四文字 上
うちの弟は可愛い。
高校1年生だからサイズ的には可愛くないけどうちの弟は可愛い。
最近はお年頃になったせいか少し冷たいけどそこもいい。
高1で私のことを「ねぇちゃん」って未だに呼ぶところが可愛い。
外だとちょっと恥ずかしそうに言うのが…たまらなく可愛い。
弟は料理上手だ。料理上手にならざるえなかった環境だったのもあるけれど…料理上手だ。
本当は味噌は赤味噌系の合わせ味噌が好きなのに、私の好みの甘い信州味噌にしてくれるところが料理上手だ。
食べる人の気持ちをいちばんに。
母があの子にそう教えたから。
その教えを忠実に守ってるから。
つまり、うちの弟は私の胃袋を掴みまくっているってこと、。
「せんぱーい、また弟さんのこと考えてますよね?」
後輩の女の子が私にそう言ってきた。彼女は私がニヤニヤしてると大体そう言ってくる。そして大概当たっているから恥ずかしい。
私は事務で彼女は営業。入社は私の方が5年早いけれど年はほとんど変わらない。
お給料は彼女の方がきっと高い。
でも、私は定時で帰りたいからそれは別に構わないのだけれど。
家に帰ると見覚えのない不思議な靴があった。
黒いまるっとしたやたらと大きな靴。
「ねぇ、この靴なに~?」って玄関で声をかけると弟が慌て部屋から出てきた「面白い靴ね」っていうと弟は「文化祭で使うんだよ!!」って言って抱えて部屋に戻った。
ちらりと見えた弟の頭は変な寝癖がついていた。几帳面な弟にしては珍しい。
そういううっかりな所もかわいいぞ弟よ。
ある日弟帰り道で弟と一緒になった。
とりとめもない仕事の話や夕飯の話をしながら歩いている時に弟はポケットからスマホを取り出した。
スマホは変なカプセルに入ってた。
弟はチッって舌打ちをしてカプセルからスマホを取り出してイライラしていた。
どうやら弟のお友達はイタズラ好きらしい。
バカをやれるお友達は大切なんだよ、弟よ。
ある風の強い日、洗濯物を取り込んでいたら木の枝に一枚ハンカチが引っ掛かっていた。手を伸ばしても届かないから弟に頼んだ。
洗濯物を縁側に運んで振り返ると弟はひょいって軽くジャンプしてハンカチをとってくれた。
男の子のジャンプ力って凄い。
いつのまにか成長したんだね、弟よ。
ある日弟の洗濯物に珍しくサロペットが入っていた。これって男子って着るんだ…って思ったら、弟が慌てて奪っていった。
弟は彼女を連れ込んでたのかもしれない。
今日はお赤飯にしてあげよう。
君が魔法使いにならずにすんで、お姉ちゃんは嬉しいぞ弟よ。
仕事からかえったら玄関に放られていたカバンからつけ髭が出ていた。
「おお!」これが噂に聞くつけ髭かふっさふさだ!!思わず拾いそうになり、あることを思い付いた。
私は先日後輩から貰ったキャンディをカバンから出した。棒つきの丸いキャンディは大人になってから食べると甘いし大きいし見た目的にも色々辛いから放置していたのだけど、思わぬ出番があったものだ。「あ、ねぇちゃんお帰り」って後ろのドアが開いて弟が帰ってきた。手にコンビニの袋。なかには食パン。どうやら、明日の朝の食パンを買ってきてくれたらしい。
「お帰り、はい、これあげる。」
私は手してにしていたキャンディを弟に渡す。カラフルなデザインの丸い棒つきキャンディに弟は首をひねった。「なんでチュッパ○ャプス?」っていうから、落ちているつけ髭を拾って渡した。
「髭といえばサルバトーレ・ダリでしょ?」
チュッ○チャプスのパッケージは彼のデザインだぞ弟よ。
ある日、夕飯のあと弟とニュースを見ていたら隣街で強盗が貴金属店を襲ったニュースだった。
「物騒ねぇ…」って呟いたら夕飯の洗い物を終えた弟が、私の入れた濃い目の緑茶を飲みながら「そうだな」って呟いて漬物を食べた。
弟は渋いお茶と野沢菜のお漬物がすきだ。お茶請けにするくらい好きだ。私はちょっと塩分の取りすぎが心配になる。
弟は座りが悪いのかなんだかもぞもぞしてた。「どうしたの?」
「ん、なんか後ろのポケットに硬いもの入ってる」って言って取り出した。その掌には金貨。でっかい、金貨。
「うおっ!?」弟は慌てた様子でそれを持っていた部屋に行った。まるで逃げるように。
私は思わず強盗のニュースをよくよく聞いてしまう。ちょうどそこに速報がテロップで流れた。
「あ、犯人捕まったんだ」
ごめん、一瞬疑った。すまぬ弟よ。