12話 おまえぼーるな
少し時間が戻ります
アズマver
「はぁ…はぁ…強いなぁもう!!!」
武田の取り巻き数人を殺した後に、赤パンダとやらと戦い始めたのはいいが、如何せんこいつら強すぎる。聞いてないよぉ…パンダが走るなんてぇ…。
ただでさえパンダになるとリミッターが外れるのか、人間の通常時より倍以上の力を出す。だけど赤パンダはさらに倍以上強い、気がする。
数えたら13体いた。文字通り全力で戦えばこいつら相手でも凌ぐことはできる。だが1つ質問させて欲しい。人間は全力運動を何秒続けられるか知ってる人ってどっかにいない?
たしか8秒ぐらいだ。それはなぜかと言うと、人間はそれ以上運動すると体が壊れてしまうからというのが1つの理由である。他は知らん。
「うぷっ…うげろ」
何が言いたいかというと、こうして無駄なことを考えている間にも俺は全力で運動し続け、ゲロを吐きながら戦っている。昔の高校球児でもこんなに運動しなかったよ!知らんけど。
「ぐふっ!うぁぁぁあ!!!」
また無駄なことを考えている間にもこいつらは攻める手を休めない。助けてくれよ誰か。
話は戻るけど、今の俺にはひとつだけ限界を超える方法がある。それは…
『ピコン!ピシャピシャピシャ~ン!テッテレテッテッテ〜テテ〜!殺意スイッチ〜!(ダミ声)』
どうだ、前の音まで忠実に再現したぞ。これは国民的アニメ、ドラえおぶふぅ!?人がひみつ道具出してる時に攻撃すんじゃねえ!!!
…とりあえず殺意でリミッター外して戦えば何とかなるはずだ。もちろん体はボロボロになるけど、死ぬよりはまだマシだな。
「おぇ…はぁ…はぁ…悪いけど、お前ら殺すぞ」
いつもの脳内を虫が這いずり回る感覚と、視界が赤くなるやつがきた。これで何とかなるか?
「うぉぉらぁぁあ!!!」
きつく握りしめた拳を人間が繰り出すにはありえない速度で赤パンダたちの内の一体に放つ。
グシャァ!とザクロのように弾け飛ぶ敵の頭、それと同時にひしゃげる俺の拳。…え?
「がぁぁぁあ!?いでぇええええ!!!」
これまでの人生において、拳がひしゃげた経験などもちろんない。想像を軽く飛びこした痛みが右手に集中する。一体だけでこれかよ!あと12体いんだぞ!
「ふぅー!ふぅー!らぁ!…あ?」
覚悟を決めて振りはなった拳が空を切る。まさか、避けた?こいつら学習能力とかあんの?
避けられたことに関して考える暇もないほど、赤パンダは猛攻を続けてくる。
「いってぇな!このっ、あ!しまっ――」
抵抗していると、一体に腕を掴まれた。そうだ、こいつらは元々人に噛み付いて…。
「おい!まっでぇぇぇえええ!?」
食い千切られた。左腕の二の腕部分を。さっきから俺の発想力が乏しいわけではない、だが想像した何倍もの痛みがまた襲ってくる。
右拳の痛みが消えた。ちなみに人間の身体は複数の部分の痛みを同時に認識することができない。そういう場合は一番痛いところが痛む。つまり左腕の方が痛い!
「ヴァァア」
「ひ、ひぃぃぃい!?」
情けない声を上げながらまだ丈夫な足を使って距離を取る。だめだ、勝てない。こんなの無理だ。
端っから無理だったんだ。おんなじレベルの相手なのに、数に差がありすぎる。格下ならまだしも――。
『ボクの感覚で言うと死線を越えるとフェーズが上がるね』
「あ…」
俺が満身創痍だってのに、腹が減っているのかパンダは我先にとこちらに走ってくる。
「ヴァァア!!!アプゥッ!」
一番最初に俺にたどり着いたパンダの頭が――弾け飛んだ。
「そうだ…そうそう…俺がお前らより格上になればいいのか」
簡単な話だった。殺意を増やせばいいんだ。殺せない、なんて甘いことを言う気はない。こっちだって腕食われてるんだから、いいだろ?
「ヴァァアゴッ!!!」
ネコの言葉、そしてもう一つ思い出した。足は腕の三倍以上の筋肉がある。だから蹴りゃいい。
赤パンダの動きが止まる。やっぱこいつら少し知性があるのか?俺を危険視し始めた?
「…なんでもいいけどよ。ほんとに腹減ってんの?ちゃんと俺の肉を消化できてんのか?食うだけ食って栄養になりませんでしたじゃ済まねえぞ?」
いつのまにか痛みは消えていた。その代わりに、脳内物質がドバドバ出ているのを感じる。さらに視界が前よりも濃く、赤く染まる。それに加え、頭の中を棒か何かでかき混ぜられている感覚に陥る。
「…うっ、はぁ、はぁ、やバい」
少しフラついた隙に赤パンダたちは襲いかかってくる。しかしその動きは先程に比べると笑ってしまうほど遅い。
「ヴァァァァア!!!ヴ――」
「どした?はぁ、はぁ、遅えぞ」
蹴り砕く。足を掴んで振り回し叩き潰す。引きちぎる。首を持ち上げ地面に叩きつける。蹴る。潰す。ちぎる。ける。つぶす。つぶす。つぶす。つぶす…。
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高橋菜々ver
「はぁっはぁっ、無事でいて!」
モールがパニックに陥っている中。私はアズマくんを探しに、地下駐車場に向かっていた。アズマくんの場所は、モール組で洗脳されきれずにパンダの大群に対して騒いでいる人を軽く脅したら教えてくれた。
アズマくんは私たちの戦力だから、ここで失うのは…いや、自分自身に本音と建前を分けていてはだめだ。1人の可愛い後輩として、彼を失いたくない。
「はぁ…はぁ…ここが、駐車場ね…っ!?」
駐車場に辿り着き、中に入ると驚く景色が広がっていた。災害が起きてから、悲惨で、残酷な状況は何度も見て、慣れたつもりでいた。それでもまだ驚くとは思ってもいなかった。
駐車場内には、どうすればそこにつくのかと思うような場所いたるところに血が飛び散った痕があり、停めてあったであろう車は何台もスクラップにされていて、壁や地面に何箇所も穴が空き、そこに何体もの死体がぐちゃぐちゃになって投げ出されいて、そして――。
「アズマ…くんなの?」
「…ん、かい、ちょう?」
そして、駐車場の中心には穢れを知らないような全部真っ白の髪に、どっぺりと血のついた青年が寝転んでいた。
あざした




