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1話 助け舟と思ったらアホだった

本編1話です。次回までは導入になります。

 目を開くと、彼は石畳の上に正座していた。

 酔ったような感じがするが、立ち上がれない程ではない。上を見てみると暗くは無く、天井も十分な高さのようだ。片膝をついて立ち上がってみる。


 立ち上がって周りを見回すと、石畳というだけではなく周りはすべて石で出来ているようだ。5メートル程度のほぼ正方形の部屋の四隅には胸の高さ程度の燭台が立っており、部屋を薄く照らしている。

 だが、四隅の蝋燭だけでは明らかに部屋の光量として不足している。足元を見ると、何やら円とその中に見たこともない模様が光を放っている。昔、ゲームで見た魔法陣のようだ。


 服に乱れはない。とりあえず、状況を把握したい。といっても、ドアすら見つからないこの石の棺のような部屋である。ひとまず燭台を調べてみることにした。

 四隅の燭台の一つの前に立つ。鈍い黄土色で炎の光を反射している。真鍮だろうか。それなりに意匠はこらしているが特に装飾もなく、単一の金属で出来ているようだ。

 燭台の上で燃えている蝋燭は円錐形で黄色みを帯びている。蜜蝋だろうか。

 燭台で照らされている壁を調べてみる。材質はわからないが、不揃いな切った石を積んだだけのようだ。暗くてよくわからないが、隙間に接着剤のようなものは見られない。


 どれだけこの空間に居たのかわからないが、炎が燃えている以上、酸素は十分にあるようだがいつまで持つかわからない。石積みの壁だから外気を取り込めている可能性もあるが、信ぴょう性は担保できない。


「そうなると...」


 正直なところ、分からないものは分からないのだが、部屋の真ん中でぼんやりと青光りしている魔法陣を調べてみるしかないだろう。

 光ってはいるものの、念のため燭台を手に取る。


"ガチャ"


 燭台を持ち上げた瞬間、機械的な音がした。これはマズそうだ。往々にしてこういう時はなんらかの良くないことが起きるというのが定番だ。手に持った燭台と他の燭台の炎が消える。部屋の中央の魔法陣の光が段々とと強くなる。


 途中から目を閉じていたが、光が臨界に達したのか、一瞬で暗くなる。もう、目を開けても良いだろう。目を開けると、最初に見たような光量の魔法陣と、その中に立つトガった三角形頭の人影。まだぼやけて影はよく見えないが、確かにこちらに向かってこう言った。


「エス、タリバヤーダユーシャ。カルヴァダ、コモ?」


 言っている意味は分からない。分からないので考えるより先に、すぐ後で後悔することになるのだが、金谷は持っている燭台を手槍のように構えて影にぶん投げた。


 だが、放物線を描いた燭台は燭台は影の手前に来ると地面に平行になり、ガシャンと音を立ててそのままゆっくりと音もたてずに落ちた。人影は手を口にあてがうと凍えでつぶやいた。


「ア、ルゴサヴァド、カヴケレルレチオモン。ユーシャレサポドニホンファマム」


 すると、魔法陣からさらに人影が立ち上った。先の人影よりは長身のようだ。金谷は右側にあるもう一角の燭台の方へと中央の魔法陣からは目を離さずに壁伝いに横移動していた。逆に、中央の人影は金谷を見ながら旋回していた。お互いに目線は離さずにいるようだ。

 金谷がもう一つの燭台に手をかけ、同じく手槍の投擲の構えを取ったところで、聞きなれた言語で長身の影が言葉を放った。


「待て待て、話しがしたい」


 どうやら、女の声だ。さすがに、金谷も火のついた蝋燭を先端にした金属の棒状のモノを女性(?)に投げつけるのは気が引けたので、一旦ガシャンと脇に立てると、そのあとから三角頭の人影も言った。


「サヴ。カシャクケルユヴェラヴァサモ...」


 続けて、長身の人影も。


「わかった。暴れそうだから、一旦体を縛ろう」


 金谷は『カラダヲシバロウ』という言葉が聞こえたので再度、投擲の構えを取ったが、右腕は自分の頭より向こうへ動かせない。前へ動かそうとすると、手首の真ん中で刺すような痛みがする。まるで後ろの壁に糸で縫い付けられているようだ。この感覚はついさっき感じたことがある。研究室で冷蔵庫に引っ張られた、あの感覚だ。さらに、四肢の全てがそうなっているらしい。


 金谷はおとなしく燭台を持った手をおろすと、威嚇するように叫んだ。


「誰だお前は!なんだこの部屋は!」


 その頃になると、目も慣れてきて、最初から居た人影と長身の人影も段々と姿が分かるようになってきた。

 まず、先に居た三角頭の人影だが、これも女性のようだ。見てみると、三角頭はどうやら帽子で、小さいころに見た、童話の絵本に出てくるような魔女の帽子と黒いローブという恰好をしている。三角帽子が大きく見せていたが、実際の顔の位置は金谷の胸のあたり、魔女らしく杖でも持っているのかとおもったが、素手である。帽子を深くかぶってるので顔までは分からない。

 長身の方は正に長身で、金谷よりも大きく、190cm程であろうか黒い長髪を後ろで束ねた切れ長の目をした女だった。服装は、これは迷彩柄だろうか、上下同じ柄のジャケットとパンツを履いている。


 迷彩柄の長身が先ほどの金谷の問いに答える形で、はっきりと大きな声でこう言った。


「ここは異世界で、この部屋は召喚儀式のための部屋で、私たちはお前の味方だ!」


 金谷はここで面食らってしまった。まともな答えが返ってくるとは思っていなかったが、まさか『異世界』などと言うとは思わなかった。だが、先に待てと言われていたので自分でも思いもよらない程落ち着いて、なぜか理解できた。そして続いて問いかけた。


「異世界というのはあれか!中世ヨーロッパ的な世界観の最近流行りのアレ的なやつか!」


 長身は先ほどと同じトーンで答えた。


「そうだ!アレ的なやつで、お前は勇者とか言われているアレだ!ちなみに私も勇者だ!」


 金谷は混乱しつつも『最近流行りのアレ』で通じたところで、なんとなくこの長身が自分と近しい感じがしたので、さらに続けた。


「俺も勇者で、お前も勇者なら、隣の魔女は一体何なんだ!とりあえず日本語が分かることは分かって安心した!」


 金谷と長身が大声で掛け合うので、魔女姿の少女(?)は怖くなったのか、長身の服の裾をつかんで後ろに隠れてしまった。長身は答えた。


「ありがとう!まさかまた日本からの勇者がくるとは思わなかった!これで10人目だ!私も元日本人だ!」


 金谷はこの気の抜けた会話の辺りですっかり落ち着いてしまっていた。もう、声は荒らげないでこう言った。


「あー、日本人の方なんですね。ごめんなさい、安心しました。話を聞きたいので、そっちに行ってもいいでしょうか?」


 その言葉を聞いて、長身は背中にへばりついている魔女に何か耳打ちした。魔女は長身の前に出てくると目を閉じて金谷に向かって手をかざし、何かをつぶやくてから金谷に聞こえる声で言った。


「サヴェカナル。ユーシャレ、ポドヴァキィグユナバル」


 金谷は長身に向かって答えた。


「すまないが、何を言っているか分からない」


 長身は魔女の後ろで手招きしながらこう答えた。


「すぐにわかるようになる。とりあえずこっちに来い。縛りは解いてある」


 金谷は部屋中央の魔法陣に向かって歩いてみる、最初の一歩はかなり慎重に前に進んでみたが、引っ張られるような感覚も四肢の痛みも無かったので、普通に二人の前まで来れた。

 金谷は魔女の少女に一瞥をくれて、二人に...というよりは言葉の通じそうな長身に漠然と問いかけた。


「いったい、何なんだ?」


 長身は金谷を見下ろして答えた。


「いったいも何も、勇者は魔王を倒すものだろう?私と一緒に魔王を倒そう!」


 金谷は「おぉぅ...」と言いながら手で目を覆った。



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