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異世界生まれの高山さん―マーイカ世界編―  作者: Gkiller
第1章 輪廻(サンサーラ)
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1-1. 「死闘して死亡」


まずった。

完全にまずった。


渾身こんしんの破邪の光はひらりと躱され、同時に高山の左腕は姿を消していた。

赤い服の悪霊や、「めんそーれ」とか言ってる悪霊もこの一発でほふってきた高山の額に嫌な汗がにじむ。


「あとは任せろ( ・`ω・´)キリッ」

とかやった手前、今更逃げられない。クソ。あの後輩は何でいっつも厄介ごとに巻き込まれるんだ。


今回もいつもと同じだと思っていた。簡単に除霊出来ると過信していた。


コンビニに蝋燭ろうそくを買いに行く時、ほろ酔い状態の後輩が悪霊の気配のする廃屋に入っていくのを見つけた。

シフトがかぶった時にはこっそり結界を張ってあげてたのだが、あいつは霊気にあてられ易い体質だ。たいした悪霊の気配ではなかったが少し心配で様子を伺っていた。


案の定、霊障れいしょうにあてられた一人が泡をふいて倒れた。

後輩が悪霊を見ようとしている。悪霊と目が合ってしまえば、数日前に張ってやった結界ではその干渉を止められない。


「見るな!!!」

高山は声を上げていた。

ガラスの割れている窓を飛び越えて、高山は悪霊に向かって走る。


丹田たんでんから気を練り出し、悪霊に向かって破邪の光を放出する。

結果はこのざまだ。クソ。

消えた左腕を視認した時、後輩がまだ廃屋を出ていないことに気付いた。


え、何でまだいるの?逃げろって言ったよね?

こいつはいつもそうだ。俺の言うことを全く聞かない。


以前にも、「高山さん、この前助けてもらった時のことネットに書いていいっすか?」とかニヤニヤしながら聞いてきて、俺は拒否した。

ところが、だ。その日から俺のネームプレートを見て「ネットに書かれてたのってあなたですか?」とか聞いてくるお客様が頻出した。


確かに(仏教)僧侶でかつコンビニでバイトしている人間の数は多くはないだろう。

でも広まり過ぎじゃね?

ネットの力ってすごくね?

でもその前に俺はネットに書くなって言ったよね?

え、てか俺お前に逃げろって言ったよね?


これまでの後輩の愚行が高山の頭を走馬灯のようによぎった。


「早く逃げろーーーーー!!!!!怒」


普通にキレた。

俺を置いて逃げろ的な優しい心からではなく、普通にキレて言っていた。


ダメだ。心穏やかにいなければ。

心を鎮めて目の前の悪意の塊を見据える。


「…すごいな君。俺の破邪の光を避ける悪霊なんてなかなかいないのに」

悪霊は暗闇の中でも目立つ黒い瞳でじっとこちらを睨んでいる。


右手に再び気を練り出し、再び破邪の光を打ち出す。


「破ぁ!」


悪霊が消えた。

頭で考える前に高山は身をよじり、見えない相手を避けていた。


――ブツ


右耳に鋭い痛みが走る。

少し置いて顔の右半分が激しい熱を帯びた。


触ると、右耳が無かった。

悪霊は高山の右耳をさらって、既に高山の背後に移動していた。


「いてぇ…お前気配消せるみたいだな…ちょっと想定外…これはお不動ふどう様に力を貸してもらうしかないか…」


普段の除霊でお不動様の力を借りるのは師匠おやじに止められていた。師匠(おやじ)の言葉が頭をよぎる。


「お不動様はな、大日如来様そのものでもあり、使者でもある。不動とは動かざること。動かざるとは堅き菩提心ぼだいしんのこと。堅き菩提心とは『おやじ使うぜ!!』」


師匠おやじの説法は短くても2時間はかかる。

高山はお不動様の持つ剣を頭に描き、不動剣印ふどうけんいんを結んだ。


印から出る光が薄い。お不動様とのリンクが不完全である証左である。

高山が厚く信仰し、幼少より憧れの眼で見て拝んできたものの、不動明王と繋がることは容易ではない。お不動様の呪である慈救呪じくじゅを以てその繋がりを強化する


「この悪霊を救い給へーーーー!!!」

指先から伸びる淡く光った線が悪霊の眉間に打ち込まれる。


同時に悪霊の右腕も高山の胸を貫いていた。


――相打ち


悪霊に叩き込まれた線が、柔らかな光を放って広がり悪霊を包んでいく。

憎悪の念で歪んだ悪霊の顔が穏やかなものになっていく。


「…お、君そんなに可愛い顔してたのか」

申し訳なさそうにする元悪霊の娘を見て高山は呟いた。

その口からは、呟く言葉と共に鮮血が流れる。


「辛かったろう…暗闇の中で。辛かったろうなぁ。でも大丈夫だよ。仏さんはお優しいから。あちらでゆっくりしてきなさい」


光と共に消えていく中で娘はこくりと頷く。

その瞳には申し訳なさと感謝とが入り混じっているようだった。


光の粒を見ながら高山の意識も遠くなっていく。


何かを救って死ねるのなら本望。

そうだよな、師匠おやじ

師匠おやじの顔が再び思い出される。


「仏教の僧侶とは己が他であり、他が己である。他を救うことが自己を救うことである。それ即ち大慈悲心だいじひしんと心得よ。とは生きとし生けるものの苦しみを抜き、とは」


おやじの言葉を聞き終えずに俺は絶命した。


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