235 人知れず行われる導き
今回主人公不在回
SIDEミャルゲス
・・・・深夜、月夜の明かりがあたりを照らし、静まり返っている時間帯。
焼け落ちた孤児院の跡地に、一人の影が立っていた。
「・・・ここがその噂の場所なのだよか」
ぽつりと、リッチキングのミャルゲスはそうつぶやいた。
今日の姿はローブを着ており、よく身体の大きさを変えるミャルゲスにはぴったりの伸縮性を持った衣服をその下に纏っているのである。
ちなみに、カッコつけという感覚で綺麗な宝石が先端についた杖も所持していた。
魔道具の一種で、魔法の効力を1.2倍にまで引き上げるのだ。
・・・・なお、それ以上の倍率に引き上げることができるのもあるが、普段タウンで爆発を引き起こしたりはしているとはいえミャルゲスも一応公認モンスターであるのでそこそこの戦闘力は誇る。
その為、別に威力をむやみやたらに引き上げる必要もないし、むしろ魔法の威力の引き上げではなく純粋な鈍器としての役割の意味の方があった。
・・・・しくしく・・・・しくしく・・
「お、声が聞こえてきたのだよ」
少し待っていると、誰もいないはずの跡地で何かが泣いているかのような聞こえ始めた。
周囲の気温が下がり、なぜだかうっすらと霧のようなものがあたりを覆い始める。
「・・・・ふむ、やはり『レイス』になった少女の仕業のようなのだよ」
周囲の状態と、似たようなアンデッド系モンスターとしてミャルゲスはその気配を感じ取った。
ゲルガー元帥の孫娘にして、今は跡地となっている孤児院で働いていた少女。
馬鹿な皇子たちによって辱められたその怨念のようなものが、こうして周囲に怪奇現象を引き起こしているようなのだとミャルゲスは推測できた。
「いや、少女その者というよりも想いがレイスとなっているようなのだよか・・・」
レイスとは言っても、姿は一応見ることが出来たりする。
だが、先ほどから聞こえてくるのは泣いているかのような声だけであり、気配はあれどもその姿が見えないのだ。
モンスターのレイスとしても弱い部類に入り、そして本人がそうなったというよりかは、その当時の・・・・辱められた想いが強かったのか、それがレイスと化しているようだとミャルゲスは思った。
きわめて力は弱いものの、うっすらと感じられる悲しみの気持ちをミャルゲスは感じ取り、心に少し同じ様な悲しみを覚えた。
モンスターはこの世界では様々な要因で、ありとあらゆる場所から生まれたりする。
そのモンスターの中でも特殊な生まれ方と言えるのは、死んだ人の死体や怨念等から生まれるアンデッド系のモンスターであろう。
その中でもミャルゲスは最も上位にあたるような・・・・『リッチキング』、別名『死霊の王』としての本能があるのか、その悲しみのレイスを人一倍同情しているのだ。
なお、ミャルゲスの性別は女性なので、正確にはリッチクイーンと言いたいのだが・・・・なぜかそういう種族名になっているからどうしようもない。
それはそうとして、この悲しみのレイスの気持ちに、ミャルゲスはどうにかしてやりたくも思えた。
「・・・『聖光』なのだよ」
レイスの悲しみを振り払ってあげるかのように、ミャルゲスは聖属性の魔法を発動させた。
アンデッド系モンスターは共通して聖属性の魔法が弱点であり、喰らえば昇天する。
ミャルゲスは耐性があるのでほとんど聞かないのだが、この程度の弱いものならばほぼ確実にあの世へ昇天させることができる。
アンデッド系の、さまよえるような者たちの救いの光でもあり、あたりを照らす優しげな白き光。
・・・ありがとう。
そう、ミャルゲスの耳には明るい光によって悲しみが振り払われた少女の声が聞こえたような気がした。
ミャルゲスとて、今はリッチキングというモンスターであるが、元は人間。
何処か放っておけないような今回の事に関して、彼女はそのさまよって残り続けていた少女の悲しみを天へと送り届けてあげたのであった。
アンデッドは様々な要因で生まれるが、人の怨念やしたいというところから生まれたりする。
ミャルゲスも同じような生まれ方で、人からこうしてリッチキングというモンスターになった。
長い年月が経とうが、彼女はモンスターであっても、その人の心が残り続ける。
そして、そこに悲しみというモノを感じたときに、彼女はその迷える者たちを死霊の王として放っておけずに、天へと案内していくのであった。
ついでに後日、実験で再びタウンの一部を半壊させたことについて、またファーストに説教を喰らった上に、やらかし具合から流石にアルも少々怒ったのか「セブンズブレス(聖)(加減して弱め)」のを受けさせられてミャルゲス自身が昇天しかけたのは言うまでもない。
でも一応、公認モンスター同士、そこそこ共存できているのが不思議である。
・・・天へと、悲しみを浄化してミャルゲスは送り届ける。
彼女にも事情があってリッチキングにはなっており、それでいて見捨てることができないのが優しさを残している証拠であろう。
ただし、せめて爆破するようなものなら超内部防爆施設でやってくれと説教はされるようになった。それでもやめないのは、爆発に快感を覚えたせいか、それともわざとなのか・・・・・
タウンを追い出されないのは、一応人の役に立つことはしているし、放っておくと下手すりゃ国が一つドカンっといきそうな不安があるからである。