4.模擬戦、それさえも前哨
──60カウントの間に、JDせんせーからざっと説明が入る。
「この校庭を訓練エリアに設定した。全損ペナルティは発生しないが、同時にゲーム的経験値も発生しないのはいつも通りだ。で、これもいつも通り模擬戦を行う。それぞれ近くの奴を相手にしろ」
ちなみに、いつもの模擬戦は、超能力を駆使して相手を追い詰めろゲーム内武装も可(ただし危ないモノはNG)、というとても分かりやすいものだ。
なんで戦ったりするのかはともかく、「超能力を実際に使うと超あぶないのでそれを制御しなきゃ!でも危ないし……」というお悩みに偶然答えたのがスター☆彡レボ★☆彡リュー☆彡ション。
「んん?もしや流行りのARゲーム使えばそれっぽくできるじゃん!?」……ってなったそう。
私でも学校さん大丈夫かなと思う流れだけど、ま、細かいことはいいや。今は今!
そういうことで超能力の準備をする。使い方は簡単だ。できると思って強く思えばできる。
標準は適当に……上空五メートルとかその辺。そんなところには相手もいないのに、じゃあなぜそこを狙うのか? ふふふ、答えは私が天才えすぱーだから……。
〔自己完結すんなアホ〕
イグニっちゃん!
これには空より青いわけがあってね! 誰も一対一とは言っていないことを逆手にとって花火に気を取られた皆をイチモー打人にする大作戦なんだよ! ふはは目に物見せてやるわー! ひゃっはー!!
〔……なんでそういうのは頭が回るんだお前……〕
「ふっふっふ! そういうことだから──よし!授業記念に爆発させよう!」
〔アホ。……まあいい、どうせなら派手にやれ〕
だそうですよ皆さん! さてさて、それではご唱和ください。3、2、1……たーまやー!!
ずどむ、と大げさな爆発が起こって、さっと周りを見れば、案の定みんなが怯んでいる。
よっし、今の内だ。まずは近くのほっちゃんを──
「ほのちゃんのばかっ」
「う゛っ!?」
首辺りに衝撃が走って変な声が出た。仮想アバターのHPは一気に半分も削られて、突然のピンチ。
だけどもしかし、サイキッカーはピンチもチャンス!
今攻撃してきた相手、多分掛け声的にほっちゃんは背後にいる。そのままカウンター爆破だ! 私も吹っ飛ぶけどそんなのどうだっていい! かくなる上は自爆! 自爆しかないんだ!!
「くらえい、ばぁくねつ!!」
ゴッドエスパー! と振り向きざまに能力を発動させようとして、振り向いた私のさらに背後から「ごめん」と声が聞こえる。えっ。
そして、再びの衝撃に頭が揺れて、HP全損。私は死んだ。あ、ゲーム内でだよ?
「ひどくないかい、ほっちゃんさんや」
戦闘不能状態で、半透明の幽霊になった私とほっちゃんは、校庭の隅で三角座りだ。わざわざここまで来たのは巻き込まれないためと、汚れず座れるのがこの辺だけだから。ARの草っぱらのおかげで探すのが大変だった。
そんな感じでゆったりと模擬戦を眺めながらおしゃべりする。
「ほのちゃんを止めるのは私の役目だから……」
ちなみに、あのあとほっちゃんはあんまり目立った私を倒したのでさらに目立って、皆から集中砲火を受けた。私とほっちゃんとでワンツーフィニッシュというやつだ。なんだかごめんネ!
「ま、それはそれとして。その言い方だと私が暴走したみたいじゃぞよ?」
「……。それで、今朝の遅刻はどうしたの?」
「あれスルー……えっと、寝坊かな。あと自転車こわれちゃった」
模擬戦は、いつも通りサイコが一人無双している。男子は四人がかりでサイコと戦うけど、これもいつも通り……じゃない。珍しくサイコが押されてる。やるじゃん男子! サイコ一人に4人がかりなのはどうかと思うけど、まあいいや! そのままたたっ切っちゃえ!
「そう。転んだの? けがはない?」
「へーきへーき。ただ、これから登校がつらいのじゃ……助けて、かほえもん」
「……ちょっと私の家とは遠いけど、待ち合わせとか」
「いいねそれ! 起こしに来て!」
「……ほのちゃん、全然起きないじゃない……」
なにおうとじゃれてから視線を模擬戦に戻せば、あら、いつのまに3対1に形勢逆転してる……あ、サイコまたあのずるい能力使って……ああ~。2体1、こりゃもうだめだね。
と、のんびりしていたところにJD先生が混ざってきた。
「休むのはいいが、ちゃんと見てるだろうな?」
「はい見てます! 今サイコがずるしてる!」
「本来なら、お前のも大概ズルいんだがな。なんで真っ先にリタイアしてるんだ」
「ええっ、それはほっちゃんが」
「この人、すぐ変なことするから……」
「ほっちゃん!?」
せんせー、真っ先に私ぶっ倒しに来た人がなんか言ってます!
「万乗。迷惑をかけるな」
「いえ……」
せんせー!?
ちょっとして、視界へ急に“FINISH”と表示が出た。模擬戦が終わったみたいだ。
「……また天蓋か」
そういうせんせーの視線を追うと、バトルロイヤルの勝者が残心を解いてくるっとこちらを向く。
野にただ一人立つ金髪美少女、天蓋才湖は、嫌味のないイヤミな笑顔を浮かべていた……ぐぬぬ、強そうなキャラのふんいき! 私だって負けずにあっかんべーである。んべーだ。
「ほのちゃん……」
「ほら、ほっちゃんも! べー!」
〔……やめろ恥ずかしい〕
な、なにさ一人と一声! やめて! そんな目で私を見ないで! うぬぬ! 分かりましたやめます!
「……途中までは良かったんだがな、もうちょっと頑張れ。男だろう?……」
JD先生はいつの間にか向こうに行って、男子たちのフォローとか指導をしている。流石にせんせーだ。
反対に、こちらへ向かってくる影が一つ。
「──ご機嫌如何かしら」
「へ、へん! ななめですけど何か!?」
「ほのちゃん……と、とりあえずおめでとう、天蓋さん」
「ありがとう、万乗さん」
しゃらっときれいな金髪を払ったサイコは、そのままの笑顔で私に問いかけてきた。
「最初に放った爆発。あれは?」
「……みんなびっくりしてる間の隙をつこう大作戦だけど」
「そうなの。悔しいけれど、確かに驚かされたわ。あんな悪手で動揺するなんて、私もまだまだね」
「む」
握手? そんなことしたつもりはないけど、ともかくぼんやりバカにされてることは分かったので言い返す。
「そう! キミはまだまだなのだサイコよ! もっと精進することね! はっはーみじゅくぅー!」
「真っ先に負けてるあなたに言われると妙にクるわね」
なにをぅ!
「ふたりとも、落ち着いて」
ほっちゃんが仲裁に入って、その場はひとまず沈静化した。流石ほっちゃん。これからは火消しのウインドと呼ばせていただこう。
「──全員集合!」
さて、そんな感じで火消しのウインドほっちゃんを挟んで私とサイコに発生したにらみ合いは、JD先生のそんな号令で中断された。
校庭真ん中あたりに皆を集めたせんせーの言うには、二回目の模擬戦を行うとのことだ。今度は各自ペアを組んで、一対一を行うらしい。まあ、いつも通りの流れ。
ただ、今回はいつも組んでるペアではなく、違うペアでやらないといけないみたいだ。つまり、私はほっちゃん以外の誰かと組まないといけない。
となると、私は誰を相手にしようかな。ちょろっと周りをみたところで、せんせーが直々に私へ言った。
「今回、お前は天蓋と組んでもらう」
な、なんだってー!