230 たまには冒険者活動
ランSIDE
SIDEラン
「ふーんふふん♪ふーん♪」
ランは適当な鼻歌を歌いながらギルドへ向かっていた。
ルンデバラート国の首都のランダナム、アルが住む「開けぬ森」・・・・最近改名されて「神龍帝の住まう森」となったそうだが、その付近にある首都である。
神龍帝であるアルと結婚はしたものの、専業主婦というわけでもなくたまにこうやって冒険者としてもランは活動していた。
別に冒険者を辞めているわけでもないし、一緒にいてくれるパートナーができたからと寿退社のようなことになるわけではない。
・・・将来的に子供が出来ればまた色々と辞めることもあるだろうけど、夫であるアルもまあいいだろうと思っているので自由にはできている。
とはいえ、話しによるとどうやらまたあの帝国からの面倒ごとの可能性があるそうなので、警戒は怠らなかった。
過去に帝国の諜報部隊とやらに襲撃されていることもあるし、一応アルから色々と防犯用・対不審者用・外道な襲撃者用と様々な道具をもらっているのでそうやすやすと害を及ぼされるようなことはないだろうが、警戒するに越したことはないのである。
「お久しぶりね」
「あ、ランさん久しぶりです!」
ギルドに入り、受けつけのところへランは一旦あいさつをしに行った。
受付の人達はランの事を覚えている人も多く、冒険者として活動している間に結構親しくなれているのである。
また、ランが結婚・・・・それも公認モンスターが相手だという事もすでに知れ渡っており、ギルド内に出入りする男性冒険者や職員たちが血の涙を流していたのは言うまでもなかった。
戦闘が好きでめちゃくちゃ強いという事を除いて普通にしてさえいれば、ランの容姿は美女であり、それなりに男性たちからの人気も高かったのである。
あわよくば依頼などで一緒になって近付いて、そのままお付き合いを・・・と考えていた男性たちにとっては、ランの結婚話、それも相手が自分たちが束になってもかなわない人物だと知ると、皆嘆き悲しんだ。
・・・・その情報が入った日に、酒場の売り上げは通常の3倍以上あったとか。
「依頼で適当なのがないかしらね?」
挨拶をしたところで、ランは依頼が張り出されている掲示板の方へ向き直った。
ランにとっては、出来るだけ戦闘を楽しめそうな獲物となるモンスターが欲しいけれども、結婚している身というのもあり、アルをあまり心配させるような危険な依頼や長期的な依頼を受けるつもりはない。
まあ、ラン自身がかなりの強者だという事をアルはきちんと理解しているのだが。実際に戦闘したこともあるし、公認モンスターが相手でさえなければ、ある程度の強者とも渡り合えるのではないかと思っている。
「『ミストスライムの捕獲』、『チビゴブリンズ討伐』、『タリナ草採取』・・・・結構あるわね」
依頼を見る限り危険な類のものは無さそうである。
・・・・というか、危険な類のは結構遠方の方に依頼の場所があるようだ。
原因として、このギルド周辺・・・・アルが住んでいる森の周辺地域にそこまで脅威となるモンスターが住んでいないからである。
神龍帝という圧倒的な存在を本能で感じ取って逃げ出しているものが多く、知能が低すぎて理解していないモンスターや、もしくはその庇護下に入りたいと思うモンスターが残っている程度だからだ。
なので、ある程度遠くの方じゃないと危険かつ強そうなモンスターが出ないようであった。
そのおかげか、モンスターの数が少ないので商人やらが行き来しやすくなり、最近この首都の発展も目覚ましいものになっているというのもおまけのようなものであった。
「うーん・・・アルに頼んでここまで送ってもらうのもいいけど、今一つな奴ばかりね」
依頼を色々と見てみるが、どれもこれも大したものではない。
いや、たいしたものが出ないほうが安全な暮らしをしたい人にとっては助かるのだろうが・・・・。
「あら?『ギガントアイアンリザード討伐』なんてものがあるのね」
ようやく依頼の中で面白そうなものをランは見つけた。
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『ギガントアイアンリザード』
全身が鋼鉄のような強度を誇るリザードというモンスターの一種。
でかいトカゲの様な見た目で、鋼鉄の身体を毎日起床して1時間かけて磨き上げてから人を襲うという。
その強度ゆえに、生半可な攻撃が通りにくく、また魔法も効きにくいことからミスリルなどが若干含まれている合金の身体ではないかとも言われている。
攻撃手段はその強固な体を活かした体当たりや尻尾による攻撃があるのだが、遠距離攻撃手段がないため、基本的に効きにくいが魔法で遠距離から攻撃を仕掛けるのが討伐方法として一般的である。
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ランの基本攻撃手段は近接戦闘なので、遠距離からの攻撃手段がほとんどないので、普通に考えれば相性が悪そうな相手である。
けれども、ランはなんとなく面白そうだと思ってこの依頼を受けることにしたのであった。
たまには主人公の妻に焦点を当てるのも面白そうかなと。