7.超能力者はcafeにいる
放課後は、基本的に行きつけのCafe(二回目)〔チェレンコフ〕でティータイムする。
頼むのは、今まではイチゴ牛乳だったけど最近はミルクティー。ほっちゃんはといえば、上品なカフェオー~レ(巻き舌)だ。
そこに諸々の都合で、ケーキだったりバームクーヘンだったり羊羹が付く。ちなみにほっちゃんは羊羹が好きなのです。
そして、それらを添えものにしたおしゃべりなのだけど……最近は、もっぱら“超力科”、ひっくるめて超能力関連のことに話が飛ぶ。
「──昨日の超力科さ。サイコったら結構負けず嫌いだったみたいで、一回負けたからって、今まで私にリベンジしまくってたんだって。ひどくない? おまえちっちぇな! ふっはっは! みたいな。ね?」
「うん。気持ちは……正直、分かる」
「だよね! ……え、どっちの?」
〔自明だろ〕
ほっちゃんは曖昧に笑った。誤魔化したな。かわいい。誤魔化されてくれよう。あとイグニスは後で反省会だかんね。
「……。私は、男子とやってみたんだけど」
「え!? だいじょぶだったの!? あんまり得意じゃないじゃん」
ほっちゃんはこの通りちょっとだけ物静かなタイプなので、男子とお話したりなんだリは苦手みたいだ。
それが、一足飛びにスター☆彡レボ★彡リュー☆彡ションを介した肉体的コミュニケーションを行うともなれば、尻込みするのも当然といえばそうだろう。
「ちょっと、大変だった。怖かった」
「誰? あとで爆発させるよ? 住所は?」
それさえわかれば、あとはイグニスに狙いを付けてもらえれば距離は関係ない。遠距離の座標爆破は昔やったことあるし、まあちょっと慣らせば大丈夫だろう。
「え……いや……そこまでじゃない、かな。それよりは、やっぱり戦うのは怖いなって」
「そう? あ、でも、ほっちゃんは近くで相手とぶつかるから、そういう迫力がモロなんだね」
「うん。……男子だと、もっとね」
「くはー。その辺、結構たいへんだよねこのゲーム」
スター☆彡レボ★☆彡リュー☆彡ションはそこまで戦闘に偏っているわけでもないけれど、一応ファンタジーなRPGを名乗っているので、その辺は避けても通れないみたいだ。
道端のちょっとしたランドマークとか、なんかゴミの落ちてそうなところとかに、ゲーム内アイテム・通貨が落ちていたりはするのだけど、得てして、そういうのは微々たるもの。
一応レベル制を採用してるこのゲームで諸々効率がいいのは、やっぱり戦闘を絡めた稼ぎだ。
モンスターどーん。レベラッ。あとお金とアイテム。換金。次は俺より強いやつに会いに。以下繰り返し。何もかも無駄がない。丸稼ぎだ。モノが違いますよ。
おまけに、アレだ。……なんだっけ……えー……ん? ああ、ほっちゃん。それかも。RMT! いや、なんか違う気がする。……あ、そう、それそれ。
ポイント制だ。ポイント制!? と思う方もいるということで、説明しよう!
つまり、大事なことだけ言えば、こう。
さっき言ってたお金とアイテム。ゲームで得られるこれらは、ポイントとして、現実のサービスで使える、ということなのだ! な、なんだってー!(2回目)
……いや、ほんとなんですねこれ。
TURUYAカードとかそういうので付いてくるポイントと似たようなものだけど、このゲームのポイントはもっと主体的な位置にある。
そう、ゲームのプレイが、実質の小遣い稼ぎとして機能しちゃうのだ。革命ですよ。半分パ〇スロの域に足突っ込んでる気もするけど、それよりは健全。健全です。
……そしてお気づきかな。ふふふ。じつは伏線はっております。そしてすぐにネタ晴らしだ!
私たちが今、このカフェで飲んでる元手は、どっから出てると思う? つまり、そういうこと。
「──そういうわけで、後でポイント稼ぎ手伝ってくれないかな? だいじょぶ! ほっちゃんは私が守るよ!」
「うん。……うん? いいけど……ほのちゃん、たまに話が飛ぶよね」
「そうかな。とにかくよし! じゃあ、今日はごーせーに行こう! へいマスター!」
いつもの窓際席から立ちあがって、だんでぃーずむ溢れるマスターを呼び出す。
「はいはい。ご注文は?」
「私ショートケーキ! ほっちゃん何にする?」
「……じゃあ、水羊羹と、緑茶を」
「承ったよ。少し待っていてね」
カウンター奥へ消えていくマスターから目を離して、ちょこちょこARの表示をいじる。
「なにしてるの?」
ほっちゃんが、ずいと私の横へ移って画面をのぞき込んでくる。マナー違反というなかれ、かわいいは正義なり。
「へっへっへ。今日は私のおごりだぜ、かほ……」
「……あ、商店街クーポン……きゃ、きゃー、すてきね、ほのか……ちゃん」
「ジャスティス!!!」
「ひぇっ!?」
そんな感じで適当に小芝居してたら、からからと呼び鈴を鳴らして、来客が来た。
こう言っちゃなんだけど、このお店は常連さんは一杯だけど時間が決まってて、繁盛してるかというと微妙だから、お客さんは珍しいっちゃあ珍しい。
誰かなとちょっとだけ目を向けて……目があった。
「げ」
「──あら、安斉さんに万乗さん。ご機嫌よう」
クレイジーサイコこと、天蓋才湖のエントリーである。
★☆彡★☆彡★☆彡
いや、なぜここに。
問答の末、「偶々ですわ」という甚だ怪しい証言しか得られなかった。まあいいや。
マスターが、私たちの席とサイコの間にすっと入ってくる。
「はい、ショートケーキと羊羹だ。緑茶は今出すよ。……おや、お嬢さん。ここがお気に召したなら、お好きな席へどうぞ?」
そう言って、戻るときもすっとテーブルを離れる。だんでぃー。
マスターの言に従って、サイコは席に着いた。
……ちょうどほっちゃんが私の隣に移動して空いた、私たちの向かい側に。いや、なんでやん?
「前から気になっていたのよ。このお店は」
「そうなんだ。……そうじゃなくてさ」
「私としては、そんなところで同級生を見かけたとあれば、声をかけない訳はないわよね?」
サイコは外面はいいので、まあ、そうなのかもしれないけど。
「でも、ちょうどよかった。少し、貴方たちに話したいことはあったの」
やっぱりさっきのは建前じゃないか! にこにこしてるけど目は笑ってない時は、大体なんか一物抱えてるってことくらい短い付き合いでもわかるんだからね!
ほっちゃんも危うげな匂いを感じ取ったようで、恐る恐るといった風に聞く。
「……私たちに、ですか?」
「ええ、万乗さん。時間は取らせないわ」
マスターが緑茶を携えてきた。返しに、サイコが紅茶を注文する。なんか宇宙人みたいな名前のやつだ。く、お嬢様っぽい。
「いつもここに集まっているのかしら?」
「……そうだよ。私とほっちゃんで」
「穏やかでいいところね。万乗さん、に、は、とても似合っているわ」
「え……そ、そうかな」
ほっちゃんが私を見る。え? 確かにこのカフェとほっちゃんはお似合いだと思ってたけど、どしたの。
「……。うん。ありがとう、天蓋さん」
「……どういたしまして」
謎の間がありました。え、ほっちゃん、なんかサイコと仲良くね……? むむむ。疎外感。話題変更だ。というか、気になったので本題に入ろう。
「と、ところで用って何さ! 私たちだっておしゃべりで忙しいんだからね!」
「ふぅん? 楽しく時間を潰しているように見えたけれど。まあ、いいでしょう」
大したことではないのだけれど、と前置きして、サイコが喋る。
「──端的に言えば、お手伝いを頼みたいのよ」
商店街クーポン:100~5000Pまで存在する。1P/円。入手方法はさまざま。