085 据え膳・・・いやいやいや
アルの受難ともいえるのか
「うまい!!なにこれ城でも食べたことがないんですが!!」
「ん?これただのカツ丼だが」
いまアルたちが食べているのは、半年ちょっと前に討伐したキングピッファローグシュの肉から作ったカツ丼である。夕食として準備しており、ラン王女が泊まるために急きょ増量したのだ。
亜空間収納内は時間が停止しているようなもので、時間がいくら経とうが腐ることはないのだ。
そのため、半年前ほどの肉でも新鮮そのまま、味もそのままであるのだ。
がつがつと、目の前でラン王女はあっという間にカツ丼を平らげた。
うん、おいしく食べてもらえるのってうれしいよね。料理人の気持ちがよくわかるな。
「おかわり!!」
「はいはい」
ラン王女が空になったどんぶりを出してきて、俺はカツ丼を装ってやった。
自分で作っておいてなんだが、結構おいしいのである。
そもそも、キングピッファローグシュの肉自体がおいしいのもあるだろうけど、やっぱしこだわったからなぁ。
カツ丼に混ぜている卵はピヨ美の新鮮うみたて卵、カツの衣とねぎと、玉ねぎは畑で栽培した同じ味である別の野菜から代用しているのだ。
衣はさくっと、中はジューシーでご飯とよく合い、いくらでも食えそうである・・・・・2杯で腹いっぱいになったけどね。人化解除したらまだまだ食えるだろうけど、残しておきたいからね。
にしても、ラン王女は本気で今日この家に泊まるつもりだな。
もう外は真っ暗だし、盗賊とはこの森では出ないだろうけど、首都まで安全とは言えないしね。
仕方がなく、この家に泊まることを認めたけど・・・・うん、内心どう対応すればよいのやら。
「風呂借りますね」
「ああ、別に良いが・・・・着替えあるのか?」
この家俺の服だけしかないぞ。あ、冒険者なら小さく折りたたんである奴があるのかな。
と思って見ていたら、何やら小さな袋をラン王女が取り出して中から衣服を取り出していた。
・・・その袋、サイズが小さなきんちゃく袋サイズで容量があってないよね?
「ラン王女、それってなんだ?」
「これですか?これは魔道具の『収納袋(Sサイズ)』です。白金貨4枚分の値段で、2メートル四方のサイズの収納が可能なものなんですよ」
なるほど、要は某猫ロボのポケットの巾着版か。白金貨4枚ってことは日本円にして400万ほどってことだよね?
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『収納袋』
どんどん物が入るが、無限の収納は不可能な魔道具。「亜空間収納」のスキルの超劣化版で、最大10メートル四方までの物が記録に残っている。
内部は普通に時間経過し、長期収納にはあまり向かない。
破損したりするとその機能は停止し、修理しないと内部の者を二度と取り出せなくなる。
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なるほど、無限に入りかつ時間停止する「亜空間収納」に比べたら確かに劣化版だな。
と言うか、結構お高い値段の割にはしょぼい気もするが・・・・まあ衣服とかを仕舞う程度なら結構いいのかな?
商売をする人にも役立つかもしれないけど、値段が高いから入手は余りできないと。
「この中に着替えを入れておけば、いつでも着替えられるんですよ」
冒険者には万が一のトラブルもあって、余分な荷物を持たない人が多く、こういうのがあれば余裕を持って対処しやすくはなるんだろうな。
ラン王女は風呂場に行き、風呂に浸かったようである。
煩悩的なものを打ち消すため、俺は人化解除して冬の湖に飛び込んだけどね。覗きとかはしないよ。ラン王女の見た目はいいけどさ、覗いたら神龍帝でも確実に殺される自信はあるね。
にしても「収納袋」か・・・・ちょっと作ってみようかな。某猫ロボ風に道具を取り出すマネとかも作ってみたいし。
と言うわけで、湖から出てすぐに俺は作ってみることにした。
一応ポケットではなく同じような巾着サイズのモノにしてみよう。
・・・・そういえば、どうやって作ればいいんだろうか?亜空間収納を応用すればできるかな。
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SIDEラン王女
「ふぅっ・・・・いい湯ね」
ラン王女は風呂にゆっくりと浸かりながらついつぶやいた。
入浴という文化はあるのだが、アルのこの家の風呂はなかなかのものである。
ゆったりと浸かれ、なおかつ常にちょうどいい温度になるようにできているようだ。
「・・・・覗きには来ないわね」
ちょっと内心ラン王女は残念がった。
さすがに公認モンスター、覗きの様な低俗な真似をしないのであろう。
アルなら別に除かれてもいいと思うのであるが、それ以外の異性だった場合、肉片のこるか残らないかぐらいまでにはしている。
「にしても、カツ丼がうまかったわね・・・・」
ついジュルりと、ごちそうになった料理の味を思い出してラン王女はよだれを垂らしそうになった。
まあそれは置いておいて、今回この家に来た目的は2つある。
1つは、単純にAランクになったことを伝えに来たこと。
これは嘘偽りもなく、純粋なうれしさからである。
だが、2つ目は純粋かと言われたら別だ。
「うまい事誘惑をできればいいのだけれども・・・」
アルとの試合以降、ラン王女はアルに対しての感情を自覚している。
そう、いわゆる「恋」というモノであろう。
しかし、アルの場合、ラン王女の文通友達でもあるアリス姫とも親しくしており、友人の目からしてもアリスは確実にアルに対して恋をしていると断言できる。
けど、ラン王女はそれでは引き下がらない。
好きになったもの勝ちだと考えられ、アルがアリス姫に対して恋心を芽生える前に、自身に向ければいいのである。
見た目良し、実力良しで十分ストライクゾーンであり、やっと出会えた運命のようなものをラン王女は感じていた。
なので今回、この家に泊まりに来たのはいかにして自身に誘惑できるかと調べることでもあった。
公認モンスターとはいえ人化時は男性。誘惑が不可能なはずがないだろう。
死んだ母も言っていた「男を落とすなら、積極的なアピールが大事」という言葉を信じるべきである。
アリスには悪いとは思えど、恋は戦争であり、譲れぬ乙女心があるのだ。
・・・まあ、実際には自分が食欲で誘惑されかけたが・・・・。
何はともあれ、自然にかつ何とかして惹かせることができないかとラン王女は湯船につかりながら策を練り始めるのであった・・・・・。
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SIDEアリス姫
「ぬぅ・・・やっぱり何か胸が騒ぎますね」
乙女心が叫んでいる。そう感じるアリス姫であった。
まだ続くよ
・・・・女狐って言ってもおかしくないような気がする。