092 新年早々
今年もよろしくお願いします。
年が明け、初日の出が見えてきた。
「おー、この世界の初日の出もいいものだな」
あけましておめでとうと言いたくはなるが、この世界にはあるのだろうか。
「あけましておめでとう!」
「新年だぜー!!」
「あきましておめでちう」
「あれ?それ間違えてないか?」
疑問に思ったので、人化して首都にやってきました。
ギルドにはすでに顔を出し、ギルドマスターに新年のあいさつをした。
年明けのこの1日はギルドも完全休業のようだが、冒険者たちはここで顔合わせをするために休業中にもかかわらず、集まってくる。
ギルドから出てあちこちうろついてみているけど、やっぱりこの世界にもお正月の文化はあるようだ。
過去の転生者が広めたんだろうけど、良いことをしているな・・・・・
「お、餅つきまでやっているな」
商業地区のあたりに行くと、あちこちの店先で餅つきが行われていた。
とはいっても、もち米を使ったものではなく「もっちの米」という何か惜しい名前の植物の種を利用しているようだが。
・・・できたのはお餅とちゃんとついているあたり、その辺は気にしないのであろう。
紛れてこっそりもらって食べてみて気が付いたが、味が各店によって違う。
「あれ?なんで似たような物を使っているのに味が違うんだ?」
「おや?知らないのかそこのにいちゃんや」
俺のつぶやきを聞いた屋台のおっちゃんが教えてくれた。
どうやらこの「もっちの米」というのは別名があって、その別名と言うのが「心映しの米」らしい。
その名の通り、心を反映させるという不思議なもので、それを調理する過程で周囲の人たちの心の具合によって味が変化するのだとか。
楽しい気持ちやうれしい気持ちが多いほどおいしくなり、反対に悲しい気持ちなどが多いほどまずくなるという繊細さがあるのだとか。
で、店によって味が違うのも、その店に集まる人の心がそれぞれ違うからそのような変化が起きるようである。
「一時は犯罪の捜査で使用しようという話もあったが、周囲に影響されやすくてな、結局この餅つきに使用されるだけにとどまったのさ」
「なるほど、そういう話があるのですか・・・・」
面白そうなので、その種を少々分けてもらった。
まだ持ってなかったし、畑で栽培すればいつでもお餅食べ放題だぜ。
まだまだうろついていると、あちこちで羽根つきや凧、コマ回しなども行われている。
日本人転生者が広めたんだろうなー。やっぱもうこれ確定だ。
というか、異世界なのに日本の昔ながらの正月風景が広がるとはこれいかに。
しかし・・・福笑いとかはない。
中途半端な部分があるのはやはりこの世界の人達の気性にもよるんだろう。
受け入られるところは受け入れ、受け入られなければ受け入られるように改善される。
創意工夫がよく見られるものだと実感した。
「ただいまー」
「コケー」
「ココ―」
転移魔法で自宅に帰ると、ピヨ吉たちが返事をしてくれた。
「あ、アルお邪魔しているね」
「アル、あけましておめでとうです」
「・・・ラン王女とアリス姫ですか」
二人ともどうやら来たようで、ピヨ吉たちが入れたらしい。
外を見ると、アリス姫専用車が置いてある。活用してくれているようで何よりだ。
「今年もどうも、よろしくお願いいたします」
「いえいえ、こちらこそどうぞよろしく」
「こちらこそ」
挨拶を交わし合って・・・・まてよ?
「あれ?アリス姫の場合、城で新年会みたいなものが開かれていなかったけ?」
この国の王族は飾りの様なものだが、一応行事には主張するかのように出ていたはずだ。
「あはははは・・・ちょっと飽きたのでここに逃げてきました」
「まあ、その気持ちはわかるね。こっちも新年早々武闘大会だったし」
アリス姫が苦笑し、ラン王女も別の事のようだが同意しているようである。
王族って大変なんだな・・・・モンスターの方に転生していてよかったかも。
って、王族が2人も家にいるっていうのもなんかすごいかもしれないな。今さら感があるけど。
とにもかくにも、新年どうぞよろしくお願いいたします。
主人公が挨拶を代わりにした感じがする。