050 季節的に夏ですよ
書いている季節とは真逆ですけどね(12月執筆)
SIDE城内
「はあっ・・・」
「ため息なんてついてどうしたんだい?」
娘がため息をつくのを見て、父親であるこの国の国王ザストは尋ねた。
娘がため息をつくのを珍しいと思ったからである。
「いえ、もうあの方・・・アルに出会ってから半年ほどが経つのですが、なかなか前に進めなくて・・・」
そう言う娘の顔は恋する乙女の顔をしており、なんとなくザストは複雑な気分になった。
確実に娘はあの神龍帝・・・・公認モンスターにも認定されたアルという若者に恋をしているのであろう。
今のところ、互いに楽しく話をするだけでまだ先へと進めずにいるようだが。
アルが鈍感なのか、へたれている娘のせいなのか・・・・・。
モンスターと人間の恋話は昔からあり、結ばれた例はあるので不可能ではないという事だが、父親の気持ちとしてはまだまだ娘にそばにいてほしい感じであった。
なお、母親である王妃は応援を陰ながらしていたのだが。ついでに城勤めのメイドたちもその恋模様に注目していた。
まあ、一応これでもし娘とアルが恋仲になることができれば、この国には強大な力が付くモンスターがバックアップにつくようなことにもなり、他国からの侵略などに対してもそれなりの対応ができるようになるのだが・・・・・・。
それでも、父親としてはどことなく微妙な感情があった。
娘の恋は応援したい、けれどもまだそばにいてほしいような気持があり複雑な気分である。
まあ、以前城に訪れたときに直接顔を合わせはせずに物陰から見たが、好青年な印象があった。
人化していて、元の姿は美しい純白のドラゴンらしい。
公認モンスターで、あの「開けぬ森」を縄張りにしているらしく、たまに上空を飛んでいる様子が報告される。
根が悪くもなく、穏やかな暮らしを望んでいるような心優しい人物・・・モンスターであるというのは理解できるが、それでも子離れできぬ父親の心としてはまだまだと言いたかった。
「・・・そういえば、もうすぐ夏祭りがありましたよね」
と、ふとアリスが何かを思いついたようにつぶやいた。
このルンデバラート国の首都のランダナムでは、毎年夏に決まって恒例行事として「夏祭り」というモノがある。
もともとは、はるか極東の島国発祥の祭りらしいが、この国でも活性化のためにやってみればと議会で出され、4年ほど前に行ってみたところ好評で、それから毎年夏にやっているのである。
「その祭りに誘うのか?」
「はい、祭りにかこつけてデートをしてみようという作戦です」
実はここの王族一同、毎年夏祭りにはお忍びでこっそり楽しんでいるのである。
一応飾りのような立場とはいえ、この国の象徴でもあるので護衛を付けなければならないが・・・。
服装なども、目立たないように町の人々の服装をわざわざ購入して変装するのだ。
まあ、顔バレはしているだろうが。よく国の行事とかで顔出ししているのが原因である。
とにもかくにも、アリスはアルを夏祭りに誘ってみようと早速馬車で向かうのであった。
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SIDEアル
「夏祭り?」
「はい、この国で毎年行われる行事です」
畑で作物を収穫してると、アリス姫が訪ねてきた。
まあ、庭に新たに加わった地龍のドランを見て驚いてはいたのだが、事情を説明して落ち着いた後、そう話してきた。
へー、この世界でも夏祭りってあるんだと思ったが、よくよく考えてみるとおかしい事でもないかもしれない。
俺のように転生してきた人がいて、その人が開催してみようとか言ってみたんじゃないだろうか?
案外間違っていないかもしれない推測だけど、まあ別に気にしなくてもいいか。
「それでですね、アルと一緒に今年は回ってみたいなと」
「別にいいが・・・アリス姫って王女だよな。王女が出歩いていて大丈夫なのか?」
そこがちょっと気になる。ここに来るときも一応馬車の周囲に最低限の騎士たちがいるようだけど・・・。
「大丈夫です。そもそも、アルが一緒なら問題ないでしょう?」
「・・・ああ、たしかにそうかもしれないかもな」
よくよく考えたら、俺が一番の護衛になるってことだもんな。
まあ、夏祭りの準備期間からして1週間後に夏祭りが開催されるのだとか。一緒に出歩く約束をしたけど、結構楽しみだ。
・・・・でも、この世界の夏祭りって多分前世の日本の物とは違うところがあるよね?
ある意味最強の護衛でもあるよね