244 …5年後
時間を少しづつ経過させていくかな。
子供たちが生まれて、5年ほど過ぎたある日の事であった。
「退位式?」
「そのようですね。私のお父様…ルンデバラート国の国王ザスト=ルンデバラートの退位が行われるようです」
森の中にあるアルの家に届いた手紙の中に、退位式への招待状があった。
これは同時に「即位式」も行われるようで、早い話が国王の交代である。
「ママ!!パパ!!それってどういう式典なの?」
っと、ちょうど長女であるラルが話をかぎつけたのか、元気いっぱいに質問してきた。
その向こう側には、ぼっこぼこなった息子のシストと、彼に回復魔法をかけている娘のエルドがいる。
同じく娘のセレスは膝枕をしてあげているようであった。
「空中コンボ100連続とか、お姉ちゃんもとんでもないわよ」
「ああ弟よ、今ここで安らか眠りを・・・」
「死んでいないですよ!?」
…さっき、おやつのプリンで互いに争っていたようだったけど、それにどうやらラルは勝利したようである。
というかまだ5歳の娘なのに、弟であるシストへのあのボコボコぶりはひでぇ。娘の強さをちょっと抑える必要がありそうだ。
あとシスト、お前多分ランからまた特訓させられるぞ。より強くしてあげるわよとランがスタンバっているもん。
我が息子ながら不憫である。
「っと、そうだった式典の説明だったか」
その状況を見てつい飛んでいた思考から戻り、アルは娘に説明した。
「要はね、アリス…ラルのお爺ちゃんが国王を隠居して余生を過ごすんだよ」
「そして、いとこにあたる人が新たな国王になるのですよ」
「いとこ?ママが女王とかにならないのー?」
不思議そうな顔をして顔を傾ける愛娘。うん、永久保存したい。
親バカぶりが出てきているアルだが…一応説明を娘にした。
「アリスも王族で、国王の娘だ。王位継承権はあったような感じだけど…」
「ごたごたが面倒で、アルとの結婚時に放棄しているのです。そのため、王族の血筋から新たな国王を選ぶことになったのよ」
まぁ、このルンデバラート国でいえばアルたちは公爵家と言ってもいい感じである。
公認モンスターが貴族家の中に入るのはどうなのかと言いたくはなるが、王位継承権はなく、王族の血を引いているだけの形ばかりの家柄であろう。
…そもそも、ルンデバラート国の王族自体が形ばかりのモノだけどね。
政治は貴族の方から選ばれる議員…民主制のちょっと手前ぐらいな形態で、国王は飾りである。
精々重要な外交行事などに出たりする程度であり、権力もそんなにはないのだ。
聞いたところによると、かなり昔は王国と呼ばれるほどきちんと王族の権利は確保されていたらしい。
だが、何かをやらかして王族は形ばかりになったそうだが…何をしたんだろうか?
ちなみに、余談だが公認モンスター「吸血鬼」のゼノの血を今の王族は引いているようで、母方の方から引いているようである。
そしてその子孫にアリスも入るのだが…別にただの人間である。
遺伝はしなかったようだが、血でわかるのだとゼノは言っていた。不思議なものだなぁ。
ついでに、その事からわかる事らしいが、今度新たに即位するアリスのいとこ…今は確か王族家の血を引くという公爵家ボーンだったかな?あの公爵家にはゼノの血は入っていないそうだ。
まぁ、きな臭い噂もないし、その即位するいとこも特に問題を起こすような人ではないから安心らしい。
影が薄いとか言われているようだが、国王とは名ばかりの国のお飾りだから大丈夫かな。
「その事ですが、少々懸念すべきことがあるのデス」
と、タウンの方からファーストが癒えに入って来た。
「ん?なにかあるのか?」
「全国展開、別大陸、異世界まで最近拡大をしている諜報部隊からの情報ですが、その公爵家の者たちには確かに不穏な噂やつながり、情報はないのデス。ですが、その公爵家に嫁がせようとする貴族家がデスネ」
何やら今妙な言葉が混じっていたような気がするが、それは置いておく。
ボーン公爵家の者が国王になるということは、王族として表舞台に立つという事である。
飾りばかりとは言え、王族という言葉は貴族たちにとっては何処か甘露のように感じる魅惑の響きなのだろう。
その為、王族に何としてでも入りたいと思って側室やら愛人としての人を差し向けようとする家もあるそうだ。
そして、諜報部隊が得た情報によると…
「今のルンデバラート国は王族の力がほとんどありませン。ですが、その王族の発言権や権力を増して、王国どころか独裁国にしたいという『王政復古過激派』とかいうのが暗躍をしているらしいのデス」
「どこにでもある権力欲の問題か」
「そう言う事デスネ」
王族に仲間入りして、なおかつ国王を傀儡にして自分たちの都合のいいようにしたいとかいうおバカな連中が出て来たそうだ。
とは言っても、アルにとっては意味をなさない。
公認モンスターとしてギルドから認められているので、実質国とは関わりを強く持っているわけではないし、害されなければ何もしないという事を貫く感じである。
別に国が何かしようとも、自分体に害を及ば差なければ基本ノータッチの方針なのだ(それでも少しは手を出してしまう事があるが…)
アリスの故郷の国でもあり、この今いる「開けぬ森」…数年前に名称が「神龍帝の住まう森」に変更になってはいるが、ここに隣接する国だとしても害がなければ基本的にあれこれとやかくいう意味もない。
「というか、害となる前に未然に防げるんじゃ?」
ゴーレム諜報部隊の工作能力もあれば、わざわざ報告する前に未然に無きことに出来そうだが?
「いえ、防ぐ以前に自滅コースデス」
「自滅コース?」
どうやらファーストが報告してきた理由は、面白そうなことになりそうだという理由からのようであった。
そもそも、アルたちに害になるのであればゴーレムたちは自ら未然に防ごうと動くであろう。
「何しろ、そのボーン公爵家がすでに察知しているようであり、ならばこの際国の膿はその舞台できれいさっぱり洗い流そうとしているそうですからネ」
「自信満々にやってくる馬鹿を、見事に撃墜するという事か」
なるほど、ちょっとそれはそれで見てみたいかもしれない。
詳しい内容を聞くと、どうやらテンプレのような婚約破棄とはちょっと違った物のようである。
「だったらその退位式・即位式に出席するか。トドメとかも出してみたいしね」
「アルが行くとオーバーキルを越せそうですけどね」
「パパすごーい!!」
アリスが苦笑いをしながら言っているが、その横ではラルは物凄い眩しい笑顔を見せているのであった。
穢れなき愛娘の顔は計り知れない…
…破滅の道を歩んでいるのも知らない愚か者たちは、断罪の場へと導かれていくのであった。
「しかし、何処までうちの諜報部隊の範囲は広がっているんだ?」
「はるかかなたの大陸まで確実に広がっていマス。ゴーレムたちは体の構造をいじることで虫のように小さくなって紛れることも可能ですからネ」
「というか、さっきの言葉で異世界って…」
「…マスター、世の中にはマスターでも知らないほうが良いというモノがあるんですヨ」
そうつぶやきながらそっと目をそらすファーストに、アルは一度ゴーレムたちを把握し直す必要性があるなと真剣に考え始めるのであった。