俺の鼻があればいつ来ても気づくさ」
「キャハハ!さすが篤くん!...ねぇ、それよりさ。久しぶりにしようよ?」
隣に来た女が誘ってきた。うるせえよ阿婆擦れ、お前とやったって何にも気持ちよくねえんだよ。やっぱ麦が1番いいよなぁ。
あれ?中野のやつどこ行った?
「おい、中野のやつどこに...っ!?!?!?」
「どうしたリーダー!」
「う、おぇえ!」
「きゃあああ!」
いきなり鼻が曲がりそうになった。
何なんだこれは!こんなこと今までなかったぞ!
あまりの悪臭に吐き出してしまった。
なんだよこの死臭!臭いで恐怖なんて感じなことねえぞ!?
「あ...あ...」
恐怖を感じながら、窓を開けて外を見る。
ここは4階だ。誰も上がってこれないから安全な...。
「は?」
「どうした!?リーダー!大丈夫か!?」
「は、はるおだ...」
「なんだよ!はるおかよ!ビビらせんなよ!」
「ち、ちがっ...」
たしかにはるおがこちらに向かって来ていた。
はるおは俺たちグループの中でも、最重量で力士のようなやつだ。
そのはるおが、両目が赤く白髪の男に片手で担がれながら向かって来ていた。
「えっほえっほえっほえっほ、絶対に殺すって伝えなきゃ!えっほえっほ...あっ、みーけ!」
「ひぃぃぃいいい!」
男と目が合うと、純粋な笑みでこちらを見てきた。
得体の知れない恐怖に俺は失禁していた。
「ほらはるおくん!お家に帰りなさい!」
「ふ、ふがっ、ちょっとま、まってぐださ....」
「あ?てめぇ、人様から物盗っておいて言うことも聞かねえのか?」
「ご、ごめんなざーー」
「謝罪おせえよ!吹っ飛べ!」
男はこちらに、はるおを投げてきた。
...は?いやいや、体重100キロぐらいのやつ投げられるわけーー
ガッシャン!!!!
はるおが壁に叩きつけられ、全員パニックに陥る。
「きゃあああ!」
「な、なんだこれ!?」
「はるお!?なんでお前がここに!?」
終わりだ。
俺はいつのまにか登ってきた男から目を離せないまま、自分たちは手を出しちゃいけない男に触れてしまったと後悔していた。
「...あ、あの、ここ、4階ですよ?」
「あ?あー、お邪魔します?」
全て終わったと悟ってしまった。ああ、なんでこんな奴と関わってしまったのだろうか。
ほぼ悪役ですね。




