218 合法ロ・・・・・
圧力がかかりました。主にその本人からの。
本人曰く、見た目を自覚しているのはいいけど、そう言われるのは嫌なのだとか。
新婚旅行二日目にて、宿屋を出ておすすめという観光スポットまで歩こうとしていたアルたちが偶然出会ったのは、このジーポングルの第24皇女であり、現在30代という年齢にして、見た目が幼女のジーポングル=カイレンである。
「というか、30代で第24人って・・・・1人目と親の年齢が怖いな」
その話しを聞いて、思わずアルは顔をひきつらせた。
しかも皇女だけで24人目・・・・皇子の人数も同じぐらい、いやそれ以上にたくさんいそうである。
今は宿屋から出てすぐにあった茶屋で、ついでに一緒にお茶をすることになった。
「妾にはまだ兄弟姉妹がおるからのぅ」
けらけらと笑うカイレンさん。
どんだけその両親・・・・このジーポングルを治めている人は生産的だったのだろうか。
ジーポングルは貴族ではなく大名がいて、その大名たちをまとめ上げるのが皇帝らしい。
でも、「帝国」とかが付かないのはそこまで物凄い権力を持っているわけでもなく、かと言って飾りのような立場でもない・・・・中途半端な立ち位置なのだとか。
そして、その現ジーポングル皇帝は実年齢が何と90代の超高齢の人間。
・・・・けれどもいまだに退位せず、死ぬまでそのまま何とか生きているような状態らしい。
そんな皇帝には36人の皇子と、72の皇女がいるらしく、それぞれ各地の大名の元へ嫁いだり、その皇子皇女自身が大名となって治めていたりして、大名たちを裏で操って結束を高めているのだとか。
ちなみにこのカイレンさんは未婚であり、現在俺たちがいるジーポングルのデジイル地方の領主をしている大名なのだとか。
「まあ、昨日異国の者で変わったやつらがいると部下から聞いてな、こうしてこっそり仕事をサボげふんげふん、休憩の合間に城下街へ出て、せっかくじゃから文通のネタにしようかと思ってきたのじゃが・・・・まさかここでアリス殿とラン殿と出会うとは思わんかったのじゃ。しかも、その婿とか言うのが公認モンスターとは・・・・驚きじゃよ」
ふぅっと息を吐き、お茶が熱かったのか冷ましいているカイレンさん。
うん、話し言葉とかは都市を感じさせるけど、見た目が怖ろしいほど若いよね。
何?この国ってアンチエイジングテクノロジーがすごい進んでいるのか?
「結婚したことを手紙に書いたのですが、まだ届いていなかったのですね」
「当たり前じゃ。文通用の手紙の便は現在少々もめておってな。見れてなかったんじゃよ」
「ん?もめているってどういう事だ?」
何やら面倒そうな言葉だったが、ついアルは質問してしまった。
話によると、この皇女宛の文通便は全皇女にいきわたるようにされている。
中継地点を各地に配属し、すばやく手紙が届けられるようにされているのだとか。
しかし現在、現皇帝が超高齢なので次期皇帝がだれになるのかの情報争いが起きているらしく、その影響が周りに回って、皇女たちの文通用の便にまで影響を及ぼし、文通が滞ってしまう状態にあるのだとか。
「何しろ、妾の父上・・・現皇帝なのじゃが、妻が100人以上おってのぅ、どの妻もそれなりに位の高い大名家からのものであり、皇位継承権が順番通りかと言えば、妻の家の各位によっても差が出ておって、現在皇位継承権争いがものすごいどろどろの底なし沼のようにずぶずぶと深みにはまっておるのじゃよ」
「妻が100人以上って・・・正妻とか側室とか大奥とかって無かったのか?」
「いやそれがのぅ・・・」
なんというか、このジーポングルの歴代皇帝は一夫一妻の人が多く、側室とかの決まりも特になかったらしい。
オシドリ夫婦という事も多く、これまでは特に問題がなかったのだとか。
そして現皇帝だが、この人も別に無能というわけでもなく、各地の問題を解決するために自ら動き、国民にはそこそこ慕われるような人徳者だったらしい。
ただ、この世の中には完璧な人なんていないという事を現すかのように、あちこちから気に入った人と交際しまくり、結果的にたくさんの娘と付き合うことになって、その結果それだけの数の妻を迎え入れてしまったのだとか。
「その為、父上・・・現皇帝は愛称として『色欲大魔神』とまで言われておる」
「それ愛称じゃなくて皮肉なんじゃ?」
本当に国民に慕われているのかその現皇帝は?
物凄く疑わしく思える。
「でまぁ、そこから予想がつく通り、次期皇帝の座を狙う争いが活発化してきて、しかも皇女の方にも皇位継承権があるから姉上たちもざわめきだしておるのじゃよ。妾はそんなものはどうでもよく、自身のいる地方をよりよく治めたいのじゃが・・・・」
はぁっと溜息をカイレンさんがついたときであった。
「カイレン様ぁぁぁぁぁぁ!どこにいるんですかぁぁぁあい!!」
「げっ!!あの大馬鹿者が来たようじゃ!」
名前を呼ぶ声が聞こえた途端、カイレンは顔を青ざめた。
「すまぬアリス殿とラン殿の夫である神龍帝のアル殿とやら!少々かくまってくれぬか!!」
「何があるのかわからんけど、その必死そうな顔でなんか察したから別にいぞ」
鬼気迫るというか、おびえているようなカイレンさんにとりあえず「光学迷彩魔法」をかけてあげた。
アリスとランの文通仲間というし、幼い外見で涙目されたらなんかすごい罪悪感があるからやめてほしい。
姿を隠したところで、その声の主らしき人が人込みから出てきた。
「おいそこの者!!カイレン様を見かけんかっ・・・・・」
青い髪に、透き通るような青い目、身長が高めで和服が似合っているような好青年のようだけど・・・・なんかこっちを見た途端に固まった。
あれ?なんでこっちを見た途端にめっちゃ顔を青ざめているんだ?
「・・・・なんかすいませんでしたぁぁぁぁぁ!!」
「いきなりの土下座!?」
すぐさまその人物は土下座してきた。
何だろう、ものすっごい既視感があるような・・・・・・・・・
「すいません!!本能的に何やらわたくしめの本能が絶対に逆らえぬような高貴なお方だと訴えてきたのです!!」
「・・・まさか、人化したモンスター・・・・しかも、同種族とでもいうべきやつだったとは」
「いいえ!!貴方様のような御方と同種族というにはもったいなさすぎます!!この水龍のヒスイめにとってはもったいなさすぎる言葉でございます!!」
「・・・ドラゴンのモンスターだったのね」
「しかも、アルと同じく人化していた・・・」
目の前にて、現在土下座している相手・・・・・・・・このジーポングルにて、ただいま後ろの方で隠れているカイレンさんの秘書というヒスイが土下座していた。
どうやら珍しく同じドラゴン仲間に遭遇したようであった。
・・・・・そういえば、俺の種族「神龍帝」ってドラゴンの頂点にあたるんだっけ。本能から自然と格上と悟ったのか。
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「水龍」
日本の東洋龍のような・・・体が長細い姿のドラゴンの一種であり、綺麗な水がある場所を住みかとするモンスターである。雨を降らせたりなどの能力を持ち、地方によっては水神とまで崇められているようで、公認モンスター扱いにはなっていないのだが、その能力故に討伐対象ともならなかった。
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「高貴なお方とその奥方たちに出会えたのは光栄なことですが、『そこの者!!』と荒っぽく尋ねて本当にすいませんでしたぁぁ!!かくなるうえはこのヒスイ、ここで切腹いたしますのでどなた介錯をお願いいたします!!」
「切腹するまでやらなくていいから!!」
ものすごいオーバーな人(?)である。というか、ここ一応公衆の面前だからいらぬ騒ぎになるのはまずい。
その為、一旦場所を移して落ち着かせるのであった。
・・・・同じドラゴンの仲間でも、ここまでオーバーなのは正直言って引くな。あれか?水龍だけに大袈裟に泣きわめくのが得意なのか?
・・・・なぜモンスターが大名の秘書をしているのだろうか?
そこに関しては次回ですね。
本当はもう少し落ち着いたキャラにしたかったのですが、カイレンに合わせたら何故かこうなった。なぜ?