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パンデミック起きたけど生き残る気力がない  作者: ちぐい
二章 ろりと犬とダッシュと編
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18話 ばうばう

あざす。

 前回のあらすじ


 犬がシャベッタ


 おいおい、なんだよこの犬。てか犬なの?機械とかじゃなくて?俺たちが戸惑っていると、犬がまた喋りだした。


「おい、餌は無いんだな?」


「あ?あ、あぁ…ないよ、わるいな」


「そうか…しかたがない、ならば…」


 少し銀色がかった毛並みで、凛々しい目をしている犬は、残念そうにして、こちらを見てくる。少し可愛いかもしれない。


「ならば?」


「貴様らを喰らうしかない!ガルルルァァ!!!」


「ギャー!?」


 全然可愛くない!!!話していた俺に向かって、鋭い牙を惜しみなく見せて首元に噛み付いてきた。

 咄嗟のことで間に合わず、腕を首と牙の間に差し込むことで避け――。


「いっだ!!!?」


「グルルルル」


「は、なせ!よ!」


「グルルゥゥ!」


 腕でも悲鳴をあげるには十分痛かった。何とか離そうと腕を振るが、噛む力が尋常じゃなく、離れるどころか腕の筋肉の繊維を切りながら牙が奥に進む。


「いっ…てぇなこのバカ犬!!!」


「キャィン!?」


 拳骨を眉間に落とすことによって何とか離すことができた。噛まれた左腕に目を移すと、穴が空き血が垂れていた。

 あーいてぇ、また怪我しちまったよ。この犬絶対にボコボコにしてやる。


「てめぇ…人様にいきなり噛みつきやがって、今時の若者でもあんなすぐに噛み付いてこ―――」


「ハッハッハッ」


「あ?」


 犬に視線を戻すと、仰向けになり腹を見せつけていた。なにそれ?踏めばいいの?


「いやぁ、すまない。まさか貴方様がこんなにお強いとは、まいりました」


「…それで?俺はお前を踏めばいいの?」


「ハハハ、ご冗談を、私は貴方様に惚れました。一生ついていきます。まさに犬も歩けば棒に当たるですね」


「全然意味違うわよ。アズマくん大丈夫?」


 あまりの変わりようにどうすればいいか悩んでいると、会長達が会話に入ってきた。いやその前に何でさっき助けてくれなかったの?


「悪いアズマ。反応が遅れた」「ごめんねアズマ。大丈夫かい?」


「めっちゃ痛かったよ。それよりこいつどうすんの?やっぱり踏む?」


「え?あの…」


「んー、どうしようか?この子に戦意はもうないみたいだけど、マンションに連れて帰って他の人が襲われてもねえ?」


「あの、ほんとにすみませんでした。逆らいませんから飼ってください」


「キシシ、ここまで言ってるから大丈夫じゃないですか?アズマが決めればいいと思うよ、飼い主だし」


「おい、俺を勝手に飼い主にするな」


「ご主人、これからよろしくお願いします」


「てめぇも勝手にご主人って呼ぶな」


「良かったじゃねぇか、話し相手ができて」


「え?俺犬ぐらいしか話し相手いないの?」


 何やら良くない方向に話が進み始めた。自分に余裕ないのに犬なんて飼えるわけないので、犬に諦めてもらうように話す。


「もう噛み付いてこないなら踏まねぇよ。でも俺はお前を飼う余裕なんてないからどっかに消えろ」


「いや、大丈夫。餌は自分で取ってこれる」


「踏まれないってわかったら急にタメ口に戻ったわね…なんか誰かさんに似ている気がするわ」


「それは誰ですかねえ?俺は会ったことないですよ」


「そうなの?じゃあ鏡見れば簡単に会えるわよ?」


「知らないんですか会長?鏡って見たら自分が映るんですよ?ってそれどころじゃなかった。お前さ、自分で餌にありつけるなら飼う必要ないだろ」


「それもそうなのだが…」


 そう言うと、犬は尻尾をへたりと垂らして話し始めた。


「我は前まで、家族がいたんだ。でもある日突然家族が変なやつに襲われて、家族同士で食い合い始めた。それから家族は呻き声しかあげなくなって、外に助けを求めに言っても同じように呻き声をあげる人間しか見てなかった。でも今日初めて会話ができる人間に会って、嬉しかったんだ」


「いや、お前俺のこと食うつもりだったじゃん」


「それは申し訳ない。でも、今こうして話していたら、独りは寂しいと感じてしまった。だから我もご主人たちと一緒にいたい」


「とは言ってもなあ…」


「もう人は襲わないと誓おう。ご主人の指示があればいつでも噛みつくが」


 まいったな。別に断る理由もなくなったし、これ飼えばいんじゃね?


「うーん」


「飼ってあげればいいんじゃない?味方になってくれるなら戦力にもなるし」


「えー?じゃあ、飼うよ」


「ほんとか!?」


 飼うと聞くと、犬は垂らしていた尻尾をぶんぶん振り始めた。普通に話しやがるから忘れてたけど、そういえばこいつ犬だったな。


 ――――――――――――――――――――――――


 マンションへ帰りながら、犬と会話していて気になることを聞いてみる。


「てかお前なんで話せんの?」


「人間を食ったら話せるようになった」


「は?」


 俺たちが距離を取ると、犬は訂正し始めた。


「死体だぞ、さっきも言ったろ、呻き声を上げない人間はご主人たちが初めてだと」


「うーん、死体なら、いいのか?」


「どうなんだろう…でも私たちも動物の死体を食べてるわけだから…」


「死んだものに何が残る?生命が終わった時、その場に残るものは物体だけだ。そのまま腐らせるくらいなら食べた方がいいだろう?」


「犬と人間の倫理観の違いか」


「そうだろう。それで、死体を食べていたら気持ち悪くなって気づいたら喋れるようになっていたわけだ」


 このウイルスは人間以外の動物にも影響があんのか?でも未知のものだから何が起きても「そういうものだから」で説明がついちまう。


「なるほどねぇ、それでウイルスがあなたの体の構造を変えたのかしら?脳の構造も変わって頭が良くなったの?」


「そもそも、我らは人間の言葉を理解していたぞ?喋るための器官がないから吠えて返事をしていただけだ。あ、でも小型犬は違うぞ。あいつらは人間の言葉も理解していない。てかあいつら我にもキャンキャン吠えるし、あいつら嫌い」


「唐突な小型犬アンチ」


「あいつらは自分の力をわきまえていない、絶対勝てるわけないのに五月蝿く吠える。あいつらのいいところは小さくて守りたくなる所と、寝顔がかわいいところだけだ」


「あれ?好きなの?」


「好きではない!」


 何だかんだ言いながら歩いていると、マンションに着いた。そういえば、会長はこいつのことどう説明するつもりなんだ?


「はぁ、またみんなに変なもの拾ってきたって言われちゃうよ…」


「おい待て、変なものって俺か?俺のことなのか?何?俺野良犬扱いだったの?」


 どうやら犬の説明の仕方で悩んでいるみたいだ。俺のことでも面倒をかけているのに、飼い犬でも面倒をかけるのは申し訳ねえな。説明に協力する気は起こらないけど。というより…。


「なぁおい」


「なんだご主人?」


「お前なんて名前なんだ?」


「……以前の飼い主に付けられた名前はもう飼い主達と一緒に捨てた。別に何とでも呼んでくれてもいい、このまま犬でもお前でも好きに呼べ」


「はぁ?それだとわかりづらいだろ。じゃあいいよ、俺が付けてやる」


「む?まぁ我は何でもいいが」


 腕を組みながら犬を見る。名前ってどう付ければいいんだ?例えば見た目の特徴かな…こいつは銀と白の毛並みで青い目、凛々しい顔立ち…ふーむ。


「ポチ」


「ガルルル!」


「危な!?お前さっそく飼い主に噛み付こうとしてんじゃねえか!」


「何でもいいとは言ったが、適当に付けるなら付けないでいいぞ」


「ただの冗談じゃん…うーん、そうだなぁ……ぎん、銀なんてどうだ?ほら、お前の毛銀色でかっこいいじゃん」


「おいアズマ、あまりに単純じゃねえか?」


「キシシ、たしかに」


「あまり会話に入ってこないのにこういう時だけなんなのさ!」


 タケさんとネコにネーミングセンスのなさをいじられていると、銀(俺の中ではもう確定)が話し始めた。


「ふむ…銀……いささか単純ではあるが、ご主人が付けた名前、ありがたくいただくぞ」


「何様だてめぇ」


「みんなもう決まった?じゃあもう入るわよ、これからが大変なんだから…銀くんも行くよ」


「行くかぁ、明日からお前も手伝えよ?銀」


「キシシ、明日も農作業かぁ。頑張ろうね銀」


「ワフッ、よろしく頼む」


 名前が決まり、みんながマンションに入っていく。何でもないようにしているが俺にはわかる。可愛くない奴め、喜んでいやがる。


「お前もう名前気に入ってんだろ?」


「名前など何でも一緒だ」


「そう言うなって、銀ちゃん?」


「ガルルル!」


「危な!?」


 そんなやりとりをしながら、俺たちもマンションに入る。前を歩く銀を見ると、しっぽを振っていた。やっぱり可愛くない奴だな、素直に喜べばいいのに。

文字数が127.127字だったから少し書きたくなかったです。

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