069 茶番劇:後編
本日3話目
うーん、この手のやり方はやはりほのぼののんびり風味のこの物語に合わないな。
ドガガガガ!!
ガンガンガンガン!!
・・・・これってさ、手合わせであって本気の試合じゃないよね。
現在、茶番という名の犯人のあぶり出しのために色々あって、アルはラン王女と対戦していた。
すばやくドレスから着替えて、戦闘用の服装にするのとかは良い。
ドレスのままだと戦いにくいし、素手での戦いだから下手するともったいないよね。
でもさ・・・・・これって本気の拳なような気がするんですけど!!
「はぁっ!!」
「わっと!?」
繰り出されれて来た右手の突きをかわし、勢いを利用して其のまま投げ飛ばそうとする。
だが、投げ飛ばされまいとラン王女は力を込めて、無理やり投げの体制から脱出し、空中で見事な回転をして地面に着地する。
着地と同時に地面がめり込むほどの瞬発力で一気に攻め込み、まっすぐ来るかと思いきや横に素早く蹴って軌道を変えて、真横からいきなり攻めてくる。
だが、一応動体視力もいいのでかわすことができる。
その戦いは、この国で武闘を励んでいる獣人たちの目からして見れば物凄いものであった。
ラン王女の猛攻を、アルは自前の身体能力でしのぎ、前世の漫画やアニメで見るような技で無理やりよけたり、技をかけたりしていた。
「ふふふふふふふ・・・やはりいい相手になるわね!!」
あ、ダメだこりゃ。茶番の予定をすっかり忘れてこれ本気になっているやつだ。
ラン王女の瞳がらんらんと輝き、恍惚とした表情を戦いの中で見たアルは、この時心の底から「戦闘狂」という言葉をよく理解した。
最初の予定では、互いに軽くかつ力を見せつけるような戦いをする予定であったのだが、ラン王女はどうやら戦闘に興奮してすっかりそのスイッチが入ったようである。
どこぞやの金髪になったり大猿になったりする種族かよ!!
人化は元の神龍帝の姿よりも弱体化しているらしいとは言え、念のための保険『身体強化魔法』を使用していないで戦えている自分の身体を改めてチートだと認識したけどさ、これどう収拾つければいいわけ!?
内心そう叫びつつも、周囲を戦いながらもよく見渡して様子がおかしい奴がいないか見渡す。
今のこの周囲にいるこの国の国王や貴族たちはこの戦いに集中して見ている。
先ほどの批判を吐いていた宰相は顔を青くしつつも、戦いに入りたそうな顔になり、他の獣人たちも同様に見ていた。
アリス姫は「あ、これどうしようかしら」みたいな悩んだ顔をしており、この事態をどう治めるべきか考えてくれているようである。
そりゃまあ、ラン王女がここまで戦闘狂とは思わなかったもんね。おてんば姫とか聞くけど、ここまでとは・・・・。
拳の一撃一撃も鋭いし、下手に気を抜くと結構やばそうだな・・・・。
ガッバーナの大剣裁きよりかはまだましだけど。あれの方がよっぽどだったからね。
と、周囲を観察していると、アルはふと見つけた。
他の人達はこの戦いをじっくり見ているのだが、よく見るとこっそり、誰にも気が付かれないようにして動いているやつを・・・・・
アリス姫に近づいてきており、その顔はこちらを向いてはおらず、確実にアリス姫を狙っているようであった。
その手を見ると、なにやら黒いベルトのようなものがある。
(「鑑定」)
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『拘束ベルト』
スキルによって生み出された相手の動きを封じるモノ。
拘束する箇所はそのスキル所持者の意のままであり、その拘束力は強力。
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・・・ビンゴ。あれがおそらくアリス姫とラン王女を攫おうとしたやつであろう。
今皆の視線はこちらの戦闘に集中しており、すぐには気が付かないだろう。
戦闘している位置から考えると、すぐにはこちらに動けないとも思っているな・・・・だが甘い!!
戦闘にすっかりはまっているラン王女をまずは止める!!
「ここまで楽しんでいたようだけど、一気に行くぜ!!」
一気に俺は地面を蹴った。
ドガァァァァァン!!
地面がめり込むほどの力で、一瞬でラン王女との距離を詰める。
「!?」
ラン王女が驚いて目を見開き、その後方に素早く回り込み、狙いを定める。
そのまま腕を後ろから掴み、その狙ったところに怪我しないように活全力で投げ飛ばす!
「ずぇぇやぁぁぁ!!」
ラン王女は一気に投げ飛ばされ、俺が狙った方角に飛んでいく。
そして、その狙いに気が付いてやっと冷静になったのであろう。
すぐに俺の狙いに気が付いて、アリス姫に迫っていたその不審人物に対して・・・・
「みつけたぁぁぁぁぁぁぁっ!!」
どっごぉぉぉぉぉぉぉん!!
・・・・・勢いをそのまま利用して、見事なドロップキックを決めてその人物を蹴っ飛ばす。
明らかになんかやばそうな音がしつつも、その人物は壁にたたきつけらてやっと止まった。
いきなりの出来事に、周囲の人たちは唖然とした顔をした。
先ほどまで戦闘をしていた二人が、いきなり何者かをふっ飛ばしたらそりゃだれでも驚くわな。
すばやく俺もラン王女とアリス姫の近くに近距離転移魔法で一瞬のうちにいき、素早くその不審者を取り押さえる。
スキルによってできているそのベルトを、力技で消えないようにして抑え込んだ。
「こいつです!!」
「この人物が、私たちを攫おうとしたやつよ!!」
アリス姫とラン王女がそのスキルによる拘束手段を見て、素早く犯人であると宣言した。
「『鑑定』」
念のために、鑑定を・・・・
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「変わり身の術の木」
残念、偽物だ
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「あれ!?」
取り押さえたかと思いきや、その怪しげな人物は消えており、木の枝になっていた。
いや、そこは丸太だろ!!!・・・じゃなくて、肝心の犯人は!?
「・・・あっぶねぇなぁもう」
と、その場に似つかわしくないような軽い声が聞こえた。
その場にいた全員がその声の方を見ると、黒いローブのようなものを着た人物がそこにいた。
どうやら、今のラン王女が蹴りを入れる一瞬のうちに身代わりを立てて難を逃れたようである。
・・・・正直なところ、その選択は正しいと思うけど。あの蹴りは普通の人だと本当に死ぬと思う。
「な、何者だ貴様は!!」
ハルカンドラ王が叫び、ラン王女は素早く臨戦態勢をとる。
他に見ていた衛兵とかそういった人たちもその黒いローブの人物の周囲を取り囲んだ。
「あはははは、俺の正体を知りたいのかな?」
どことなく人を馬鹿にしているような声。
だが、そのふざけた声とは別に、その気配はしっかりと隙が無いようであった。
「まあ、言う気はないし、もうわかっているだろうけど、俺はそのお姫さまたちを攫うように言われてきた人物でね、失敗したからもう逃亡しなければいけないんだよね」
もうなんかあきらめがついたかのように、急にべらべらしゃべりだしたぞこいつ。
と、ここで俺はふと思い出したことがあった。
声は違えど、あの服装は以前帝国の・・・・名前忘れたけど大馬鹿皇子についていて、見限って裏切ったやつと同じである。
・・・・そいつの仲間なのか?
「ともかく、俺はただ依頼をを受けていただけであってね、あ、その依頼人ってのはね」
考えこんでいると、その黒ローブの人物はすっと指をさした。
その方向にいたのは・・・一人の獣人。
「ヴァルン騎士団長・・・・・!?」
うん、知らんおっさんだな。
だけど、ハルカンドラ王はすぐにその騎士団長がだれかよくわかったようだ。
「な、なにを言うか!!私では!」
「あー・・・・一応言っとくとね、俺ら『黒衣』は依頼失敗と感じたら、ぜーんぶの証拠をすぐにさらけ出すようにしているんだわ。すでにその証拠は失敗を確認した部下たちがぜ・ん・ぶまとめてここに届くようにしているよん」
しゃべり方がなんかむかつく感じだが、その証拠を一気にさらけ出すのは、あの大馬鹿腐れ野郎を見限ったやつと同じ手法である。
そんでもって、そのことを聞いた騎士団長さんとやらは物凄い顔を青くして膝を崩した。
「さてと、ではさらばぁっつ!!」
「あ!待て!!」
あまりも堂々と一気にしゃべっていたので、全員その人物がその場から消えるのに対応できなかった。
一瞬で姿をくらませて、そのままその黒ローブの人物は消えたのであった・・・・・・。
こうして、アリス姫&ラン王女誘拐未遂事件は幕を下ろし、その黒幕だったらしい騎士団長は、すぐに届いてきた大量の証拠の山に白目をむいて、そのまま連行されていった。
・・・・後味の悪いものだな。
毎回あと一歩のところでル○ンに逃げられる銭○警部の気持ちがよくわかるよ。
・・・・おや、ラン王女の様子が。