プロローグ
なろうでは初投稿になります。
異世界チートものですが、ある程度無理のないチートを目標に書いていければな...と思っています。
就職も決まり、大学最後の年を控えていた春休み。
通いなれたというよりは通い飽きた感のある研究室のソファの上で、仰向けに寝転がりながら、金谷徹は絶望していた。
「将来は閉ざされた...。」
ほんの3か月前、彼は父親が役員を務める日本有数の金属素材メーカーである神田河鉱業に研究員として就職が決定していた。
コネかと言われればそれまでだが、金谷自身も研究はしっかりとやっていたし、論文も入学から毎年数本は学界に提出していた。面接は苦手だったが、卒論のテーマにも選んだ金属材料の研究が、これからの神田河鉱業にいかに役立つかという点においては十分アピール出来たと思う。
しかし、現実は理不尽なものである。先々週の事である。父親の会社で不正会計が露呈し、役員総辞職まで追い込まれる結果になった。露見した結果の赤字会計を理由に、新規の人員募集は撤回となり、まさかの役員の息子である金谷徹の就職も白紙撤回となってしまった。
院試を受ける手もあったが、担当の教員に対して「企業の方が予算も多いし、神田河の方が自分に合った研究ができると思いますんで!」などと言ってしまった手前、今更受けられる雰囲気でもない。
父親もずっと研究職でやってきた手前、次の就職先もなく無職確定。正直、家で見ていても、いたたまれなくなるばかりだ。そんなわけで、誰もいないが鍵もかかっていない大学の研究室まで逃げてきたわけだが、時はもう夕暮れ。腹も減ってきた。
大体、大学の理系の研究室には冷蔵庫が有るものだ。自分は何か買い貯めておくタイプではないが、たまに気の利いた後輩や教授なんかが冷蔵庫に食糧を置いてくれている。
ソファから起き上がった金谷はテーブルを挟んだ正面の冷蔵庫に手をかけた。
もう、何度開け閉めしたのか分からないが、マグネットが弱まっているのか、抵抗なく空く冷蔵庫。上の冷凍室にはこの時期だと恐らく氷くらいしか入っていないが、冷蔵室なら運が良ければ果物、悪くてもエナジードリンクくらいは入っているだろう。
「アタリだな」
冷蔵室の中には持ってきた人の名前がキャップに書いているペットボトルのドリンク類、いつのものか分からない茶色い内容物のタッパー、物理学課で何に使っているのかわからない謎の培養皿、そして、あまり見かけたことはないが洋ナシのような、青い果実。
少し皮に皺が寄っているのはここに入れられてから時間が経っている証拠だろう。入れた本人が忘れたのか、複数あって1つ食べてみたが味が良くないので放置されているのか。いずれにせよ、こういったものは頂いてしまうとしよう。
冷蔵庫から果物を引っ張り出す。触った感じではあまり冷えていないようだ。放置されていたわけでは無いのだろうか。あと、表面には皺が寄っているものと思っていたが意外にもハリがあり、これはこういうものなのだろう。形容するなら、青くてヒダの多い洋ナシとスターフルーツの相の子。金谷はこのような果物は見たことがなかったが、持ち前の好奇心には勝てなかった。それに空腹感にも。
元いたソファへと戻った金谷は取り合えず皮つきのまま一噛みしてみた。シャリっとした歯ざわり。甘味もあるが、強い酸味がする。やはりスターフルーツか何かの親戚なのだろうか。なんだか疲労に良さそうな味である。それに、噛んでいるとなんだか頬の内側を刺すような刺激がする。それも片側だけ。いや、刺すようなというより、明らかに何かに引っ張られている気がする。
不意に、冷蔵庫の中から声がした。
「かかった!」
ヤバイ。何がヤバイか分からないが本能的に金谷はそう判断した。『かかった』と言われたとなれば、恐らく釣り針か何かが果物に仕掛けられていて糸か何かで引っ張られているのだろう。
冷蔵庫の方へと引っ張られているので、そちら側に”糸”が有ると思うのは当然だ。金谷は手を無茶苦茶に動かして”糸”を掴もうとしたが、手は空を切るばかり。痛みもあり、頭では危険だと思いながらも冷蔵庫の方へと進むしかない。
そして、冷蔵庫まであと一歩というところで急に冷蔵庫が開き、中から黒い袖の人の腕のようなものが伸びてきた。面食らってしまった金谷はなすすべもなく服の裾を掴まれ、冷蔵庫へと引きずり込まれた。
そして目の前は真っ暗になった。