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◇人狼 2◆

 ……話が終わり、部屋を出ると黙っていたローレントが背後に視線を向けた。

 否、向けるというより、睨みつける、が正しい。

「どこまでついてくるんだ?」

「どこまでもぉ。いいじゃない、これからはアタシたち、仲間でしょお?」

 ジェシカの言葉に、ローレントはにこりと微笑んだ。

 それはもう、綺麗な作り笑いで。

「仲間とはいえ、常に共に行動しなくてはならない理由はないはずだ」

「アタシはシェラと一緒に居るんであってアンタと一緒に居るわけじゃあないのー、嫌なら離れなさいよ」

 ひょいっと後ろからシェラを抱きしめてジェシカが言うと、ローレントの翡翠の瞳に殺意が宿る。

 これはまずい、とシェラの本能が警鐘を鳴らす。

 なぜかローレントはジェシカを敵視しているし、本気で戦闘になりかねない。

 いや、真面目な彼のことだ、アルフレッドの言いつけは守るだろうが……それでも不安になったシェラが口を開いた。

「ふたりともっ、喧嘩はやめてください。というか、それ以前にジェシカ、あなたは普通にうろうろしてて大丈夫なんですか? 騎士団は一応男性だけなんですよ?」

 悲しい話ではあるが、シェラはともかく、ジェシカの胸は豊満で、体つきも女性らしい。とても男性だとは言えない。

「ふつーの人間に見えるほどなまっちょろい術、使わないからだいじょーぶよ」

「あぁ……なるほど」

 つまり今、シェラとローレントは何もないところに向かって話しかけているわけだ。

 周囲にひとが居なくて良かったと心から思った。

 団長室の周りまで、普段から事情を知らない団員がうろうろしていることはない。

「ま、ずーっとくっついていくってのは冗談だけどね。アタシもやることがあるからここでお別れよ。バイバーイ」

 一度ぎゅうとシェラを抱きしめたあと、ジェシカは姿を消した。

 そう、まるで空気に溶け込んでいくかのように。

 敵はあんな芸当を自然とやってのけるのだと、改めて思う。

「……シェラ、ケガはしていないだろうね?」

「ローレント、あなたは心配しすぎですよ。ジェシカに悪意はありません、たぶん」

 とはいえ、彼女にやられた左腕と右足はまだまだ本調子とは程遠い。

 憂鬱な気分は拭えないが、それでも時間は無情に進むのだ。

(満月まで一週間ですか……戦闘になることはないでしょうが、というか、なっても困りますが。これでは足手まといになってしまいますね)

 シェラに任されたのは抹消でもあるが、可能であれば捕縛することだ。

 相手の素性も知れない現状で戦闘になって、抹消せざるをえない事態になるのは避けたいし、こちらの被害も最小限に留めたい。

 ふと、シェラはひとつ思いだしてすぐ隣に居るローレントを見あげた。

「……ローレント、すみませんでした。あなたをまきこむつもりなどなかったのですが」

 彼をまきこんでしまった、そのことを思いだして謝罪すると、彼は小さく笑った。

「気にしないでくれ、きみの秘密を知った時点で、覚悟していたことだ。それに、きみの重荷を共に背負えるのなら、むしろ喜ばしいとさえ思うよ」

 そう言うと、ローレントはシェラの頭を優しく撫でた。

 彼にとってシェラは妹などに近しいものなのだろう。

 くすぐったさと恥ずかしさを覚えて、シェラは不満そうな顔で言う。

「ローレント、私はあなたの弟ではないのですよ?」

「はは……すまない、きみを見ていると、つい……ね」

 優しく細められた翡翠の瞳に、彼女は頬を染めて顔をそむける。

「つい、ではすみませんよ。以降こういうことはやめてください」

 きっぱりとそう言って、シェラは先に一歩踏み出す。

 敵が狼の類だと分かったのなら、その手がかりを探さなければならない。

(とはいえ、上位のものだとしたら人狼などになるのでしょうか? いずれにせよ、身体能力は並外れているはず……っ)

 ふと、右足と左腕が痛んでシェラは足を止めた。

(そうでした、医務室に行くつもりだったんでしたよ……)

「シェラ? やはり傷が痛むのかい?」

 ローレントからかけられた言葉に、彼女は頷く。

「満月まで時間がないというのに、このままでは……私は足手まといにしかならさそうです」

「無謀な真似はしないと約束しておくれよシェラ、きみは今回、表立って行動しないほうが良い。きみが手負いだと相手も知っているだろう、真っ先に狙われるよ」

「そう……ですね。邪魔にだけはなりたくないものです」

 今から気が重い。

 シェラはまた小さなため息を吐いた。


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