表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
パンデミック起きたけど生き残る気力がない  作者: ちぐい
一章 パンデミックがやってきた編
25/76

25話 鈍い音

今回は第三者視点です。あってんのかな?

 それぞれが学校出発に向け準備をしていた頃、1人の人物が誰もいない理科準備室に入ってきた。

 その人物は覆面を被っていて、身体の線は細く、身長もそれほど高くないため、男性か女性かの判断もつかないが、学ランを着ているのでたぶん男であろう。

 男は部屋をしばらく見回した後、テーブルに近づき、テーブルの上にあるジッポに手を伸ばす。


「あれ、またケイになんか用事?」


 男がジッポを手にした時、部屋の入り口から女性の声がかかった。振り返ってみると神崎詩乃が入り口に立っていた。


「…」


「…ん?でも背が全然違うわね、あなた誰?」


 男は何も答えないまま部屋を出て行こうと出口に向かうが、詩乃が出口を塞ぐ。


「ちょっとちょっと、それはケイの大切な物よ?盗んじゃダメじゃない」


「…」


「あなた本当に誰よ?とにかく、それは返してもら…んぐっ!?」


 詩乃が男の持っているジッポに手を伸ばすと、唐突に男は詩乃の首を絞め上げた。


「…」


「んっ…ぐぐっ…あ゛あ゛!」


 静かな部屋の中に、詩乃の苦しむ声が響く。


 詩乃の目が上を向き、白目になりかけた時。覆面の男とは別の男の怒号が響く。


「テメェ何してんだ!!!」


「ぐっ…」


 怒りをあらわにしたアズマが覆面男の脇腹に前蹴りを入れ、覆面の下から痛みに耐えるような声が聞こえる。

 男が蹴られたことにより、首を絞められていた手から逃れることができた詩乃は激しく咳き込み、涎を垂らしながら無様になろうとも酸素を求めようと荒く呼吸を繰り返す。


「ゲホッゲホッ…うう…ゲホッ」


「おい!大丈夫か!?」


 まだ呼吸が戻らないが、状況を伝えようと必死に詩乃はアズマに伝える。


「ゲホッ…だ、大丈…夫よ。あいつ、ケイ…の、大切なライター…を」


「ライター?ジッポのことか!…おい、テメェただの盗っ人じゃねえな?」


「…」


 すでに蹴られてから体制を立て直していた男にアズマが問いかけるが、男は何も返さない。


「…はぁ、そうであって欲しくはねえが、一応聞くぞ?」


「…」


「お前…ネコか?」


「…」


「…」


「…」


「…」


「……どうしてわかったんだい?」


 ついに男は沈黙を破り、覆面を外した。そこには普段アズマにネコと呼ばれている少年の顔があった。


「わかったというか、怪しんでいたことはいくつもある」


「キミはボクを怪しんでいたのかい?悲しいなあ」


「茶化すなよ…?俺は今本当にキレてるんだぜ?」


「キシシ、ごめんごめん。それで、何でボクを疑っていたんだい?」


「…一番最初は違和感だけだった。すぐにどこか行くし、極力人と関わっていなかったし。その違和感が疑いに変わったのは、ネコ。お前の名前だよ」


「名前?ボクの名前は本当に根本康太だよ?今言っても信じてもらえないだろうけど」


「その根本康太っていう名前が2年3組の生徒名簿になかったんだよ!!!」


 先日アズマが職員室で生徒名簿を調べた際、根本康太という生徒は存在していなかった。そこでアズマはネコよりも早く山本幸治を探し、目ぼしいものを回収していた。


「アズマが生徒名簿を見るなんて意外だったな。会長とかは気づきそうで怖かったけどさ」


「会長たちは死んだ人に集中しすぎて気づかなかったんだろ。あの人たちも疲れてるんだ」


「でもアズマ、どうしてジッポを隠したりしたんだい?おかげで少し手間がかかったよ」


「それが何だかはわからねえ、でも今のお前にはなんか渡しちゃいけない気がしただけだ」


「これが何かは知らないんだね?じゃあ何かを知ればアズマも喜んで渡してくれるよ」


「なんだよ、言っとくけど詩乃の首を絞めている時点でテメェに対する怒りは変わらないからな」


 ネコはアズマが何も知らなかったことを知って安堵していた様子だ。知ればきっと喜んでくれるだろう、といった表情で始めた。


「このジッポの中には、ボクらの認識でいうとパンダの新種のウイルスについてのデータが入っているらしいんだ。それでこのデータを破壊するのがボクの目的だったんだよ」


「…らしい?」


「ボクのお父さんがそう言ってたんだ」


「お父さん?ってこの前言ってた孤児院の院長か?」


「そうだよ。それとアズマには謝っておきたいんだけど、この間ボクが言った、O型はパンダにならないって情報は少し嘘だったんだ。お父さんにそれは言ってはいけないって言われてたからね、でもパンダにならないのは本当だよ?お父さんが言ってたんだから」


 ネコは少し様子がおかしいまま、アズマにジッポの中身について話し、先日の嘘を詫びた。


「…お前の親父さんはなんでそんなこと知っているんだよ」


「それはボクにもわからない。でも、この中身はわかってくれただろ?新種のパンダなんか出てきたらみんな大変じゃないか」


「その話が本当ならな」


「…なんだい?アズマはボクのお父さんを信じていないのかい?」


「だってそうだろ?情報が手に入らない今、事前に知っていなきゃそんなことわからないだろ。その情報を知っているってことはお前の親父は怪しいよ」


 自分の育て親を疑われ、ネコは少し肩を動かした。そして、目の前のアズマに対して若干敵意を混ぜた視線を送る。


「たしかにそれは怪しいさ、でもボクを拾ってくれたんだ。優しい人だから人々のためになることをしていると思うよ」


「ネコ…お前ちょっとおかしいぞ?お前の親父に騙されて――」


「あの人のことを悪く言うなよ!!!ゴミみたいな親に捨てられたボクを育ててくれたんだぞ!?そんな人が騙すわけないじゃないか!!!」


 (はた)から見たら、誰しもが「狂っている」と言いそうな様子で、今までネコからは聞いたことのない声量でネコは叫んだ。その目は狂信的だった。


「…ネコ」


「キシシ…アズマなら分かってくれると思っていたよ。でも納得してくれないなら力ずくでもボクはデータを持ち帰るさ」


 その独特な笑い方も、どこか悲しさを感じさせる声色だった。そんなネコに対して、アズマはバットを構えながら話しかけた。


「…やっぱりお前の親父は怪しいぞ、お前が力ずくなら俺も力ずくでも止める」


「キシシ、アズマがボクに勝てるとでも?」


「ちょ、ちょっと2人とも!やめなさいよ!」


「うるせえ!怪我するから下がってろ!」


 2人を仲裁しようと、呼吸を取り戻した詩乃が割って入ろうとするが、アズマに止められた。


 先程とは変わって、いつも通りの声色でネコが話しだす。


「キシシ、じゃあ行くよ?」


「…っ!」


 接近してきたネコに合わせるようにアズマはバットを振るう。


「遅いよ」


「な!?」


 ネコは振るわれたバットをいとも簡単に避け、アズマの手を叩くとバットが遠くに転がっていった。

 武器がなくなったアズマはネコに対して突きを放つ。


「くそ!」


「ん?キシシ、アズマに稽古をつけたのは間違いだったかな?筋はよかったけど、まさか1週間足らずでここまで強くなるとはね」


「うるせえ!」


 屋上でしていた稽古とは違い、殺気を伴った突き、投げ等をを2人は繰り出していく。

 互いに相手の攻撃を受け、傷つきながらも次々と攻め合い、鈍い音が部屋に響き渡る。

 そして、アズマがネコの髪の毛を掴んで殴りかかった。


「オラァ!!!…は?」


「キシシ」


 髪を掴んでいたはずなのに、殴れず空振りしたことに対してアズマは素っ頓狂な声をあげ、ネコはそれを見て笑っていた。

 笑い声のする方をみるとアズマは衝撃を受けた。


「お前…ズラ被ってたのかよ、それになんだよその髪の毛…」


「キシシ、本当に強くなったね」


 アズマの前には、半分白髪混じりのネコがいた。その時アズマは先日あったお面の人物を思い出していた。


「もう少し弱かったら手加減できたんだけどね…悪いけど本気で行くよ?」


 そう言うと、ネコの左目が赤く染まっていく。

 アズマは信じられないものを見て動けずにいた。


「は?ゴフゥ!?」


「ケイ!」


 先程とは見違える速さでネコは突きを放ち、アズマは避けることもできないまま飛ばされた。詩乃が心配した声をあげるがアズマの耳には届いていない。


「ああ、ごめん。強く殴りすぎた」


「ゴホッ…てめぇ…」


「え?あれで立ち上がれるのかい?すごいな、でも次かかってきたら本当に危ないよ」


「うる…せえ!…アアアアア!!!」


 ネコの制止の声を聞かず、アズマは雄叫びをあげながら向かっていく。


「はぁ、死なないでくれよ?」


「アアアアア!!!…は?」


 アズマの目には、先程まで見えていたネコの姿が消え、今は教室の天井が近い位置で写っていた。

 ようやくアズマが、自分は投げ飛ばされたことに気づいた時にはゴシャッという音ともに意識が途絶えた。


「きゃあああ!ケイ!?ケイ!ケイ!!!」


「…神崎さん、いくら呼んでも無駄だよ。今のはさすがに意識が飛ぶ、もしかしたら死んだかもしれない」


 地面に対して垂直に落とされたアズマを見て、詩乃が叫びながら駆け寄り声をかけるが、アズマはピクリとも動かない。

 叫び続ける詩乃を見かねたのか、ネコが詩乃に話しかける。それに対して詩乃は、アズマを抱きかかえたままネコに敵意剥き出しの目を向ける。それだけで人を殺せそうな程の視線だ。


「なんでこんなことをするの!?」


「アズマがボクを止めたからだよ。でもこのデータは本当に、生き残っているみんなに対しては危険だ」


「あなたとアズマは仲よかったんでしょ!?戦いだとしてもここまでしなくていいじゃない!」


「アズマが強くなりすぎたんだよ。ボクの()()()()()()倒せないくらいにね…仲よかった、か。ボクは今でもアズマは友達だと思っているよ、それはアズマに伝えといて欲しい。じゃあそろそろ行くね」


 そう言うとネコは二階の窓から飛び出していった。

 教室に取り残された詩乃は、隻眼の赤目で見られた恐怖で動けなかったことを歯を食いしばって涙を流し悔やんでいた。


「言えるわけないじゃない…そんなこと」


 その声に反応するものは誰もいなかった。

ネコェ...髪が清潔なのはカツラだったからか

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ