19話 ママァ
この話は、未成年者に飲酒喫煙等を推奨しているものではありません。未成年者の飲酒、喫煙は法律で禁止されています。イキって吸ったり飲んだりするのはダサいぜ未成年よ。親は泣かすなよ。
黒木真美ver
高橋さんによると、学校敷地内のパンダは全て倒し終えたみたい。彼女は私より年下なのに、みんなをまとめあげて生存者たちの安全を高めている。すごいわ。
今日は、全ての遺体を集めて火葬するためにベルトや貴重品を取り除き、校庭の一箇所に集める作業を主にしている。私は校門の前にいた1人の遺体の前に立ったまま動けずにいた。
「幸治さん…」
私の前には男性教員の遺体が転がっていた。彼は山本幸治、私の先輩であり彼氏だった。大学を卒業して2年しか経っていない私をよく面倒見てくれた優しさに惹かれ、彼から告白された時はとても嬉しかったのを今でも覚えている。
事件が起きた当時、田中くんからパンダに幸治さんが幸治さんが襲われたと聞いてから、しばらく時間があいたので気持ちの整理がついているつもりだった。でも遺体を前にするとどうしても現実が受け入れられなくなった。
「どうして…まだ一緒にいたかったのに…」
「あ!マ、黒木先生!どうしたんですか?」
振り返ると、私が担任をしていたクラスのアズマくんが立っていた。
「えっ?あ、アズマくん…お疲れ様」
「お疲れ様です。それは…山本先生ですね」
「そうよ。いい人だったわ」
「…お悔やみ申し上げます」
「ふふ、ありがとうね。さ!早く弔ってあげましょ」
彼の遺体を漁ると、彼が好きだったタバコと大切にしていたジッポが出てきた。
「山本先生、タバコ吸ってたんですね」
「そうね、私の前では吸わないようにしてくれてたみたいだけど」
「……先生、それ俺が貰っていいですか?」
「ええ?一教師としては絶対に渡せないわね…」
「いつ死ぬかわからない今、やりたいことは全部やっておきたいんですよ」
「んー、一理あるわね。こんな事態になっちゃったしね…使いたい人が使った方が彼も喜ぶかな?はい」
「ありがとうございます!大切にしますね」
「そうしてあげてちょうだい。さて、運びましょうか、アズマくん手伝ってくれる?」
「もちろんですよ!マ、黒木先生の頼みならなんでも聞きますよ!」
「ありがと、でも自分の体は大切にね?」
「ハァーイ!」
以前は何も思わなかったけど、アズマくんを見るといつか死んじゃうんじゃないかとハラハラするようになって、どうしても構いたくなってしまう。
「ママは…あっ」
「ふふっ、私はアズマくんのママじゃないわよ?」
「すいません間違えました首吊ります」
「そこまでしなくていいわよ。ママと間違えるくらい頼もしく見えたってことにして喜んでおくわ」
アズマくんは頬を赤らめながらお礼を言ってくる。こういうところは、いつもハラハラさせるアズマくんではなく普通の可愛い子供に見えてしまう。私は子供はいないし結婚もしてないけど、自分の息子がいたらこんな気持ちなのかしら?
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遺体を置く場所に行くと、1人の男子生徒がこちらに向かってきた。彼はたしか…
「キシシ、おつかれアズマ。黒木先生もお疲れ様です」
「あ、ネコ」
そうだった。アズマくんにネコと呼ばれている子だ。本名は根本くんだったかしら、3組の授業は見てないからこの事件が起きたから知った生徒だ。
「それは、山本先生ですか?」
「あ、そうだった。ネコ、お前が探してるような物は何もなかったぞ?」
「根本くんは山本先生に何か預けていたの?」
「そうなんです。でも持っていないとなったら、学校のどこかにあるのかな?」
「残念だったな」
「キシシ、アズマも探してくれてありがとう。あとは自分で見つけるよ」
そう言って根本くんは去っていった。
「じゃあ先生、俺も用事を思い出したのでそろそろ行きますね」
「ここまでありがとう。また時間があればお話ししましょ?」
「!?ハイ!!!ハァーイ!」
大きな返事をしてアズマくんは校舎に入っていった。
…アズマくんは根本くんのこと猫って呼んでるけど、アズマくんも結構犬みたいなところがある。私と話す時は嬉しそうに見えない尻尾をブンブン振ってるように見えて、そこがまた構ってあげたくなっちゃうのよね。
今回はみんなお待ちかねの黒木先生視点の話でした。え?待ってない?俺だけ?




