8話 りーだー
あざす
「なんだよお前!生きてたのかよ!」
「お前こそ!てっきりもうやる気なくして死んでると思ってたぜ!」
「ぶははは!たしかにそうだな!」
数週間ぶりに会った隆二と話しながら、このショッピングモールに籠っている集団のリーダーに会いに俺たちはモール内を歩いている。
武器は全部取り上げられてしまったが、いざとなれば俺とネコでなんとか…あ、やっべ拳銃出し忘れてた。怒られるかなぁ?怒られたらやだなぁ。よし、バレないとこにしまっとくか。
「それにしても本当に大変…どした京次?パンツ弄って、何してんだお前?」
「ん?あーいや、チンポジ直してるだけだ」
「そんな直すほどおっきくねーだろ、どうせ今も縮こまって…かった!お前何この状況で勃――」
「あなた達うるさい!もっと静かにしなさいよ」
俺ら以外はみんな静かに歩いていたが、痺れを切らしたのか詩乃が話しかけてきた。
「すまねぇな神崎、なにせ久しぶりの再会だからな」
「そうだぞ詩乃…あ?おい隆二、なんで詩乃の名前知ってんだよ」
「そりゃ同じ高校だから知ってるに決まってんだろ、前に会ったことも――」
「そうだね、朝比奈くん」
不自然に遮るように詩乃が相槌を打つ。こいつらが仲良かったとか、または付き合ってたとかは考えられない。なぜなら隆二に彼女ができたら即俺にバレるからな。
注意されたからか小声で隆二が話しかけてくる。それにつられて俺も自然と声が小さくなってしまう。
「なぁおい、お前ら今どこで避難してるんだ?」
「なんでそんなこと聞くんだよ」
「いや、モールのリーダーがさ、めちゃくちゃ変なやつなんだよ。できればここ出て行きたいんだけど」
「あー、ここに何人避難してるか知らねえけど。お前1人ぐらいなら増えてもいいのかな?会長に言ってみるよ。てか変って何が変なんだ?」
「なんて言うか、頭おかしいんだよ」
「失礼なやつだな」
2人で話しながら歩いていると、集団が止まった。ここはなんか開けた場所だ。そして誰かが話しだした。
「今からリーダーに会ってもらう。リーダーは優しい人だから安心して話してくれ」
「ありがとうございます」
会長が礼を言うと、奥から見た目は三十代後半の男性が歩いてきた。こんな災害時なのに、きちっとスーツを着てにこやかな笑顔で歩いてくる。なんだよ、隆二ホラ吹いてんじゃねえか。どっからどう見ても普通――
「リーダーの武田克彦と申します。私たち以外にも生存者がいてとても嬉しいです。みなさんが助かっているのは全て神のおかげなので目一杯感謝してこれからも頑張っていきましょう」
うっわこいつ頭おかしいじゃん。
「は、はぁ。そうですね」
会長も引いちゃってるし。なんだこいつ?まるで神が本当にいるというような表情で話している。狂信者ってやつか?これで本当は信じてないってなったら、とんだ詐欺師だな。
マンション組がざわついていると、会長が話を再会し始めた。
「あの、それで私たちは衣服を貰っていってよろしいのでしょうか?」
「もちろんよろしいですよ。ただ、あなた方は服は汚れているのに体は綺麗ですね?どこで避難しているんですか?」
「先日川で体を洗いました。私たちが避難しているところはここに比べたら危ないですよ?」
うーん、やっぱ教えない方がいいのか。たしかに頭おかしいやつに言わない方がいいな。
「それはどこですか?」
「言わないとダメですか?」
「おい!リーダーが聞いてるんだぞ!さっさと――」
「テメェ、何してんだ?」
外であった奴らの班長らしき人が会長に銃を向けようとした瞬間、タケさんが銃口が向かないように抑え、相手に凄んだ。かっくいい!
あの銃は結局本物なんか?隆二に後で聞くか、こいつは武田に洗脳されてなさそうだし。
「貴様!離せ!」
「まずは銃下げろ」
「猛、大丈夫だから下がって」
「いや、こいつらは信用できねえ」
この場に殺伐とした空気が流れ始め、各々いつでも動けるような態勢をとっている。まさに一触即発、どんだけ危ねえんだよこいつら。俺も態勢を整えようとすると、隣の隆二が場の中心に出ていった。
「まあまあ!落ち着いてくださいよ!リーダー!この人たち、俺の知り合いです。だからリーダーが考えてるような危ない人じゃないっすよ!」
「…もともと私は疑ってなんかいませんよ。ただ、隆二くんのお友達なら学校とかに避難しているのでしょう。みなさん、すみませんでした。服はどうぞとっていってください。こういう時こそ助け合いの精神です」
「ありがとうございます」
すげえな隆二、昔っから人懐っこい笑顔ですぐに人と仲良くなれてたからな。武田にも信頼されてんだろ。
隆二のおかげでなんとか詳しく聞かれることなく服をもらえることになった。よし、レイに似合うやつ選んでやろ。
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モール内にある、スポーツ店で服をとりあえず取りまくる。その間に会長が話しかけてきたので会話をする。
「アズマくんはどう思う?」
「なにがすか?」
「武田さんについて」
「はっきり言って頭おかしいですね」
「はっきり言ったね…でも、信仰心は悪いことではないと思うわ。人間は辛い時にすがるものがあると心が軽くなるから」
「へぇ、じゃあ会長はあの人を信頼できると?」
「全然。私よりも大人なのに宗教なんかに逃げてる人は信頼でないわ」
「ゴリゴリに矛盾してますね」
「悪いことではない、でもそれに逃げるのは違うのよ。武田さんは100パーセント神とやらに頼り切ってるじゃない、やっぱり人間最後まで自分を信じて頑張らないと美しくないわ」
「頭の悪い俺には何が言いたいのかわかりませんでした」
「アズマくんは自分の力で生きて美しく輝いてるよ。もう散っても大丈夫なくらいに」
「できるだけ散らないようにしてもらっていいですかね?」
その後もこれからどうするかの相談をうけていると、近くから大きな声がしたので行ってみる。
「し、詩乃…?詩乃なのか!」
「えっ?トオル?徹生きてキャッ!?」
「よかった!本当によかった!」
「ちょ、ちょっとあまり抱きつかないで」
「どういう状況…?」
なんと詩乃がイケメンに抱きつかれていた。
どういう状況…?
あざあざあざ




