5.ワキサイコ411
「今回、お前は天蓋と組んでもらう」
な、なんだってー!
……と驚いてみたけど、別に何度かやったことあるので全然普通のことだ。
ただ、サイコってば、つよいうえにコスいというかズルいというか、なんか素直に納得できないアレだ。だからあんまりやりたくないのだけど……。
「よくてよ」
サイコはといえば、いつもこんな調子でふふんと笑って私とやるのに結構乗り気なので、だいたいそれで押し切られちゃうのだ。きゃー、私ったら女ったらし! あんまり嬉しくない。
「うむむ……いーでしょう! やったりますァ!」
「そうか。では模擬戦を始める」
リアクション少ァ!
ぶいん、とライト剣(ARだとそう見えるだけで、実際は刃の部分がスポンジになってる)を構える。向こうも同じくそれを構えた。
まあ、サイコのはなんか片手で持てる箒くらいの長さを剣道っぽくきっちり構えてるのに大して、こっちのはちりとりくらいのちっさいやつを腰だめにしてる鉄砲玉スタイルで色々差があるけど。
そんな感じでにらみ合うと……こう、なんというかもう不利な感じあるじゃない? 剣豪VSチンピラとかごろつきみたいな? この時点でちょっと気後れしてる。おのれサイコ!
おんどれぇ! とか、ふしゃー! とかサイキック威嚇をかまして対抗していると、カウントがあと20秒くらいになって、サイコが話しかけてきた。
「安斉さん」
「な、なに!?」
「靴ひも」
え、と足元を見ると紐がほどけている。おっと危ない。くつひもって何回直してもほどけるときあるよね。急いでるときとか特に。なんだよサイコいいとこあるじゃん。
もうすぐ始まるので急いで結びなおそうとしゃがんで取り掛かるけど、なんだか手ごたえがおかしい。
“もう結ばれてるような感触がする”。とりあえず一回ほどいてもう一回結んでと。
立ち上がったら、目の前に思いっきり振りかぶったサイコがいた。
『──START!』
「ってなにぃーー!!?」
「ふっ」
べしーんと、ぎりぎり避けたので頭ではなく肩に剣が当たる。ああ、HPが!
「緊急爆発っ!」
近距離で即時サイキック爆発を敢行し、サイコを怯ませる。爆発で自分のHPがさらに減るけどしょうがなし! 同時に戦略的後転! 体操着が汚れた。うーむ。
「……前々から思っていたけれど。その力、厄介ね」
距離も離れて一息ついたと思ったら、サイコは微笑みながらこちらを睨んでそんなことを言っている。
「ふはは、褒めてくれてありがと……じゃない! くつひも! くつひもだよ! 今始まる前に使ったでしょ!? サイコのサイキック!」
「──だから、撃たれる前に潰さなくてはね?」
うわ、話聞いてない……いやなんかにやけてるし誤魔化したな!? お巡りさんこの女です!
しかし、この世は残酷っ……! お巡りさんなんて今いないし、JD先生もこっち見てないし!
だったら悪は私が裁くぜ! 私を怒らしたらそりゃ怖いんだからね!
カモン、イグニっちゃん! サポートよろしく!
〔……あの女は疲れる〕
イグニっさんにも引かれてるなんて大概アレだねサイコさん。そんなサイコ、修正してやる!
もはやサイコという字面を連呼したいだけウーマンな私が選んだ一手は、待つことだった。
そこにサイコが突っ込んできて、間合いがぎりぎりのところで振りかぶってくる。……けど、多分アレは偽物だ。
サイコのサイキックは“幻影”で、幻を相手に見せるテクいヤツだから、そういうこともできるわけですな。
こっちからはすぱっと幻! って見分けるのができないから中々難しいんだけど、じゃあなんで待ってたかといえばイグニっチャウダーくんが何とかこうにか気合で見分けてくれて、動きを報告してくれるからだ。
〔……左、前だ!〕
ほらね。私は左前方を大爆発オブザサイキックした。
サイキック大爆発インザ校庭によって、偽物幻影サイコはつゆと消えて、本物サイコに爆発が直撃し、少し動きを鈍らせる。
既に振りかぶっていたので剣はそのまま放たれたけれど、爆発に怯んだ隙を突いて、私はそれを避け、反撃した。
「この、剣でぇ!」
スポンジといえど思いっきり頭叩かれたらなんかぐらっとするんだから!
そして、ハリセンよろしく、頭を思いっきりしばいた。すぱっと振りぬいて……音がしない!?
「まさか、これも!?」
〔なっ……クソ、後ろだ!〕
「──古明天蓋流」
なにやらカッコいい詠唱をしながら、サイコは私の背後でライト剣を腰だめにし、ちょっとだけ黙った。そして、
「星息吹」
「爆発!」
咄嗟の爆発となんかすごい一撃が交錯するッ!!
果たして判定は!?
「……一瞬の爆発で、半分も持っていかれるのね。本当、忌々しいわ」
ばしゅん、とプレイヤーの死亡判定が下った。
「サイキック……大敗北」
まあ不意打ちみたいなのされてHP減ってたし仕方ないよね。サヨナラ!
死んじゃうついでに、せっかくなので私はサイキック大自爆をした。グワーッ!!
「……これで、四勝一敗一分け、ね」
半透明になったサイコが、微笑みを称えてやってくる。今度は目が笑っててホントに楽しそうだ。くそう。勝利の美酒を浴びてやがりましたな。
「く、また負けてもーた……あれ? 一勝って、私サイコに勝ったことあったっけ?」
「まあ酷い。覚えてすらいないのね」
う、そんな悲しい顔をされると、それが絶対確実に演技だとしても罪悪感が……。
〔……平然と騙してくるような女だぞ。そんな容赦は捨てろ〕
それもそうだね! 流石、冷血炎超人イグニスマン!
〔今日はもう呼ぶなよアホ〕
またアホと呼んだ! ……と、それより、そうだよ。
「……ねえ、サイコ。戦う前に超能力使っちゃ、卑怯なんじゃないの?」
私がじっとりした目でまっすぐ見つめると、サイコは微笑みをゆがめていった。
「あら。そんなルール、あったかしら」
「いや、JD先生は言ってなかったけどさあ……」
「最初の模擬戦。一対一と特別の言及がなかったから、あなたは、爆発を起こしてみんなの意表を突こうとしたわけよね?」
「う」
「あなたにどうこうされる謂れはないのではなくて?」
くぅ、それを言われると……でも、それとこれとは話が別だし。それに……。
「……サイコはそこまでしなくても普通につよいじゃん。なんでこんなこと」
「私が負けず嫌いだからよ。一度私を負かしたあなたには、敗北感を植え付けるまで絶対に負かし続けて差し上げるわ」
「えぇー……」
なんだこの人、精神状態おかしい……。クレイジーサイコ……。これからはサイコはクレイジーサイコ、略してクサイコと呼ぼう。やーいくさいこくさいこ! あ、さすがに怒りますよね。ごめんなさい。
それから、なんかかなり私を煽ってくるサイコの売り言葉を買って、私の罵倒レパートリーを最大限はっきしてレスバトルをしていると、戦い終わったほっちゃんがおろおろしたあと、私とサイコをぶっ叩いて争いを収束させた。つまり、さすがほっちゃんだぜ。
で、私とほっちゃんとサイコの三人で色々話してるうちに、チャイムが鳴った。JD先生がぱんぱんと手をたたき、集合をかける。
「──では、解散」
とまあ、超力科の授業は、大体いつもこんな感じだった。