234 怪談話
ちょっと帝国に関しての後日談になるかな
・・・季節は夏へと移行し、太陽の日差しがそろそろ肌を焼けつくように照らしてくる時期となった。
バンダンガ帝国改め、ネオバンダンガ軍事帝国へと移り変わったようだが、周辺諸国からしてみれば前皇帝の治世に比べて、ゲルガー元帥が執り行う政治形態は付き合いやすいものになっているそうである。
ところで、「帝国」とついたままになっているが・・・・
「皇帝の立場のようなモノになっているんだっけ?」
「ああ、なんかこういろいろあってな・・・」
実際に政治を執り行うのはゲルガー元帥であり、国民の支持も高くて特に問題がないようにも思われる。
だが、見方を変えたら簒奪者のような姿にも見え、もしかしたら文句のあるような者たちがその点でチクチクと地味な攻撃を仕掛けてくる可能性があった。
そこで、一時的にというか、形ばかりの皇帝をいったん置くことになったそうである。
ただ、権力とかは全くなく、ゲルガー元帥が政治の実権を握るのだが・・・・
「その皇帝役に選ばれるって、波乱万丈な人生を送っているなー」
「笑い事じゃないんだがな。あの世へ逝った皇帝の子供でもあり、それでいて権力とかにも欲がなくて扱いやすい立場でもあり、他の皇子たちに比べてまともだったという判断基準で、皇帝(形ばかり)にさせられたんだぞ!!」
ギルドの執務室にて、サイトウが叫ぶさまをアルはくすりと笑った。
まさか前世の友人が皇帝の座につくとは思わなかったためである。
まあ、サイトウ自身もそれほど嫌われてはおらず、名だけ皇帝で普段はギルドマスターとして働けるらしいからそれはそれでいいらしいけどな。
「けどな、各国からの来訪とかがあった時に皇帝の立場として出迎えに行くというのがめんどくさいんだよ!!今まではギルドの事だけで良かったのに、形ばかりでも形式的に必要な行事には引っ張り出されるからな!!」
「でも婚約が決まってよかったじゃん。ヤッタネ今世デモ独身ハ免レルヨ」
「すっごい棒読みだよなそれ!」
形だけとはいえ、皇帝の立場にされたサイトウなのだが、今世ではいまだに独身であった。
このままでは子孫がいないまま、皇帝の座もすたれることになるのだが・・・・それはどうなのかという議論が湧いたそうである。
そこで、現在政治の実権を握っているゲルガー元帥の血筋から娘を引っ張り出してきて、婚約者という立場になったそうだ。
そうすれば、その子供ができたときに正式に元帥は皇帝の血筋に組み込まれることにより、より一層権力などに関しても強固になれるのだ。
・・・・なんか昔の日本の藤原氏みたいだな。摂政・関白に近いのかも。
「でも・・・まぁ、幸いなことにその婚約相手を見ることはできたのだが、まあまだ美人で良かったぞ」
そこはまんざらでもないのか。
ただなサイトウ、ちょっとこっちで調べたけど・・・・・そのお前の婚約者相手ってドSな性癖があるらしいぞ。
絶対尻に敷かれるような未来しか見えないが・・・・・ここはあえて黙っておこう。
なんか面白そうだからな。とりあえずがんばれよ。
アルの心の声は、サイトウには届いていないようであったが、その未来を考えるとどこかあわれにも思えるのであった。
「それはそうとしてだな・・・」
ふと、アルは今日ここへ来た目的を思い出した。
「なあサイトウ、その例の孤児院の話を聞いたか?」
「ん?・・・ああ、元帥の孫娘がいたところか」
・・・・この国が生まれ変わるための犠牲の形となった少女が働いていた孤児院。
今日ここに来たのはそのことについての話であった。
「その孤児院だが・・・確か今は跡地となって建物が取り壊されているんだっけ。そこで最近怪談話があったって本当か?」
「本当のようだ」
孤児院・・・馬鹿皇子たちの手によってなかったかのように取り壊されていたようだが、最近妙な噂が立っているらしい。
なんでも真夜中に幽霊が出る野田とか、周囲の瓦礫が持ち上がって襲い掛かってくるポルターガイスト現象のようなことが起きるとか様々な噂が立っているのである。
その噂の中で有力なのが、馬鹿皇子たちによって無残なことにされた少女の霊の仕業ではないかと言われていた。
なんでも男たちに非道の限りを尽くされたせいか、男性には急所に瓦礫が飛んでくるレベルのモノに対して、女性の時には泣くような声しかしないらしい。
「ギルドでちょっと冒険者からも話に上がっていたが、元帥自ら孫娘の事かと確かめに行ったそうだが・・・・・剃刀が頭部にぶつかってつるりとなったらしい」
「何が起きたのかは察した」
どうも男性恐怖症の霊みたいだ。
そしてつい最近ゲルガー元帥が公の場でスキンヘッドになった理由も判明した。
「そのことでだが、今こっちで居候しているミャルゲスが興味を持ったようでさ、もしかしたらモンスターになって生まれ変わったのではないかと・・・」
「『レイス』ってやつか。というかアル、お前のところに公認モンスターが居候しているってどんな状況なんだよ」
サイトウが呆れたようにツッコミを入れたけど、なんかもう居ついているから仕方がない。
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「レイス」
アンデッド系のモンスターであり、賊に言う幽霊の事でもある。
生前の姿が透けたような感じで目の前に現れ、様々な怪奇現象を引き起こす。
レイスになるのはよっぽどこの世に対して執着があった人がなるようで、デュラハンの成り立ちに近いところがある。
ただし、悪霊と善霊の二種類に分かれており、前者の場合出来るだけ早めの討伐の必要性がある。
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「同じアンデッド系の可能性もあって、ミャルゲスがどうも放っておけないらしくて今晩当たり突撃して確かめてみるのだとか。ただまぁ、俺は男だからほぼ確実に攻撃対象になるのは目に見えているし行くつもりはないけど・・・・ミャルゲスもリッチキングと言われる公認モンスターだ。その力は伊達じゃないから、下手したら吹っ飛ぶという事だけを友人のよしみで伝えに来たんだよね」
「おいちょっと待て。吹っ飛ぶって何があるんだよ!?」
「さぁ?」
こればかりは俺もどうなるかはわからない。
ただ、あのミャルゲスが研究対象として調査に行く可能性がある以上、何らかの事態が引き起こされる可能性があるので、念のために伝えに来ただけである。
いやこの国がどうなろうと別にいいけど、友人の関係で一応忠告をね。
「このことを伝えるためだけに来たからもう帰るな。あとはまぁ、気にしないでくれ。あ、これあげとくわ」
そうアルは言うと、懐から飴玉がたっぷりと詰まった瓶を取り出した。
「最近ゴーレムたちの中で、お菓子作り特化の奴が薬特化の奴と共同開発して作った飴玉だ。ほとんどが栄養剤だが、疲れたときにでも食べれば元気出るからな」
そう言い残し、アルは毎度おなじみ転移魔法でその場を去るのであった。
「・・・・結局あいつ心配事を増やすだけで帰りやがったぁぁぁぁぁ!!」
アルが去ったあと、サイトウはそう叫んだ。
そしてすぐに彼は気が付く。
執務室の扉の隙間からたくさんの目が覗き、そのサイトウの手に持たされたおいしそうな飴がたっぷりと詰められた瓶に視線が集中していた。
この時サイトウは、アルに今度来るときはお菓子じゃない物を渡してくれと頼もうかなと思いながら、怒涛の勢いで迫って来た甘いもの好きの職員たちに埋もれながらそう意識を薄れさせていくのであった・・・・・
なお、こうなることは読めていたが、面白そうだからと言う理由で毎回アルはサイトウにお菓子を渡していくのだ。
いわゆる確信犯という・・・・のかな?
飴玉は職員たちに公平に分配されましたが、回復効果のあったやつだけはサイトウにいくつか渡されたという。