1-3. 「ヤマ先生の宇宙構造講座 1限目」
説明の話が続きます。
生暖かい目で見守って下さいませ。
「はい!では私ヤマによる特別講義を始めます!!
拍手ぅーー!」
俺の隣に体育座りしてる秘書二人がペチペチと拍手をしている。
いや君らは働きなさいよ。
てかヤマさんいつ着替えたの?
ヤマは胸元がガバっと開いたシャツを着ている。
いつの間にかメガネも掛けていた。
有名塾講師っぽい。
「じゃあ高山君!
君が生きていた世界はなんてーの!?
はいそこの冴えないツルツル頭ー!」
俺じゃねぇか。てか高山君って名前呼んでたじゃん。
「地球です」
「ブブー!ざんねーん!!
はい1枚ぼっしゅぅー!!!」
秘書がいそいそと俺のシャツを脱がせる。
されるがままにする。
「貴方がいたのは娑婆世界!
メニーメニーある世界の中の一つです!
他にはどんな世界があるかな!?
そこの腰から上全部肌色の君ぃー!」
――くっ。
分からん。こんなんなら師匠の説法ちゃんと聞いとけば良かった。
「はい時間切れーー!」
秘書の1人が俺のジーンズを脱がす。
おいもう1人の秘書、
お前何で俺のシャツ綺麗に畳んでんだよ。
ありがとうな。
「君は仏教僧侶だろう!?
この位答えられないと合格しないぞ!」
っ!何に合格するんだ!
「よし!特別にヒントをあげよう!
例えばそうだな…
そう!日本でも有名な世界だ!
西の方にあるぞ!
あみ…あみ、だ…」
「は、はい!はーい!!
ごく、極楽世界です!!」
噛んじまったが、
これ位は答えられるぞ!
「せいかーい!!!
正解のご褒美だっ!!」
――パァン!
なんか知らんが秘書に胸を平手打ちされた。
――お前覚えてろよ犬顔秘書…
ジーンズも畳んでくれてありがとな。
「娑婆世界を中心に考えて西には極楽世界、東には妙喜世界や浄瑠璃世界とか、まぁ色々な世界が広がっています。
ここまではいいかな?」
――小説とかの異世界ものも強ち間違っちゃいないんだな。
「はい。理解しました」
俺はパンツ靴下の格好で正座していた。
「宜しい。
さっき挙げた世界は多く既に浄化されている世界です。
何でだと思う?」
――大体は師匠の説法の中に出てきた覚えのある世界だった。
「仏がいるから…?」
俺は恐る恐る答える。
もう脱げるものは靴下しかない。
「うむ。
仏教徒の君からすれば、それが正解だ。
ただし、ここが地獄でもあり天国でもある様に、認識によっては仏は仏であり、仏ではない。
私がヤマであり、閻魔である様に、仏は仏であり、仏は他の神でもある。
貴方達に限定されなければ、彼は彼であると同時に、彼でない」
うん。さっぱり分からん。
しかし俺にはもう捧げるものは靴下しかない。パンツだけは是が非でも死守したい。
どうすればいい!
俺の悩んだ姿を見てヤマさんは仕方ないなという顔をした。
「体験してもらった方が早いですね」
ヤマがかかっと笑ったと思うと、俺は真っ赤なリンゴを手にしていた。
なんぞ!?
リンゴ!?
「それは何色ですか?
それの匂いはどうですか?」
驚く俺にヤマは尋ねる。
――色?色は
「赤い…です。
匂いは…いい匂いですね」
「これならどうですか?」
ヤマさんが軽く手を振る。
瞬間、視界が曇った。
うおっ!?
暗い!!
見えるけど、暗い!
靄がかかった感覚である。
「その眼でもう一度それを見て下さい。
それは何色ですか?
それの匂いはどうですか?」
――色は
「赤く…ない。黄色い…
匂いは…うっ、腐った臭い!?」
「それです!それ!
それなんですよっ!!」
近っ!!
近い近い近い!!
ぎゅっと近付いてきたヤマさんの鼻が俺の鼻に触れる。
「今の貴方の眼と鼻は、犬のものです。
犬には赤色は認識し難く、その嗅覚は少しの腐敗でも感じ取ります。
貴方が手にしているリンゴは変わっていません。
リンゴが変わったのではないのです。
貴方が変わったんですよ」
――真理に触れた気がした。
俺の手から落ちたリンゴがゴロゴロと地面を転がっている。