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異世界生まれの高山さん―マーイカ世界編―  作者: Gkiller
第1章 輪廻(サンサーラ)
9/58

1-8. 「老師」

今日もあぢーですねー


「赤子が喋った、と?」


老人の白髭しろひげは地面につくんじゃないかというほど長い。

小柄な彼が話す度に髭がぷらぷらと揺れる。


「いえ、私は聞いていないのですが、ジューンが…」

父親ヘトロス母親ジューンの方をちらと見て答える。


「私が授乳しようとしたら、こう抱っこして、したら!

お願いしますって……あ、お願いしますって!!!!」

母親ジューンの顔は青ざめている。


当然の反応だな。

俺が親だったら、キモチワルーイとあの場で投げ捨てていたかもしれない。

俺が「あ、お願いします」とか言ってしまったばかりに心労をかけさせてしまったようだ。


母親ジューンは俺の言葉を聞いた後すぐに父親ヘトロスを連れ、このどでかい建物に来た。尖塔のこの建物は地球での教会に似ている。



俺は取り敢えず、母親ジューンの胸の中であーとかうーとか言っている。

まぢすいません母親ジューンとオツェンさん。


「ふーむ。どれどれわしに抱かせてみなされ。

ほーれおいでおいで」

老人が俺を抱きかかえる。


うぉーう、もっさもさ。もっさもさだこの髭。

ふぉーい!!


「うむーん?」

しわしわっとした眼が俺をのぞき込む。


「ぬん?」

老人の片目がぐわっと開いた。


「ど、どうしたんですか!?老師!?」

父親ヘトロス母親ジューンがあたふたと慌てている。


「ふむーん……

二人とも。この子を少しわしに預けよ」

老人が二人を見上げる。


「え、でも老師……まだその子は生まれたばかりで…」

「そ、そうですよ!預けるとしても5年経ってから…!」

母親ジューンの言葉に父親ヘトロスが続く。動揺が伝わってくる。


「ふむ。そなた等は確か生まれてから5年で儂の元に来たんだったな。

しかし、これは儂からの命令じゃ。こばむことはならん」

老人の言葉には少しの揺らぎもない。


「しょ、承知しました!」

二人は両腕を自分の胸前で交差して老人に首を垂れる。敬意を示す格好だろうか。

どうやら老人と二人の間には厳格な上下関係があるようだ。


「ふぇふぇ。なに。そなた等から赤子を奪おうというわけではない。

ただ庇護下に入るのが普通よりもちと早いだけじゃ」

ふぇふぇふぇと髭を介して振動が伝わってくる。


「庇護下に入れるということは……もうその子に名前を頂けるのですか?」

父親ヘトロスが頭を下げたまま尋ねる。


「そうじゃのう。近いうちに名を授けようぞ」

老人がそう言うと二人はお互いの顔を見合わせている。

その顔は嬉々としている。


老人はふぇふぇと笑い紙きれを二人に渡す。

「赤子の食事はこれで儂の所に送りなさい」

母親ジューンはそれを静かに受け取る。


「老師……次にその子に会えるのは、いつになるでしょうか?」

彼女は寂し気に俺を見つめる。


「そう遠くはない。そなた達の時と違い、この子の庇護はちと特別になりそうじゃ。

親元を完全に離れるということはなかろう」

老人の言葉で母親ジューンの気持ちが和らいだようである。


「それでは、確かにこの稚児ちご儂が預かるぞい」

そう言って俺は老人の胸(髭)に抱えられたまま二人から離れていく。


髭の間から見える父親ヘトロスの顔は誇らしげで、母親ジューンは矢張り悲し気であった。



「おい、生まれてすぐに庇護下に入るなんて聞いたことがあるか!?流石は君の子だ!!」

「光栄なことだけど、でも私はちょっと…」

そんな二人の声が後方から聞こえてくる。




カツーンカツーンと老人の靴の音だけが高い屋根に響いている。

やけに歩くな。でけぇ建物だなぁ。


老人がやっと着いた部屋の扉をギィと開ける。

膨大な蔵書棚が所狭しと並べられている。

ある棚には水晶のような球が並べられ、ある棚にはホルマリン漬け瓶が並ぶ。


老人はそれらの棚の間を抜けた先の部屋で足を止めた。

大きな綿の塊のようなものに俺を乗せると、


「ふぇーーーーー疲れた。ちょいと部屋までが遠すぎるのぅ。

そろそろしんどいわい」

と腰をタンタンと叩いている。


「儂はオーウェンというじじぃじゃ」

椅子を綿の方に向けて引き、そこにどかっと座る。



「そなたの名前を聞かせてくれんかの?」

老人の開かれた片目が俺を見つめている。


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