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◇最初の満月 3◆

「楽しそう。なにしてるの?」

「ひ……」

 足元を見れば、銀色の毛並みの狼がいる……が、大きさは一般的に相対するものと同じくらいだ。

 怯えたシェラを見て、ローレントが苦笑をこぼす。

「シェラ、これはイストだよ」

「あ……そうでした、忘れていました……ごめんなさいっ」

 最初に言われていたのに、傷つけてしまったろうかと慌てて謝ると、なぜかイストのほうが首を傾げて謝罪をした。

「恐がらせた? ごめん」

 小さく呟いて、イストはローレントのあとに続く。

 口も動かさないのに声が聞こえるのだから不思議だ。

「シェラ、どうしたの? いつものシェラらしくない」

 イストの言葉にはローレントが答えた。

「あまりに大きな敵に、驚いてしまっただけだよ」

 それにイストは頷いて、言葉を紡ぐ。

「うん、やっぱり大きかった。上位になればなるほど、ぼくたちは容姿にも能力にも知能にも変化が現れるから」

 その言葉に続いたのは、ジェシカの声だった。

「そーねえ、あれはちょっと、まともに相手するのは人間じゃきっつい……ていうか、アタシたちでもきついわねえ。腕の一振りで、何十人もミンチにできそうだったわネ」

 さっと青ざめたシェラが、ジェシカを睨んで言う。

「ちょっと、恐ろしいことを言わないでくださいよ」

「だってホントのことじゃなぁい?」

 けらけらと笑ったジェシカを、シェラは恨めしそうに睨み、ローレントは苦笑している。

 三人を見あげながら、イストが言う。

「あのひとだとしたら、魔族のなかでもトップクラスの実力があるはずだから。ぼくやジェシカでも、敵わないかも。あのひとは、地位に興味がないから王様にはならなかったけど、だからこそ、今の王様には警戒されているから」

「名前とか、知らないんですか?」

 シェラが不思議に思って問いかけると、イストは頷いた。

「忘れてた……名前はドミニク。人狼の中でもひときわ大きくて、とっても強い、誰も敵わないから、一番になった。だけどべつに、いまの王様みたいに、暴君なわけじゃない」

 どうやら話を聞く限り、やはり人質さえ居なければ対話ができそうな相手だ。

 捕縛は無理かもしれないが、殺す必要もないのかもしれない。

 そもそも、現状では殺される可能性のほうがよほど高いのだが。

 シェラはふう、と小さく息を吐いて返事をする。

「そうですね、あの大きさでは……一番になるでしょうね」

 もっと大きなものがいるとは思いたくなかった。

 ふと、ローレントがジェシカとイストに問いかける。

「今の治世は荒れているのかい?」

 その質問に、ジェシカが先に口を開いた。

「そーよ、従わないものは親族もろとも皆殺し。ドミニクも、親族を人質にとられてしようがなく従ってるってハナシねェ。逆らった時点で人質を殺されちゃうだろーし、盾にとられれば、抵抗もできないでしょ」

 それはかなり卑怯な手を使う相手ということだ。

 その話を聞いて、シェラが怪訝そうに口を開く。

「それなら、あなたたちは……私たちに加担なんてして良いのですか?」

「アタシ、家族なんてもうとっくにいないし」

「ぼくも、いない」

 二人はけろりとした顔で答えたけれど、それはつまり……亡くなったということだろう。なんらかの理由……いや、二人がこちらに加担していることを思えば、おそらくは、その、暴君だという今の王が関わっていることで。

 少なくとも、ジェシカの家族を殺したのは人間のはずだが、元を辿れば……ということかもしれない。

 争いが始まったのはこの数年だ、つまり、その前までは今の王ではなかったのだろう。

 俯いたシェラに微笑んで、ジェシカが言う。

「だからアタシたちのことは何も気にしなくていーのよ、もとはと言えば、アタシやイストが家族を喪ったのも、暴君様が原因だしね」

「そう。家族を人質にとられたひとは、いっぱいいる。だから、協力してほしい」

 シェラは二人の言葉に胸を痛めた。

 人間だって大勢殺されている。それでも、彼らも家族を喪っている。

 家族の居ないシェラではあるが、仲間は居るのだ、その痛みがまったく分からないわけではない。

 ◇◇◇

 上層部への報告を終えて眠りについた翌日のこと。

 掃除当番だったシェラは明朝の焼却炉から煙が出ているのに気づいた。

 朝の澄んだ空気に混ざって、焦げ臭い匂いが漂っている。

(いったい、こんな朝方に誰が使ったんでしょう?)

 不思議に思って中を覗きこむと、赤子のように小さな足が見えて思わず悲鳴をあげそうになった。

 けれど、それは生身ではなく、人形の足のようだ。

「人形……? 誰がこんなものを……?」

 不思議には思ったが、薄気味悪いので彼女はさっと焼却炉の扉を閉めた。

 ……その人形について、彼女がこの時、それ以上の疑問を抱くことはなかった。

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