246 退位式と即位式:その1
今回は少々分けています
……ルンデバラート国のザスト国王の退任式当日、会場である城内には大勢の招待客が集められていた。
ボーン公爵家の長男がどうやら国王へと即位する式も兼ねているので、なにかしらのつながりを得ておこうかと考えるような輩もいるだろう。
一応、この国では王族の権利がほぼないに等しいとはいえ、なんというかブランドのようなイメージもあるからである。
まぁ、ブランド物ってよくわからないけどね。
貴重とか、特別感とかがあるだろうけど、人の血筋でそういう言い方をするのもどうなのだろうかと、アルは自分でちょっとツッコミを入れていた。
公認モンスターだが、今回退位する国王の娘であるアリスと夫婦関係になり、一応公爵家にも近い状態なので招待はされている。
まぁ、公認モンスターという事は周知の事実なので誰も特に驚くようなことはないだろうけど、念のためにあまり目立たないような場所にアルは適当に動いていた。
「人が多いけど、退位か即位のどっちをメインと考えている人がいるんだろうな?」
「おそらく即位の方ですよ。お父様は親しまれてましたが、やはり今回新たに国王となる方に興味を持つのでしょう」
アルのつぶやきに、そばにいたアリスが返事をする。
今日アリスが着ているのは特別製のドレス……とはいっても、今回の式典が式典なので控えめな色合いである。
派手すぎるのは似合わないし、清楚さとしても申し分ないほどいいかも。
……って、あ。これはこれでちょっと目立つな。清楚さが強調されて逆に綺麗に見えてしまって注目を浴びているような気がする。
「お爺ちゃんの退位式って人が多いなー」
「お父様、もうそろそろ始まるようですよ」
娘のラルとセレスも似合っている小さなドレスを着ているけど、これはこれでかわいらしい。
子供連れの貴族とかもいるので特に目立つほどでもないと……
「うわぁ……可愛い」
「なにあの子、良い」
「なかなか元気がいいなぁ」
前言撤回。十分に目立っていたわ。
ラルは人間であるけど、美少女と言っていいような感じだし、セレスは神龍で人の姿であるけど神秘的な雰囲気を纏っている。
その様子だけを見れば、そりゃ他の人達からも注目を浴びるだろう。
様子だけならね。ラルの場合、アリスが親なんだけど……ランの影響が大きくあるのか元気よく活発に動くのが好きな感じに育っているし、セレスはブラコンを発症して来たのか、ここに来るまでシストに神龍の姿の状態で巻き付いていたからな。
……教育に関してもう少し考えないとな。誰か良い教育に関する先生はいない者か……どこかに教育機関があればそこに通わせるのだがなぁ。
ちなみに、ランとエルドとシストは家で留守番中。ここに来る前に何とか巻き付いていたセレスを離れさせて、シストは家の方に転移させました。
今回の式典はこの国で行われるものであり、一応他国の王女であったランは出席するつもりがないようである。
出席する気がない以外にも、もう一つ理由があるらしいけどね。
毎回姉たちとの喧嘩で弱いシストを鍛えあげるとかなんとか……だから回復魔法が使えるという事でエルドも家に残ったんだよね。できればケガしないでほしいけど、なんでこうなったのだろうか?
『まもなく、退位式を始めます。現国王であったザスト=ルンデバラート陛下が入場いたします!!』
っと、そうこうしているうちに会場全体にアナウンスが響き渡った。
いつのまにか時間が来ていたようである。
見て見れば、用意されている壇上に国王であり、これから退位するザスト=ルンデバラートが立っていた。
アルにとってはお義父さんという事にもなり、ラルとセレスたちにとっては祖父でもある。
……でもまだそこまですごい年を取っているわけではない。もう少し現役で行けそうなんだけどな。
『あー、これよりわたしは王位を退位し、隠居することを宣言する!』
司会役の人からマイクを渡され、ザスト国王……いや、元国王は即材に高らかに宣言した。
すばやく宣言することによって、自身の退位をさっさと終わらせて、新しい国王に譲る判断であろう。
『そして、それと同時に新たな国王として王族家系から……ボーン公爵家長男、デドビム=ボーンを選ぶ!!』
そう元国王が宣言しながら指さした先には、今回のもう一人の主役でもあるデドビウム氏。
30代前半頃で、現役バリバリの人のようである。
そこそこやり手でもあり、商業にも手を出していてゴーレム商会ともいいライバルなのだとか。
そして、アルは見逃さなかった。
デドビウム氏が壇上へ向かう途中に、何やら貴族の数人ほどが集まりだしていることを。
おそらく、王位復古過激派に所属する者たちであり、この即位式の方で何かをやらかすのだろうが……ボーン公爵家の方でも察知してすでに対抗策を立てているというし大丈夫だろう。
ザスト元国王がデドビウム氏と対峙し、その手には王冠が握られていた。
『では、これより即位式の形式に乗って王冠授与を……』
「「「「「ちょーっと待ったぁぁぁぁぁ!!」」」」」
これから始まろうとしていた式の直前に、集まりだしていた貴族たちがそう叫び声を上げたのであった……
次回はデドビウム氏視点である。
本当は短編予定であったんだけど、なんとなく本編に入れたくなったがゆえにできた話である。
次期はずれかもしれない「ざまぁ?」になるかも。