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パンデミック起きたけど生き残る気力がない  作者: ちぐい
一章 パンデミックがやってきた編
33/76

33話 ネコの友達

ネコ視点です。

 ネコver


 少しやりすぎちゃったかな?でもこれはアズマのためでもあるから仕方がないよ。

 数日前、アズマから新種のウイルスに関するデータを奪うために彼を傷つけてしまった。ボクはアズマ達にはこれ以上パンダで困って欲しくないんだ。


「それにしてもお父さん、待ち合わせ場所を変えるなら言ってよ。時間かかったじゃないか」


「すまない康太。急に変わったんだ」


 この人はボクの父親、根本秀忠(ひでただ)。アズマはあんなこと言ってたけどとてもいい人だ。


 孤児院にデータを持ち帰ると誰もいなかった。リビングの机にメモがあって、この場所に来るように書かれていた。

 アズマと戦った時の怪我を治すのと、()を使った()()の所為でここに来るのに2日もかかってしまった。やっぱり久しぶりに力を使ったからかな?


「でもこんなとこまで来て何があるの?」


「康太、今日からここが私たちの家だ」


「え?でもここ、カフェだよね?」


 待ち合わせに指定された場所は高校生が大好きそうな海外発のカフェだった。ボクはこういうとこ来たことなかったけど、壁のほとんどがガラス張りで外からよく見えてみんな恥ずかしくないのかな?


「まぁ、色々あったんだよ。それより康太、頼んでいたものは?」


「あ、はい!キシシ、たぶんこれでしょ?」


 ボクはアズマから奪ったジッポをお父さんに渡す。

 ジッポを受け取るとお父さんは、火をつけるとこを外して中を調べてた。すると中から袋に包まれたマイクロSDが出てきた。


「お、あったあった。よくやったぞ康太」


「お、お父さん撫でなくていいよ!」


 昔から、褒める時は頭を撫でてくれる人だった。恥ずかしいけど心が温かくなる。


「そういえばそのデータを持ってくる時にボクの友達がお父さんは怪しいって言ってたんだ。流石にボクも怒っちゃったよ」


「…その友達はお前がジッポを持ち出すのを見てたのか?」


「え?あ、う、うん。でもちゃんとお父さんに言われた通り殺したよ。必要な犠牲なんでしょ?」


「…そうか、ならいいんだ」


 事前に、ジッポの存在がバレたらその人を殺すように言われていた。新種のウイルスの存在を知られるのが危ないから必要な犠牲だと言っていた。

 でも実は殺していない、アズマも神崎さんも殺せなかった。もしかしたら殺さなくてはいけないという理由もあったから人と多く関わりたくなかったんだ。


「そ、そういえば新種のウイルスのデータってどんなものなの?」


「ああ、康太にはまだ詳しく言ってなかったか」


 嘘をついたことをバレたくなかったから話題をデータに戻すとお父さんが教えてくれた。


「実はな新種のウイルスってのは嘘なんだ」


「ん?どういうこと?」












「このデータの中には感染に対抗できる血清のデータが入っているんだ」


「………………………………………………………………………………………え?」


 頭の中が一気に真っ白になった。


「くだらない正義感を振りかざした奴らがこのデータを盗み出して全国に広めようとしていたんだ」


「ちょ、ちょっと待ってよ!」


「どうした?」


「ど、どうしたって何さ!それには血清のデータがあるの!?」


「そう言っただろう」


「じゃあ早くみんなに配らなきゃ!」


「その必要はない、今生きている私たち以外の人間には何にも価値がないからな」


「な、何を言ってるのお父さん?」


 目の前にいるお父さんが、今まで見たことのない表情で話し始めたから別人のように思えた。むしろお父さんがこんなこと言うはずないから、別人であって欲しかった。


「お前にも後で我々の考えを教えてやる、そうすれば理解してくれるだろう」


「…しいよ」


「なんだと?」


「おかしいよ!助けを求めてる人がいるのに!助けられるのに!見殺しをするなんてさ!!!」


「ふん、お前も友達を殺したのだろ?人殺しが何を言っている?」


「こ、殺してなんかない!」


「…ふぅ、やはり殺していなかったのか。ふふ、お前は優しい子だから無理だとは思ってたよ」


「お、お父さん?」


 お父さんはいつもの笑顔でボクに話しかけてくれた。やっぱりなんかの間違いだよね、だってこんな笑顔を向けてくれる人が悪いわけ――


「非情になれない人間はいらない」


「…お父さん?…何を…ゴフッ!?」


 お腹が熱くなり、見てみるとお父さんがボクにナイフを刺していた。…え?なんで?どうして?

 とりあえず怪我を治すためにパンダの力を使う。


「お前にはその()を使う素質があった。だから拾って、わざわざ養子にまでしてやったのに、使えない奴だ」


「…なんでこんなことをするの?お父さんはみんなを拾って助けてくれたじゃないか!!!」


「みんな?…ああ、これも言ってなかったか。貰い手が見つかったって言って出て行ったやつらはうちの組織に入ったか人体実験に使われていたぞ」


「………は?」


「お前には素質があることが分かっていたから近くに置いていたが、他は別にいらなかったしな。実際お前はウイルスを入れてから1ヶ月で使えるようになったし、やはり才能があったんだよ」


 さっきから何を言っているのかが全然わからない、わかりたくない。

 この人の言っていることは全部おかしい、ボクの家族はほとんどが人体実験の実験体にされていた?実験をしている側にボクの家族がいた?考えるだけで頭の中がぐちゃぐちゃになる。でもその中でもわかることがある、あのデータだけは壊させちゃだめだ。


「お父さん…そのデータは返してもらうよ」


「返すわけがないだろう?」


「力ずくでも…!」


「ふふ、親子喧嘩か?」


「もうボクの父を語るな!!!」


 ()を全力で使って殴りかかる。父さんは目で追うこともできないだろう。ボクの方は五感が研ぎ澄まされ、全てが遅く見える。

 拳が父さんに近づく、反応を示した、遅い、拳が近づく、やっと目がボクの拳を追う、遅すぎるよ、拳が、拳が、拳が父さんに届かない。


「…どうした康太?私を殴らないのか?」


「うる…さい!!!」


 覚悟を決めて父さんを殴る、殴る寸前に父さんとの今までの思い出が浮かんできた。覚悟を決めたはずなのに…拳に力が入らない。


「そんな程度で私を殺す気か?本気で来なさい」


「うっ…ああああああ!」


 拳がまた父さんに近づく、反応を示した、遅い、拳が近づく、やっと目がボクの拳を追う、遅すぎるよ、拳が空を切る、え?


「ぐはっ!?」


「今のは少し殺意がこもっていたな」


「どう、して?」


 父さんを見てみると片目がボクと同じく赤くなっていた。


「ん?私も()()()を使えるだけだよ。まぁ、私は4()()しか使えないがな」


 そう言いながら父さんはカツラを外した。そういえばボクが学校で怪しまれないように提案したのは父さんだった。


「…ずっと騙していたの?」


「だから言っているだろ?お前には素質があったから拾っただけだ。現にお前は()5()()まで使えているしな」


「ほんとに、ほんとにそれだけのために?」


 ほとんどない希望に縋るように聞く。ボクも本心では分かってしまっているんだ。でも聞かずにはいられない、自分の存在を否定された気がしたから。


「何度も言わせるな、そうだと言っているだろう。でももうお前はいらん、我々に反逆し得る存在になってしまったからな、悲しいものだ」


 本当に悲しんでいるように見えるが、悲しんでいる理由がわかるのでなんとも思わない。それよりもう何もやる気が起きない。友達もなくし、親もなくし、自分の存在意義をなくした。


「…はは」


「…頭がおかしくなったか、待ってろ、今すぐ楽にしてやるぞ」


 そういうと()はボクの首を絞め、持ち上げる。ああ、ボクはこんなに苦しいことを神崎さんにしてしまったのか。土下座してでも謝りたい、そんな機会もうないけど。


「ぐっ…ぐぐ」


「やはり1ヶ月も使っていると肉体の成長がすごいな、常人ならもう首が折れるほどの力だぞ」


 意識が遠のく中で、1人の男の子の顔が浮かぶ。…それは今まで人と関わるのが苦手で友達のいなかったボクに、初めてできた友達の顔だった。

 そういえば一つ言い忘れてたことがあったな、でももう向こうはボクの声も聞きたくないかな。

 悲しさなのか苦しさなのかわからないが涙が止まらない。


「ぐ…」


「しぶといがそろそろ限界だな」


 もうよく見えなくなってきた。

 あれ?今ドアベルの音…?組織の人が来たのかな?


「ん?すまないが、見ての通り今取り込み中なんだ。後で話は聞ガハッ!?!?」


 彼の手が離れ、ボクの体が地面に落ちる。吸えなかった分の酸素を一心不乱に吸っていると、視界が戻ってきた。

 気づけば倒れ込んだボクの近くに人が来ていた。彼とは違う人ということはわかる。仲間割れかな。










「ようネコ…死ぬ時にはあいさつに来るんじゃなかったのか?」










今では聞き慣れた声を聞いて驚き顔を上げると、いつもの面倒くさそうな顔ではなく、明らかな殺意を抱えた表情をしているボクの友達が立っていた。




友達って誰なんすかねえ〜?

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