251 年月が経過して……
ちょっとばかり時間を経過させてます
……それから色々と年月が経過し、娘息子たちはちょうど花の青春時代になるであろう15歳にまで成長した。
この頃になると、神龍帝のアルはだいぶ人との接触を減らして家やタウンを行き来する生活となり、たまに家族で旅行に行く程度にしか世間に触れなくなっていた。
アリスとランは、にこやかに……アルの影響を受けているのかどうもまだ若い姿のままでいつも一緒に過ごしている。
そして子供たちは独立してきたようで……
人間である娘のラルはアリスと共に公爵家の長女としての地位を得て、社交界デビューを果たした。
神龍帝の娘というのもあるだろうが、美しい金髪が生える淑女として育ったようである。
ただし、あくまで見た目だけなのは言うまでもない。
アリスと血がつながっているはずなのだが、もう一人の母としていたランの影響を強く受けたようであり、貴族主催のパーティなどでは淑女らしく振舞うのだが、家に帰ってくるとランに戦いを挑み、コミュニケーションをその模擬戦の中で取っているようである。
うん、どこかで絶対育成方針を間違えたかも。
まあ、自力で身を守れるぐらいに強く、見た目は淑女なので人気が高いので街中に出ると注目の的になったり、下賤な心の者たちを周囲で護衛しているはずのゴーレムたちよりも素早く取り押さえたりフルボッコにして抑えたり、不正をしている貴族家に突撃して正したりと、なんかものすごい方向に育ちました。
……護衛いらなくないか?そして娘よ、その暴れっぷりで淑女のようにふるまっているのってどうやっているの?ランの場合は最初から騎士団相手に模擬戦を仕掛けたりしてすでにお転婆姫として有名だったのに、ラルの場合は清く正しい淑女の鏡とも言われるって……淑女の定義ってなんだ?
求婚も多いようだが、自分で相手は見つけたいようなのでそこは好きにさせている。
でもきちんと惑わされずに、まともな相手を選んでほしい。
将来的に婚約破棄のざまぁ展開をさせる気がするような予感が……大丈夫か?
一方、獣人で母親のラン譲りの美しい金狐となったエルドは現在、世界各地の病気やケガで苦しんでいる人たちのために旅をしている。
穢れなき真っ白な修道服に身を包み、回復魔法を使って癒したり、人々の相談を受け付けたり、孤児院にて子供たちの相手をしてあげるなど、数多くの慈善事業に手を出して人生を楽しんでいるようだ。
ここは血のつながりのあるランではなく、もう一人の母親であるアリスの優しさに影響されたのだろうか。というか、長女揃って違う母親の影響をまともに受けているようにしか思えない。
でも、その慈愛に満ちた優しさと清楚さの裏腹に、自身の種族の見た目として発言しているのか妖艶な体にもなっているようで、色欲で近づいてくる者たちが後を絶たない。
……でも、伊達に神龍帝の娘といわれているだけではない。
魔法とかもかなりの才能を発揮して扱って撃退したり、改心させて自身の手伝いをさせたりとなかなかのやり手に成長している模様。家から出て旅をしているけど、たまに手紙を送ってきて、その笑顔が同封された写真を見るのが楽しみである。
ゴーレムたちも同行して、その近況を聞いてあらかじめ脅威を取り除くようにサポートするのも忘れない。
いつでも家に帰れるように魔道具を持たせているので、何かあったとしても大丈夫だろう。
そしてなんというか、神龍であるセレスとドラグニルであるシストは意外にも異世界の方に旅立った。
シストはどうも心なしか冒険とかに憧れているようで、色々話し合った上にとりあえずファーストが見繕った世界へと転送された。
……神とかそのあたりはどうなのだろうかと思ったけど、ここは案外あっさり解決した。
何しろ「神」の存在そのものに交渉した結果、その世界の神が受け入れてくれたのである。
というか、ファーストが掌握していた神だったようで、その手腕がちょっと恐ろしいぞ。神龍帝という存在も神に近いようなのでその子供でらうならば問題ないとか言われたし、結構フランクな神だったとだけは言っておこう。
でも、初めて会った時にはやや寂しい頭だったのに、話し合った後にふっさふさになっていたの……「神」だけに、「髪」に買収されるとはどうコメントしたモノか。まぁ、いいか。
というか、セレスも同行しているようで、何やらシストに近づくであろうよこしまな心の者を徹底的に守るために見守るそうだ。
普段は身を潜め、弟であるシストのピンチに駆けつける姉の役割をしているようだが……そのたびにシストの周囲にいる女子達に牽制を仕掛けているのはなぜだろうか。
まぁ、シストが冒険の合間に手紙を送ってくれるから面白いし良いけどね。
でも、諜報部隊の報告だとボルドみたいに肉食系女子が集まってきているみたいだが……大丈夫なのだろうか?
息子だけど、なんか異世界で孫が増えそうでちょっと心配である。肉食系の嫁候補って、お前もボルドと一緒の運命をたどっていくのだろうか……
うん、異世界へ旅立たせて良かったのかなと今さらながら不安になったが、とにもかくにも娘息子たちが元気にいるのはいいことである。
ついでに、最近もう一つ大きな出来事があった。
《ボォォォォォォォォォォッツ!!》
蒸気を噴出し、汽笛を鳴らしてその乗り物は動き出した。
「……まさか、本当にこの事業が完成するとは思わんかったな」
「私もですよ。アルが来てからいろいろありましたけど……」
「本当にこの鉄道ができるとはすごいわね」
結婚記念日のある日、ついに蒸気機関車がようやくこの世界の大陸を走り出したのである。
しかも、路線を伸ばしたり魔法でいろいろ改造した結果、島国からはるかかなたの別の大陸にまで伸びて、本日営業を開始したのだ。
汽笛が鳴り、蒸気機関車は走り出す。
目的地へと向けて、客を大勢のせて今初めての旅路を行くのだ。
蒸気機関車とくれば、その蒸気機関に注目が集まり、各国でさらなる可能性に向けての開発が進み、産業革命が始まるだろう。
この一つの事業だけで、俺はこの世界での主な役割を果たしたようなものである。
これから先は、のんびりとした隠居生活のようなものになるだろうが……うん、今とあまり変わらねぇな!!
そう思いながら、アルは窓から身を乗り出し、この列車が進む風を感じ取っていくのであった……
……もうそろそろかな。