171 ・・・すまん、忘れていた
エルフたちのところから帰宅するついでにです
「・・・・・えっと、なんというべきかな」
目の前の現状を見て、アルは思わす目をそらしたくなった。
横にいるファーストも、そっと目を横に動かす。
「ボホォォォォォォォ!!」
「「「「バッホォォォォォォォォォォン!!」」」」
「ヒヒィーン!!」
鳴いて逃げ回るボルドと、その背後を物凄い剣幕で追いかけていくバッホーンのメスたちとユニコーンのプラチナ。
その勢いはすごく、なんとなく某巨人が出るアニメのBGMが会いそうな気がする。
「確かもうそろそろ落ち着く時期だったよな」
時期的には秋ももうそろそろ終盤で、冬へと移行する。
バッホーンの繁殖期は秋であり、春に子育てが始まるのだからもうこの頃になるとおとなしくなるらしいのだ。
だが、目の前の光景はその情報が違うことを意味していた。
「どうも満足がいっていないようで、まだまだ足りないと肉食系の本領を発揮したようデス」
「バッホーンって草食なのでは?」
見た目がほとんど牛だけど・・・・って、意味が違うか。
「その事なのですが、どうもこの状況が生み出してしまった悲劇と言うか喜劇デスネ」
・・・バッホーンは本来、メスが生まれることが少なく、大概はオスだけである。
なので普通はオス同士の奪い合いの方になりそうなものだが、バッホーンのメスは人で言うところの超肉食系。
メスがオスを囲って逆ハーレムのような状態を作る。
そのため数多くのオスと交わっていくようなものだが、この牧場にいるバッホーンのオスはボルドのみ。
それ故、本能的にも足りないように感じたようで、さらに・・・・
「ボルド専用の元気になる薬ができて投与されるのを見て、まだまだいけるだろうと考えたようデス。薬の瓶をくわえて迫るものも出ましタ」
限界を超えさせて、天元突破させる気なのだろうか。
それとも某有名なスーパーなんとかみたいにさせるのだろうか。
少なくとも、一つ言えることとすれば・・・・
「バッホーンのオスを見つけるという目的、忘れていたなぁ」
エルフの村に行くことに途中ですり替わって、すっかりこの心配をすることを忘れ去っていたよ。
すまんなボルド、忘れていたぜ。
「そのことですが、ギルドで以前情報募集及び捕獲依頼を出しましたヨネ?」
「ああ、していたよな・・・・まさかオスが見つかったのか?」
「バッホーン!?」
その言葉が聞こえたのか、近くまで駆け抜けてきたボルドの顔が希望に輝かせる。
「それが・・・バッホーンの目的としては肉ではなくミルクだと勘違いした方がいたようで、オスが大半狩られたそうデス。メスばかり捕獲されて、オスの方は根性で遠くの方に逃げて現在行方不明」
「つまり・・・」
「はい、オスの減少に伴い、来年の秋の前ぐらいまでは捕獲不可能なようデス。来年なら確実にできるでしょうが・・・今すぐにオスの捕獲はちょっと不可能デス」
つまり、オスが減少した上に近くから逃亡を図って、現在群れの数そのものが減ってうかつに捕獲はできないようだ。
「バッホォォォォォォォン!?」
その言葉が耳に入って、絶望顔をボルドが浮かべ、涙が滝のように流れだす。
その背後の方に、ギラリと目を輝かせて迫るメスたち。
その気迫によろめかされたのか、ボルドがこけ、一旦走るのが止まってしまう。
体勢を立て直した時には・・・・・もう、追いつかれてしまっていた。
「・・・・ボルド、骨は拾ってやるからな」
「骨が残るでしょうカ・・・・?」
目の前で行われる壮絶な女の戦いに、アルとファーストはそっとその場から離れ、心の中で手を合わせた。
後ろを振り返ってはいけない。悲しい光景なのだから・・・・・・
「バホォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォン!!」
なんでだろう、その悲しみに満ち溢れた鳴き声がこだまして、涙が出て来たよ・・・・・・
「って、マスターも他人事ですかネ?」
「え?」
バッホーンのところから離れ、家に帰ろうとしたところでファーストがそう呼び止めた。
「どういうことだ?」
「マスターとて、つがいになりたいような相手を定めないと・・・・将来的にあのような末路をたどりそうなのが目に見えているんですヨ。・・・・天然女たらしダシ」
「おい、何か今ひどいこと言わなかったか」
「イイエ何も」
絶対今何かぽつりと小さな声でつぶやいたよね?
「とは言ってもなぁ・・・・いやまあ、そう言うことに興味がないわけではないけど・・・」
「マスターは公認モンスターですヨネ。この間のエーゼット王国の一件でその情報は世界中にさらに拡散していマス。いい加減身を固めないと、何処からか嫁がせるから守ってくれとか、国を攻めてくれなんて言いかねないようなことが起きますヨ!」
びしっと指を突きつけられ、なんか説教された。
主人が配下に説教されるとはこれいかに。
と言うかファースト、なんか顔赤くない?もしかしてバッホーンたちの影響をなんか受けてないか?
「でも、俺はまだこの世界に生まれて1年と数カ月ほどだぞ?」
来年の春で2歳という計算になるのだが・・・・人化したこの身体は変わらないとして、人化解除時、神龍帝の姿は今なお成長中だったりする。
「ドラゴンの事について調べてみましたが、どの種のドラゴンでもそろそろ繁殖が可能な時期なるようデス。この際身を固めたほうがきちんと周辺諸国の心の安全になっていいですヨ」
生々しい言い方だなおい。
・・・・でも、そういわれるとな。中身としても、時期的に考えることになるし。
なんとなく保留にしておくも、そのことはきちんと考えておくべきか・・・・。
同じ公認モンスターでも、ゼノは奥さん持っているしね。
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アルが自宅に帰った後、ファーストはタウンでの仕事を終わらせ、自身の休息へと入る。
「・・・・そもそもすで好感を持ってる人がいるでしょうガ。鈍感マスター・・・」
ぽつりとつぶやきながら、自身の休眠へ移行する。
ゴーレムとは言え、成長し、心ができているファースト。
その形成された心は、どこか寂しいようなものを持っていたのであった・・・・・・・・
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「はっ!?今何か嫌な予感が!?」
「・・・奇遇ね、私もよ」
同時刻、王城にて。
アリス姫と、泊りがけの遊びに来たラン王女が互いに何か乙女の勘的なもので感じ取った。
なにかこう、また増えてしまったかのようなそんな感じで・・・・・
悲しいけど、これって現実ですよ・・・・・・。ボルドよ、強く生きてほしいと書いている作者本人が思えてしまうのです。
ちょっと掃除していたら見つけた短編。せっかくなので少々手直しして出してみました。
http://ncode.syosetu.com/n4499dv/ 「モンスターズ!!」
短編だし、古い奴なのであまり面白くないと思えるかもしれませんが、気になったら読んでみてください。