0. 序章
俺は友人と夜道を歩いていた。
悪友とでも言うのか、時間があれば会って夜中まで酒を飲む親友だ。
金縛りにあったという話をきっかけに俺たちは幽霊談義で盛り上がり、酒が入っていたこともあってその地区で有名な廃屋に向かっていた。
「なんだ、有名なだけでたいして怖くないな。前の金縛りの方が怖かったわ」
俺に先行していた友人がスマホのライトで廃屋の壁を照らしながら強がりを言った時、俺は背後から視線を感じた。
友人の左肩を叩いて呼ぶ。
「やばいかもなんかいるかも。俺の後ろ何かいるかも…」
友人は、はぁ?という感じで振り向きざまに俺の背後にライトを向けた。
俺の肩越しに背後を見た友人の顔が、一瞬で白くなった。
眼には涙を浮かべ、苦悶の表情を浮かべ、口からごぼごぼと泡を吹き始め、仰向けにバタンと倒れた。
俺が恐怖から後ろをおそるおそる振り返ろうとした時、
「見るな!!!」
通路の先にある窓からバイトの先輩の高山さんがこっちに向かって叫んでいた。
俺ははっとして振り返るのをやめる。
「そこに倒れてるの連れてこの窓から逃げろ!!!」
そう言いながら高山さんは窓から入ってこっちに走ってきている。
俺は言われるがまま、倒れた友人を担ぎ起こして窓に急ぐ。
「あとは任せろ…」すれ違いざまに高山さんは俺に呟いて、背後にいた何かに向かっていく。
「破ぁーーーーー!!」
青白い光線が暗い廃墟の中を照らした。俺は確信した。やったと。
流石は高山さんだ。俺は嬉々として窓から高山さんの方に振り返った。
高山さんの左腕が無かった。俺がまだいるのに気付いて高山さんが叫んだ。
「早く逃げろーーーーー!!!!!」
俺は走った。クソ重い友人を担ぎながら走った。後ろから聞こえる高山さんの破邪の声を聞きながら走った。
数々の伝説を残してきた高山さんが負けるはずなど無いと信じながら。
後日、バイト先の店長から高山さんが亡くなったと聞いた。