20話 あつあつ
ひょっこり
ぱちり
日が覚める。
まだ朝早く、陽も出ていないようだ。最近は、陽が昇る前に目覚めてしまう。習慣作りは案外簡単にできるようだ。
1ヶ月前の自堕落な生活が遠い過去に感じる。
どうやら自分は今の生活の方が性に合っていると考えてしまった。
「ふ...」
薄暗い部屋の中、あたりを見回すと、一緒に寝ている少女と駄犬が視界に入る。
子どもの体温は高く、肌寒い季節に差し掛かる今では湯たんぽのようだ。
無垢な寝顔を見ると、このまま育って欲しいと齢17にして父の心を持つ。あたたかい。
混沌が常の世の中、この子を守っていけるだろうか...あたたかい。
「けいじ....それはたべちゃだめ」
子どもの夢に自分が出る。くすぐったい気持ちと嬉しさが溢れる。あぁ、あたたかい。
「けいじ...それはくるまだからたべないで」
何だろう….。この子の中で私は何でも食べる人なのだろうか?こんな他愛のないことでもあたたかい。
あたたかい....あたたかい…あたたか…あつ…え、いや…あつい、あっつ!?
「あっつ!?あの日の青春ぐらい熱い!?おいレイ!大丈夫か?」
「むにゃ…けいじ、それはいぬのうんちだからたべちゃーー」
「俺どんだけ馬鹿なの!?レイの中の俺食い意地張りすぎじゃない!?」
「うるさいぞご主人…こんな朝早くに」
銀が起きて苦言を呈する。
「うるせえすっとこどっこい!レイが熱いんだよ!」
「すっとこどっこい…。む、風邪じゃないか?見るからに苦しそうだ」
「カゼってそんなに辛いのか!?物心ついてからひいた記憶がない」
おい駄犬、人様をひいた目で見るな。
「はあっ…はあっ」
「これは高熱だな…。放っておくと最悪場合後遺症が残るぞ」
「あ…あ」
「ご主人?ちゃんと対処をしてあげーー」
「あああああああ」
「ご主人!?どこに行く!」
レイを抱えて走り出す。
まずいまずいまずい....!早くお医者さんに診せてあげないと!
50mを4秒で走りながらハツメの部屋に向かい、ドアを殴打する。
「ていへんだ!ていへんだ!」
「なぜ今日のご主人は江戸っ子なんだ...」
「なになになになに!?アズマ氏ですか!?」
「ハツメ!オレだオレオレ!」
「新手の詐欺?こんな朝早くに寝てる人起こしてなんですか!」
「馬鹿野郎!この非常時になに寝てんだ!!」
「理不尽!?」
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「はい、これでひとまず大丈夫です」
「ホントか?本当に大丈夫なのか?」
「落ち着いてください!できる限りのことはしました。ただ、今うちにあるものだけじゃ限界があります」
「やっぱりお医者さんか!お医者さんに診せないとなのか!」
「いや落ち着けよ!」
俺があたふたしてると銀が説明しだした。
「すまないハツメ殿、どうやらご主人は風邪をひいたことがないらしくどうすればいいかわからないのだ」
「うっわマジですか?風邪ひいたことない人なんていまだにいるんですか?」
おいマッドサイエンス、ひいた目で俺を見るな。




