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パンデミック起きたけど生き残る気力がない  作者: ちぐい
一章 パンデミックがやってきた編
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23話 ふかしこいてんじゃねえよ

あざす

 変なお面つけてソファに座っている奴の姿を観察してみると、髪の毛は真っ白で服は学ランではなくスポーツウェアを着ている。

 そいつの周りが少し蜃気楼のように歪んで見え、触れるもの全てを傷つけそうな刺々しい印象を受けた。そして、お面の下から覗かせる、幾多もの修羅場を潜り抜けていそうな鋭い眼光は、真っ直ぐと俺を捉えていた。


「…はぁ、いつまでそう突っ立ってるんだ?ここに座ればいいじゃないか」


 そいつはお面の下からくぐもった声を出しながら、ポンポンとソファを叩いている。声からして男であることはわかった。それ以外は何もわからない、そもそも何でこいつは俺のこと知ってるんだ?


「い、いやいやいや。得体の知れない奴の隣になんで座んな――」


「いいから座れ」


「あ、はい」


 そいつの周りの歪んだ空間が更に歪んだように感じた。え、何?これもしかして殺気?目に見えちゃうくらいの殺気ってどんだけやばい奴なのこいつ?


「とりあえずタバコ吸っていいか?」


「あ、どうぞ」


「悪いな…あれ?ライターがないぞ?お前なんか火つけるやつ持ってない?」


「ジッポなら…」


「お!それそれ!サンキュー!」


 お面を少し上にずらし、タバコを咥え火をつけ煙を吐き出す。タバコを持つそいつの手は細かい傷がたくさんあり、やはり何度も戦って傷ついているのだろうかと思わされる。男はそのまま使ったジッポをポッケに入れて…


「俺のジッポパクんな!!!」


「お、悪い悪い。つい癖でな」


「どんな癖だよ…」


「…」


「…」


 そこで会話が止まり、部屋には外から聞こえる微かな音と、男が紫煙を吐き出す音しか聞こえない。気まずくなり、自分もタバコに火をつける…うへぇ、やっぱまじぃ。


「…」


「…」


「…」


「…」


「…ふぅ、よし、帰るか」


「何しにきたの!?」


 男はタバコを吸い終わると突然帰ると言い出した。まじで俺はこの男のことを知らない。そして男が何のために来て、何をしているのかもわからない。


「いや、別にもう用は済んでるし」


「俺に会うことが用なのか!」


「んー、そんな感じかな。…じゃあ時間はまだあるから良いことを教えてやるよ」


「なんだ?」


「お前らは変質者のことパンダって呼んでるだろ?」


「なんで知ってんだよ」


「ん?まぁ、俺の友人が言ってた」


「なんか怪しいなお前…」


「そこはどうでもいいだろ、そのパンダについて俺が知ってることを少し教えてやろう」


 この男と話しているとなんか腹が立ってくる。でもパンダに関する情報ならもらっておくほかない。本当かはわからないが。


「お前らは目の赤いパンダはもう見たか?」


「目の赤い?」


「あれだよ、あのー、普通のパンダより強え奴」


「そんな奴がいるのか?」


「いるんだよ。そいつらは元々O型だった人間が死んでそうなってるんだ」


「O型?O型はパンダにならないって本当かはわからない情報なら知ってるけど、やっぱりO型も死ぬのか?」


「いや、その情報はあってる。実はO型はパンダのウイルスに対する抗体をもってるんだ。だから噛まれただけじゃパンダにはならないんだよ、ただ死んだらO型の奴の方がやっかいだ。さっき言ったように普通より強くなるからな」


「そうなのか…じゃあ俺は噛まれただけじゃ死なないんだな?」


「そうだ。それともう一つ、ウイルスに感染した後に死ななかったO型は強くなれる」


「は?どうやって?」


「ウイルスを使って身体を活性化させることができるからだ。詳しい構造は俺にもわからねえけど、てか聞いてなかった」


「適当だな…」


「いいんだよ。ウイルスの使い方は感覚で覚えろ、俺はそうした」


 色んな情報が一気に入ってきて頭がパンクしそうだ。気を紛らわすようにタバコを吸う。うーん、まずい!


「ぶふっ」


「あ?なんだよ?」


「いやすまんすまん。あまりにも初々しいしくてな、ふかしてるだけじゃタバコがもったいねえぞ?肺まで吸い込め肺まで」


「なんだよ!今日から吸い始めたんだから仕方ねえだろ!」


 笑いやがって!誰しも最初はこんなもんなんじゃねえのか!やっぱこいつ腹立つ!


「だから謝ったろ、あ、もう一つお前に話…ゴフッ」


 また笑われているのかと思い、後ろを向くと、男が血を吐き出した。お面の下から血が垂れてきて、男が床にヘタリ込む。


「は!?おいどうしたんだよ!血吐いてんじゃねえか!今他の人呼んできて――」


「まあ落ち着け、俺に残り時間がないだけだ。案外話すのが楽しくて時間を忘れていた」


「時間がないって…死ぬのか?」


「…そこら辺は心配すんな。俺はそろそろここからいなくなるけど、最後にお前に言っておきたいことがある。」


 助けを呼びに行こうとした俺を止め、男はお面の下にある双眼で真剣に俺を見据える。


「力に溺れるなよ?自我を失ったらそこでおしまいだと思って戦え」


「わかったよ。だから助けを呼ぶから大人しくしといてくれ」


「あと、惚れた女には優しくしろ」


「わかった。わかったから」


「それと最後に」


「お前実は余裕あるんじゃね!?結構喋ってるけど」


「かはは、だから言ってんだろ?心配すんなって。最後に言うのは、タバコは女の子に嫌われるぞ」


「最後がそれ!?」


「もう言いたいことはだいたい言えた…よっこらしょっと」


 男はさっきまでの疲弊した様子とは打って変わり、体を軽々しく起こした。さっきまで吐血していたとは思えないほど軽やかな動きだった。


「…は?」


「じゃ、俺帰るわ!アディオース!」


 男はそれだけ言うと窓から外に飛び出して行った。


「ちょ、待てよ!ここ二階だぞ?」


 急いで窓辺まで行き、下を見たが男の姿はどこにもなかった。

 本日2回目の「ちょ待てよ」もスルーされた。俺の「ちょ待てよ」はそんなに弱いのか…

 男の方はなんか本当に元気そうだし大丈夫だろ、どうせこのまま生きてたらまたどっかで会うだろうし。


「騒ぐだけ騒いで帰りやがった…疲れた。あいつが言ってたようにタバコ肺に入れてみるか」


 タバコを吸おうとして、タバコを入れておいた胸ポケットに手を入れるがタバコは入っていない。他のポッケも、教室内も探してみるけどない…


「…あの野郎!タバコパクっていきやがった!!!」


 謎のお面男とあった時と全く同じように俺の声が誰もいない理科準備室にこだました。違うことと言えば、夕日がとっくに沈んでいて部屋が暗くなってたことぐらいだ。


お面野郎は華麗に去るぜ。

今回は新たな情報が盛りだくさんでしたね。

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