35話 嫌いだ
あざす
ネコの親父は当たり前のように起き上がり、話しかけてきた。結構強く殴ったんだけど。
「なかなか痛いじゃないか」
「強めに殴りましたから」
「君は…康太の友達かい?力を使えるようだね」
「友達っすね」
「わかっているよ、これを取りに来たんだろ?」
そう言いながら小さいチップみたいなのを取り出す。もしかしてあれがデータか?
「ああ、多分それですね」
「ふんっ、こんなものはいらん」
「あー!!!!」
パキッと音を立ててチップは砕かれてしまった。どうしてくれんだよ!
「君はまだ1割ってところだから、私には勝てないと思うけど、どうする?」
「アズマ!きみじゃ勝てないから逃げてくれ!」
調子が戻ったのかネコが話しかけてくる。
「逃げろったって、逃してくれるのか?お前の親父」
「帰すわけないだろう?」
「ほら、こう言ってるし」
それに、こいつはここで倒さないと後々俺たちに被害が被ってしまう。
「父さん!ボクはこれからちゃんと働くよ…だから、だからアズマを帰してくれ…」
「無理だ。お前みたいな役ただずの言うことを誰が信じるんだ?散々育ててやったのに、結果はどうだ?ただのクズになりやがって、私の苦労を帰してくれよ、本当にお前のようなク――」
「黙れよ」
「…アズマ?」
「なんだい?家庭の事情に首を突っ込むのかい?」
嫌いだ。仮にも親ともあろう奴が子に向かってクズだなんだと、そういうのは嫌いだ。腹が立ってくル。ああ、視界ノ赤色が濃くなっていク。頭の中を虫が這いずり廻ルような感覚ダ。
「うるせエよ、今すぐ殺スぞ?」
「なっ!?2、いや3割だと?…まさか君にも素質があったとはね、これは私も本気を出そう」
「ウルアアアア!!!」
俺は一瞬で距離を縮め、警棒を振るう。しかし避けられてしまった。それどころか敵は視界から消えてしまった。
「は?ブハァ!?」
殺気を感じて警棒でガードしたが、それでも威力は殺せず肋を突かれた。店内のイスやらを巻き込みながら転がる。
「む、反応はいいようだね。君が敵で残念――」
「ハァ!!!」
「康太、ちゃんと覚悟を決めて攻撃しなさい。こんな風にな!」
「うっ」
ネコの奇襲も軽く避けられ、ネコはこっちに飛ばされてくる。それを受け止めてネコに話しかける。どうやらさっき殴られたおかげで、俺は前みたいに狂うことはなさそうだな。危なかった。
「ネコ!俺らであいつを殺すんだ」
「アズマ…ボクにはできないよ…」
「…じゃあお前は死なない程度に殴られ続けてろ。トドメは俺がやるから」
「…ごめん」
「いいよ、逆の立場で考えたらわかることだ。それに、さっき殴られたついでに閃いたこともある」
「それって?」
「話してる暇はねえ、とりあえず戦える範囲で戦っとけ、お前は俺より強えんだ」
「わかったよ」
話をつけて2人で敵の方を向くと、こちらを黙って見ていた。舐めてんのか?
「ん?話は終わったかい?なら早く済ませてくれ」
「うっせえ!いくぞネコ!」
「うん!」
そっからの俺らはひたすら――殴られ続けた。たまに殴り返すことはできるけど、それでも圧倒的に殴られた数の方が多い。ネコは攻撃をいなしたりしているけど、俺にはそんな技術ないからもうボロボロだ。
くっそ痛えよ!右腕の感覚ねえし!俺は喧嘩なんて災害が起きるまで数えるくらいしかしてねえんだ。
俺とネコがお互い十数発殴られた頃、根本が話し始めた。
「ふう…そろそろ終わりにしようか」
「へ…へへ、そうだな。俺がテメェをぶっ飛ばしてしまいだ」
「アズマ…もうボクらに勝ち目はないよ。だからやっぱりアズマだけでも逃げてくれ」
「う、るせえぞネコ。やっとエンジンかかって来たところだっての」
「どうやら君は根性だけはあるみたいだね」
「は、ははは、言ってろ!!!」
もう何度目かわからない。恐らく常人では避けられない速度で警棒を振るうが、ギリギリで避けられた。当たれば確実に死ぬ、なのにどうして恐れもせずに避けられるんだこいつは。
「学習能力は無いみたいだ、ね!」
そう言いながら根本は俺に向かって拳を突いてくる。さすがにもう見慣れた。だから俺は拳に向かって顔を突き出した…
「アズマ!?」
「わざわざ自分から死ににくるなんて、馬鹿もここまでくると――!?」
「誰、が、馬鹿だって?」
「貴様…これを待っていたのか?」
何度も俺たちを殴った根本の拳は、ぐちゃぐちゃになっていた。
「馬鹿は、お前だろ、人間が何のためにリミッターなんてかけてると思ってんだ?限界を超えた力を使い続けていたら、拳を鍛えてない限り耐えられないだろ」
「しかし、片方を封じただけでは貴様も「アズマ!今だよ!」なっ!話せ康太!」
片方だけだとしても、拳が使えなくなったから動揺していたのだろう。根本は後ろから近づいていたネコに気付かず羽交い締めにされた。ネコの方が力は強いんだろ?じゃあもう逃げられないな。
「悪いなネコ、結局お前にも手伝わせて…」
「ま、待て貴様!…そうだ!仲間にしてやる!我々の仲間になり、共に野望を叶えよう!」
「野望なんてねえよ、生きる理由もないんだからさ」
「くっ、康太!お前ももう一回私の所に来い!お、お前ならわかるだろ?な?」
「父さん…どんな理由であれ、人殺しをする組織に協力するつもりはないよ」
「待ってくれ!私は騙されてたんだ!」
喚き続ける根本の元に歩みを進める、一歩、また一歩と近づく度に、根本は恐怖で顔が歪んでいく。
「そんな顔しないでくれ、俺だってできれば殺したくない。でもお前らは危なすぎる」
左腕を振り上げ警棒を握りしめる。ブチブチと筋繊維が切れる音が脳に直接の響く。
「や、やめてくれ!私は――」
限界まで力を込めた腕を振り下ろすと、硬いものを叩き割った感触、それと同時に柔らかいものを潰した感触が手に広がる。これはパンダの頭を潰した時よりも重く、ゆっくりと自身の体に響き渡る。
「あぁ…」
「アズマ…ごめんね、本当はボクの役目なのに」
意思をなくした肉塊となった根本を、ゆっくりと横たわらせてネコが謝罪してくる。
「…ここに地下はあるのか?」
「え?ああ、多分あるんじゃないのかな」
「じゃあ行くぞ、次はお前も働けばそれでいい」
近くに落ちていたジッポを拾い上げ、スタッフルームの扉に向かう。
「ま、待ってよアズマ!何をするんだい?」
「ここの支部は根本一人でやってるとは考えられない、だから残りを始末しに行く」
「…わかった。でも次はボクがやるよ、アズマは援護を主にやって」
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地下に行くと、5人の人間がいた。全員パンダ化する力を持っていたけど俺とネコで殺すことができた。
店の外に出る。もう体がボロボロで、ネコの肩を借りながらじゃないと歩けない。
お互い何も話さず、時間をかけながら移動すると、黒木先生が見えてきた。その周りにはパンダの死体がたくさん転がっている。
「アズマくん!?大丈夫なの!?」
「はは、大丈夫じゃないんで早く帰りましょ」
「黒木氏?アズマ氏が帰ってきて――めちゃくちゃボロボロじゃないですか!?」
篭っていたのか、ハツメは車から顔を出すとものすごく驚いてた。
ネコの肩を借りているから自然と俺ら2人が後部座席に座り、車が動き出す。
車内はものすごく静かだった。気まずいなおい。
自分の文章ってこんなんだっけ?ってなってまふ




