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194 戦いはすでに始まっているのだよ

ちょっと前半ズレますが・・・・

SIDEゴーレムタウン


「ふむ・・・・異界旅館ですカ。なかなかよさげな温泉宿へ行くようですネ」



 ゴーレムタウンにある自宅の一室で、ファーストはアルが出かける予定の場所を諜報部隊に調査させ、その報告書類を読んで確認していた。



「温泉・・・効能は『疲労回復、擦り傷、打ち身、ぎっくり腰、子宝、精力増強』などがあるようですネ。その他の効力は『人間:男性限定で増毛、獣人:毛並みの艶向上、エルフ:耳がさらにとがる・・・』などと言った、入る種族によっても変化するのデスカ」



 異界旅館とやらに噴出している温泉だが、その効能は摩訶不思議でわからないようなものが多いらしい。


 貴族とか、他国の王族皇族などにも人気があるようで、さらには公認モンスターの一部も御用達でもあるということも突き止めることができた。



 ついでに、現在タウン在住のミャルゲスも一度行ったことがあるらしい。



「リッチキングだと、魔法の威力増加だったのだよ。温泉の成分は常に変動しているようで、その研究も我の18753番目の中に入れているのだが、データを集めるのが難しくて詳しくはできていないのだよ」

「どれだけの研究を・・・・そして、今日はなぜ物凄く不愉快な姿なのですカ」



 研究区画の、ミャルゲスに与えられた研究室でファーストは情報を得るために来たのだが、目の前に対峙しているミャルゲスの姿を見て、人だったら青筋を立てそうな状態であった。



・・・・ファーストはゴーレム。一応、中性的な造りにされており、平均的ともいえるスレンダーな体形である。


 中身としては女の子のようなところが出ているのだが、その心が叫ぶ。


『今目の前にいるやつは、どう考えても喧嘩を吹っ掛けているようにしか見えなイ!!』と。


 ミャルゲスは不安定な人化を使用し、その外見年齢は結構幅広く、幼女から老女まで一文字違うだけで様々な姿を見せる。


 だが、現在ミャルゲスの姿は大人のような・・・・妖艶さのような、ファーストにはほとんど見られないような凹凸をはっきりさせた姿をしており、ゴーレムだけどピキッと血管から血が噴き出るようないらだちを彼女は覚えた。


 そして学ぶ。これが世に言う嫉妬だと。



 そのミャルゲスの表情はどことなくいたずらが成功したかのようににまぁとしており、明らかにわざとであるのが目で見て取れる。


 ・・・・ファーストだって、ゴーレムだから自信を改造すればそのスタイル以上の体になることは可能だ。


 けれども、それをするとどこか負けたような心境になり、現在進行形で怒りのボルテージが上昇しているのであった。



「あーはっはっはっはなのだよ!!居候の身ゆえに強気にはなれぬが、公認モンスターゆえの常識をぶち破るような、それでいてコンプレックスを刺激するような形で笑えるのは非常に面白いのだよ!!ついでに、現在我の研究に新たに加えたもので『ゴーレムはどこまで人に近い感情を所有できるのか:嫉妬と怒り編』で良い研究ができるのだよ!!」


 思いっきり笑うミャルゲスに、ファーストはすっと手元から薬品が入った試験管を取り出した。


「ん?それなんなのだよ?」

「・・・・フフフ、アハハハハハハハハハハ!!これはアンデッド用の、ついでに言うなればマスター(神龍帝)が以前適当にお戯れとして作成した『超・聖水』デス!!」

「聖水・・・・・・まさかなのだよ!?」


 壊れたかのように笑いながらファーストが言ったその言葉に、ミャルゲスは直ぐに理解した。


「そう!!聖属性の魔法がこれでもかと適当に詰め込まれただけのものですが、マスターの聖属性の攻撃は、公認モンスターのとある方をもうっかり浄化させるレベルデス!!それと同等の代物なので、いかに貴女と言えどもさすがに無事では済まないでしょウ!!」

「すいませんでしたなのだよ!!」


 その説明のすぐ後、一瞬で体を幼くしたミャルゲスは、後世にも類を見ないほどの素早く、なおかつ美しい土下座をして速攻で許しを乞うたのであった。



・・・冷静に考えれば魔法で対処できたのだろうが、ファーストのそのあまりにも狂気じみた気迫にミャルゲスは負けたのである。


 そして、今後一切ファーストに対してスタイルコンプレックスを刺激するまい、とミャルゲスは心に固く誓うのであった。



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SIDEアル&アリス姫&ラン王女



・・・携帯での連絡から翌日、アルは迎えに来たアリス姫たちが乗る馬車に乗って、一緒に温泉宿まで搭乗することになった。


 一応、「空陸両用アリス姫専用車」通称エミューがあるのでそれで移動してもよかったのだが、生憎その異界旅館とやらの場所は全員よく知らない。


 過去に行ったことはあるけど、馬車を運転する業者によってのものなので、正確にはわからなかったのだ。


 一応、諜報部隊に正確な座標を聞いて、そこに向かうこともできたのだが、それだと面白みが少々ない。


 なので、馬車の旅をこの際アルは楽しませてもらうことになった。



 なお、その周囲には護衛の騎士たちがいるが、馬車にはアルとラン王女もいるので正直言って飾りの威嚇用戦力程度の認識である。


 懐かしいことに、アルが初めてアリス姫にあった当時に護衛していた騎士たちでもあり、全員アルに治療してもらった過去があるので恩義も感じており、別に公認モンスターだからとかいう不安をアルには持っていなかった。



・・・・むしろ、アリス姫がアルに恋慕しているのは、城内ではすでに周知の事実のようになっているので、今回のこの温泉旅行にてなんとか関係が進みますようにと全員願っていた。


 騎士たちの中には、アリス姫のための恋愛祈願に、修行をしてきた者もいるようである。



 とにもかくにも、温泉へ向けて馬車が進み始めるのであった・・・・・・・

ファースト(ツッコミ役)ミャルゲス(ボケ役)、案外いいコンビなのかもしれん。

温泉にてアリス姫とラン王女の企みは果たしてうまくいくのだろうか。

ついでに、一緒に楽しい温泉旅行程度だと考えているアル(鈍感)はどう対応できるのだろうか。


・・・いやぁ、ファーストとミャルゲスのコンビってなかなか面白くなってねぇ。相性最悪のように見えるけど、いいコンビだと思える。

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