247 退位式と即位式:その2
主人公出番少ない。
最近この扱いが多いような気がしてきた。
SIDEデドビウム=ボーン(ルンデバラート継承予定)
「「「「「ちょーっと待ったぁぁぁぁぁ!!」」」」」
今まさに、前国王であるザスト陛下から王位を承ろうとしたその時、あらかじめ予期出来ていた者たちからの「待った」が掛かった。
呆れながらも表情を変えずにデドビウムがその声のした方向を見ると、貴族のグループができており、その者たちが今の声を上げたようである。
……お前ら馬鹿か?
そうデドビウム氏は思った。
なぜならば、彼らがこれから今まさにやろうとしていることはすでにデドビウムの手の者たちによってすべての情報が入っているわけでもあり、そして何よりも……
ちらりと、気が付かれないように目をそらしてみて見れば白い髪が特徴的な青年がそこにおり、その傍らには目の前にいるザスト陛下の娘であった王女様が……いや、今はその青年の妻であり、王女と言えないかもしれないが、アリス様がそこにいた。
あとその娘と見受けられる方二人。
そしてデドビウムは知っている。その青年が何者であるのかを……どうやら今からデドビウムに何かをしようとする者たちの頭からは抜けているようであるが。
だから情報全て筒抜けだったのでは?頭が足りないというか、穀潰しの無能というか……
「デドビウム=ボーン!!貴公に我々からこの場を持って進言したいことがある!!」
「それは貴公の婚約者についてだ!!」
「我々の手で調べ上げたことであり、確かな情報でもあるのだぞ!!」
「そう、この国を思っての忠誠心から我々一同がまとめてやったんだ!!」
叫んでいるのは……デブランダー侯爵、ゾウムン財務大臣、ゲストン男爵、キセーイ伯爵だな。
王族復古過激派の者たちの中でも際立った者であり、すでに皆なにかしらの不正などの証拠は我が公爵家で押さえてあるので、本当ならば国王になった後に、きちんとした手続きを経て国中の膿を追い出す予定だったのだが、その為にやっていた最中に今まさに奴らがやろうとしていることが露見したのだ。
デドビウム氏には婚約者がいるのだが、その婚約者を巻き込んでの物凄く愚かなことを……
いわく、デドビウム氏の婚約者には物凄くふさわしくない女性だと彼らは言いたいらしい。
その実家は不正をしており、財産目当ての婚約である。
余罪が他にもある可能性があり、このまま結ばれれば国庫金を盗難する可能性がある。
実は厚化粧であり、その本性は醜いものである。
魅了のような魔性の物を使用しており、このままでは国が亡びる。
その他いろいろと批判することをたくさん出した後に……
「そこでだ!!貴殿との婚約破棄を進めて、改めてだな!!」
「我々が選び抜いた新たな国王にふさわしき妃を!!」
「その者と婚約をし直して!!」
「そしてこの国をいい方向へ導けるようにと、この機会に進言したい!!」
堂々としたその態度は自分たちが正しいと思って、いや周囲に思わせるためのものか。
それとも、底抜けの無能共で考えがないだけなのか。
むしろ、よくそんなやつらがその地位にいることができるのだなとデドビウムはそう思った。
証拠の書類のような物を出し、証人であるという者たちもおり、その妃候補として呼ばれたであろう女たちも何人か引き連れてきている。
……だが、ここにきて彼らはまったく気がつかなかったのだろうか?
いや考えていないのか?なぜこの場にその件のデドビウムの婚約者がいないその理由に。
「……で、それで終わりか?」
「「「は?」」」」
デドビウムがつまらなそうに尋ねると、その返答が意外だったのか貴族たちは全員マヌケな顔をしてあっけにとられた。
よく見ればこのことを知っていたのか、会場の端の方で笑いをこらえているような者たちがいるが……情報既に全部バレバレのようである。
「な、何を言うのだ貴殿は?我々は新たな国王となる者のために動いたのであってだな」
「ああ、でもなんでこのわたしの婚約者について君たちがああだこうだというのだ?」
「な!?今言った証拠の類とか我々の話が理解できぬのか!?」
「とんだ愚王になり下がるのか!?」
「はぁ、愚王というか、バカはそっちだ」
呆れたように、デドビウムは肩をすくめた。
「そもそもまず問いたいが……たった一人の女性を相手に、なぜ君たちは寄ってたかってそんなことを問いただすのだ?罪があろうとなかろうと、まずはそのたった一人の女性に対して厳しく批判する態度はいかがなものかと思うがね?」
「がっ!?」
「それにだ、その証拠の数々は本当に正しいモノか?今どき偽装もできるわけだし、その証拠を作るだけでもどれだけの費用をかけたんだ?」
「ぎっ!?」
「大体妃候補を選んだとか言うが、このわたしと婚約者との婚約は国王陛下も……失礼、今は隠居するのでしたな……ともかく、取り決めていることだぞ?次代の国王の妃となる者はきちんと決めているのだし、その事に反対するのは王命の反故……今のこの国の王族の立場は弱いとはいえ、需要な事だというのに代わりはないぞ」
「ぐっ!?」
「魔性の魅了とか言うが、そう言ったモノが彼女にはないことはすでに調べているんだぞ?そもそも道具とかであろうとも、意志が、心が、その決意が強ければ効果はないだろうし、そう言う物を使っているのはむしろハニートラップを仕掛けてくるような家ではないか?」
「げっ!?」
「まぁ、もっともな正論を言わせてもらうなら、事を穏便に済ませたほうがいいはずなのに、なぜわざわざ騒ぎになるようなこの場で発言を、それも退位された元陛下と、これから即位をして国王となろうわたしに叫んで言ったんだ?空気の読めない馬鹿になり下がっているのか?」
「「「「「ごっふ!?」」」」」
一つ一つ指摘していくたびに、次々と居たいところを突かれたのか驚く貴族達。
何しろ、我がボーン公爵家の情報網もそこそこあり、次期国王につくのであればその情報戦も大切になるがゆえにきちんとしているのだ。
不正も何もなかったことを証明できるだけの材料も同時に提示し、逆に彼らのやらかしていた愚かなことを祭り上げていく。
「デブランダー侯爵、確か貴殿は甘味が好きでお菓子をよく食べているらしいが……おいしいものを得たいがゆえに、レシピを非道な手段で奪ったりしているそうだが?肥満でこっそり床を踏み抜いたという報告もあるぞ」
「ゾウムン財務大臣、最近妙に羽振りがいいらしいが、どう計算しても給料以上の計算となり、家財を払っても足りなくはないか?そういえば、最近税収が妙に増えておらず、様々な公共事業予定案が出されているようだったが……どれも手を付けていないはずでは」
「ゲストン男爵、最近娼館とやらに通い詰めてナンバーワンの者に貢いでいるようだが、色欲に溺れている合間にさらにこっそり違法な人身売買に関与しているらしいと聞く。だがどれも年端の行かぬ幼き少女たちを……ストライクゾーンはどこにあるのだ?」
「キセーイ伯爵、そう言えば貴殿が治めている領地で最近妙な噂がしているらしいな。真夜中に、奇声をあげながら全裸で踊り狂う謎の怪人とやらが出ているらしい。それがどうやら誰かに似ているような……」
「「「「「なっ!?」」」」」
デドビウムの言葉に、心当たりがあり過ぎるのか驚く貴族達。
((((でも一番最後の奴だけ何かが違うような))))
その事だけは、会場にいた全員の心が一致したのであった。
「ま、そもそもわたしの婚約者だが、今この場にいないことに気が付いていなかったのか?彼女は今……」
デドビウムが自身の婚約相手の所在を言おうとしたその時であった。
「ごめんなさい!少々手間取って遅れました!!」
ばぁん!!っと会場にあった扉が開かれ、一人の女性が飛び出てきた。
「おおアルフェネオ!!やっと来たのか!!」
「すいませんデドビウム様!!少々掃除をしていたら遅れてしまったのですわ!!」
そう言いながら、デドビウムは急いで走ってくる自身の婚約氏であるアルフェネオを、両手でがっしりと抱きしめた。
その雰囲気だけでなら、物凄く愛し合っているのが分かるだろう。
だが、そのアルフェネオの身体は……鎧を着こんでおり、どう見ても返り血と思わしきものがべったりとくっ付いていた。
アルフェネオ=バロン……デドビウムの婚約者でもあり、普段は悪い奴がいないか平民の服装で城下街を駆け回り、サーチアンドデストロイを繰り返すヤンデレをある意味良い方向へ変えた女性であった。
そんな彼女が鎧を着こんで返り血を浴びているのは……
「ちょうど全部はいてくれたのでここにその記録を持ってきましたのよ!!最近ある商会で出てきた蓄音機とかいう魔道具で録音したのだけれども……」
そういうと、アルフェネオは懐から小さな木箱をとりだし、その頂点にあるボタンを押した。
そして流れてくる声は……今まさに、デドビウムに向けて進言とやらをしてきた貴族たちの不正の証言の数々。
さらに鎧の中からぐうの音も出ないほどの完璧な証拠の数々もアルフェネオは出してきた。
「これが証拠よ!!その者たちは王位につくデドビウム様に、自分たちの都合のいいように動かせそうな娘を送り込んで、王族の権力を向上させたりなどをして、後は禁止されている違法薬物等でいいなりにして自分体の都合のいいように仕立て上げようとしたのよ!!」
びしぃっつ!!っと、勢いよくアルフェネオはここまで起きていた茶番のようなことの真実をすべて述べ上げた。
「ば、馬鹿を言え!!」
「デドビウム様!!その女の言う事は虚偽です!!」
「我々は何もやましいことは企んでいないのです!!」
「愛国心あふれる故に、動いたのに必死で集めた証拠の数々も無視するのですかぁぁぁぁぁ!!」
「……そりゃ無視するな。だって全部本物そっくりだけど、巧妙な真っ赤なねつ造じゃん」
「「「「うるさい!!何を言って……へ?」」」」
聞こえてきた声に、追い詰められようとした貴族たちが振り向いて叫んだが……その姿を見て、思考が停止した。
なぜなら、そこにいたのはその姿はすでに十分知れ渡っており、そして前国王の娘とも婚姻関係を結んだという……公認モンスター「神龍帝」の「アル」だったからだ。
公認モンスターがどのようなものかは常識で知られているし、アルに関してもずいぶん知られているのだが、その相手に対して今その貴族達は怒鳴り声をあげていた。
「へぇ、反論するんだ。こっちもちょっと証拠を集めて来たのになー」
クックックと笑みを浮かべるが、先ほどの貴族たちは冷や汗を超だらだら流して水たまりが足元に出来ていた。
しかも、たった今その者は「証拠を集めてきた」とも言っていた。
公認モンスターは一体だけでも国を滅ぼせるような者が居る。
その中でも神龍帝はあらゆる面でも規格外であるとボーン公爵は情報を集めているときに知ったことがあり、どうやら彼独自の情報収集ルートがあるようで、その正確性はトップクラスらしい。
その彼が言っているのは間違いないのだろうが……今機嫌を損ねたら恐ろしそうである。
そのせいで、誰一人も声を発することができないでいた。
「いやー、面白いものというか、茶番だったとは思うよ。けどね、たった一人の女性に対してよくもまぁ公衆の面前で本人がその場に居なくてもさらし者にしたり、自分たちの不正を棚上げしたり、挙句の果てには図々しく駒になるような細工を出来る者を用意したりと……愚かすぎて何とも言えねぇわ」
呆れるかのようなそぶりを見せているが、その目は明らかに次の出方を伺っているようにデドビウムは思えた。
次に、彼らが発する言葉次第では……最悪の事態になるだろうと。
「な、な、な、何をおっしゃいますか!!」
「我々は何もやましいことなどしてはおりません!!」
「公認モンスターである貴方様に疑われるようなことはないです!!」
「モンスター風情がなぜそこまで!!」
「「「あ」」」
彼らの連携は、傍らから見ていればある意味、意志の統率が取れたものであっただろう。
だが、追い詰められたが故の精神状態の乱れが、その連携を、意志の統一を乱した。
そして、本音で思っているような言葉が出たのだろう。「モンスター風情」と公認モンスターに向けて、いかにも見下したかのような言い方で。
神龍帝のアルの目が一瞬厳しいものになり、威圧感なのか一気にその重圧が増したような気を感じ取り、そのことに「マズイ!!」っとその会場にいた全員は思ったのであった……
……即位式も終わってから数日後、デブランダー侯爵、ゾウムン財務大臣、ゲストン男爵、キセーイ伯爵、そして彼らに協力をしたその他の者たちには、新国王となったデドビウムから直々の処分が下された。
爵位剥奪、強制隠居、去勢手術等々……
さらに、公認モンスターに対して傲慢な物言いをして、今回は助かったがもしかしたら機嫌を損ねてやばいことになっていた可能性を考えて重い処分をプラスした。
「はぁ、これから国王として旨い事公認モンスターたちともやっていけるのだろうか……」
人知れず、王城内でデドビウムはそう溜息を吐くのであった……
一応、アリスの故郷でもあるので滅ぼす気などはアルにはない。
まぁ、それなりの制裁も実はやっていたりもする。
タンスの角に小指をぶつけまくるようになったり、紙を持っただけで手を切れやすくしたり、お菓子で砂糖と塩の間違いが頻発したり、手の届きにくい場所もしくは届いても手入れしにくい場所が痒くなったりなどと、地味ながら嫌な嫌がらせができる魔法を行っています。